2002年8月10日〜25日 
宮城 登米郡 河南町〜福島




のんびりしていても、忙しくしていても月日はまたたく間に過ぎてゆく。ここは、佐々木さんという自然農を16年やられている方の畑の家だ。縁あって、10日の夜からこの家を借りて、6才の八星と二人で夏休みを過ごしている。
11日には、岩手の花巻から友人のアンソニーが車を貸しに来てくれた。八星がしばらく遊べるように絵本やおもちゃも車に積んで。5才のダニエルくんと八星が夢中で遊ぶ声は、静かな畑の家に活気をもたらし、わたしはしばらく振りのアンソニーと深夜まで話しこんだ。12日アンソニーたちを古川駅まで送って、17日に岩手に車を返しにいくまで、ここ河南町で八星と自分なりの日常を過ごした。半年も続いたコンサートツアーの疲れを癒すには日常生活が一番。でも、今回のシングルマザーの日常は、ちょっと慣れなかったな。マンツーマンでこどもと向き合うのは、やっぱり大変。近所に繋がりが欲しくなる。でも、わたしにとって自分で車を運転して動くということは新鮮なことで、友人と花火を見に待ち合わせしたり、21日のコンサートの打ち合わせに出かけたり、温泉へ行って、そのまま八星と深夜のスーパーをぶらぶらしたりして気ままに過ごした。これは都会の気ままな日常、と自覚しながらも。少し元気になってきて好きな音楽を聞きながら麻ひもとビーズでアクセサリー作りにハマッた。

17日、花巻まで車を返しに行く。その夜は有機農業をやられている入江さんの畑でバーベキューパーティーがあり、待ち合わせたアンソニーに先導されて到着。思い返せば1年前、コンサートでここまで来て、同じ日、同じパーティーに参加したんだった。八丈で芝居をやっていた宮部さんと思いがけずここで再会。宮沢賢治の里に移住して1年になるという。太鼓と歌のセッションをする。

翌日は賢治記念館で賢治の生誕祭のイベントがありアンソニーの計らいで20分ほど飛入りで歌わせていただく。野外の大きなステージは気持よかった。歌に反応するのは人だけではない、目の前に拡がる山々が一緒に歌ってくれた。この日はアンソニーのお蔭で来月末のコンサート主催者たちと次々にいい出会いをした。実はコンサートのスケジュールを組んでいく元気が、このところわたしになかったのだ。どこにも所属することなく自分自身で好きな仕事をできていてありがたいことだが、こどもを連れて旅をしていると、こどもたちのことがおろそかになってしまい、それが心の負担になってスケジュールを決めてゆくことができなくなっていた。
また、カリフォルニアに一度、戻ろうと思いつつ、時期を決められない。この10年で、できあがっていた家族の生活や音楽活動の流れを一度、崩して、改めて自身の心に忠実な流れを組み直している今、決める前にタイミングを待ち、家族の流れを観察し、内観する作業が必要。はっきりしない時期は苦しいな。自分が心もとない。

そんなわたしをアンソニーはあちこちへと案内し次への流れを運んでくれた。そうか、次は東北ツアーなんだな。この時は家族一緒だ。自分がすべてを決めてゆくわけではない。前へ進めない時は周りに自分を委ねてもいいんだな。友達ってありがたい。
アンソニーから元気をもらって呪縛のようなものが解け、ミュージシャンとして自発的な動きを再開。畑の家に戻ってから、地元の音楽家たちを招いて練習。初めての音合わせの3人と、すぐ打ち解けたのは音楽の力。21日の宮城でのソロコンサートはこのメンバーに手伝ってもらい総勢4人で演奏。ウッドベース、リコーダー&サックス、ギター、にわたしのバイオリンと歌。50人ちかくのお客さんもコンサートを楽しんでくれたようでよかった。
22日からは福島のバク原人村の満月祭に参加。ここは人里離れた山の中に開けた素敵な村。わたしはひそかに日本のエルクバレー(カリフォルニアのわたしの住む山)と思っている。日ごろは2家族だけが暮らしているが、毎年夏に満月祭があり400人以上の人たちがキャンプインし、野外ステージでは深夜までコンサートが続く。ドームハウスではジャンベやダンス、地域通貨などのワークショップがある。つめた〜い川も流れていて水浴びができるし冷たさにひるまなければけっこう泳げる。

わたしは22日と24日の夜、歌った。何人かの素敵な音楽仲間のサポートに恵まれ、音響も照明も丁寧で、山の気に満たされ幸せだった。また、23日と24日の夕方のセレモニーを担当させていただいた。シンプルに輪になって手を繋ぎ、ともに祈ることが祭りの質を高めていくような気がする。今年はこのサークルのための簡単な歌を用意し、みなで手振りもつけて歌ったが、来年は簡単なダンスと歌を用意したいなと思ってる。フォークダンスなんだけど、うんと親密なやつ。祭りの時くらい純粋に祈り、ひとつになれる遊びをしたい。今年は祭りの主催者、マサイが沈黙の祈りの後ジャンベや竹をたたくなどリズムに祈りをこめ一体になってゆくという試みをした。リズムは次第にひとつのうねりになって、再びサークルを作り静寂に戻った時、空気が変わっていた。シャニンの祈りの歌が気持よく輪を満たした。
バクの満月祭は来年は8月13日の満月を最期の夜に組むそうです。よかったら予定に入れてみてくださいね。

バク原人村(問い合わせ 風見) 福島県 双葉群 川内村 下川内遠山1