2002年5月11日  オーストラリア・ブリスベン



 

 今日はブリスベン、サドベリースクールは休日だ。おとといの夜、ブリスベンの空港からサドベリースクールのデレクさんに迎えてもらい、きのうは一日、サドベリースクールの中で過ごした。あと3日、私たち家族はスクールハウスに泊まることになっている。
 サドベリースクールは、子どもの自主性を最大限に尊重する学校だ。
 ここブリスベンで、6年前にこの学校を始めたデレクさんとジョーの夫婦には5人の息子がいて、公立の学校のあり方に疑問を持ち、子どもの幸せを考えた結果、山の中、自然の豊かな土地で学校を始めることになった。
 四駆の車でないと走れないデコボコ道は私たち家族にはおなじみ。広い土地にスクールハウス、トランポリン、ツリーハウス、畑がある。朝8時を過ぎた頃から、子ども達がスクールハウスへ通ってきた。数ヶ月前から学校で寝泊まりしている14才のスコットが嬉しそうだ。やってきた子たちの年齢は様々。4才〜19才までの子ども達が22人。スタッフは5人。年齢もバラバラの子ども達は、テレビゲームやトランポリン、おしゃべりやたわいもない遊びに日常と変わらず入っていく。スタッフは各々に仕事(ペーパーワーク)をしていて、時々子どもと会話をしている。
 山の静けさになじんでいる私には、テレビゲームの音、ギターや笛が同じ空間に混然としているのはたまらない。あまちはテレビゲーム、八星はトランポリンにはまっているので、私も私の居心地のいい場所を見つけることにした。デレクの長男、イザックは1日キャンバスに向かい、美しい絵を描いている。
 見渡す限り緑の広がる庭の大きな木、モータンベイフィグトゥリー(まるで木の枝が何本もからみついて太い木になってるような姿)の下にテーブルを運んで、私はHempとビーズで販売用のアクセサリーを作ることにした。
 庭にはアヒル、ニワトリ、羊が放し飼いになっていて、いかにものんびりと草を食べ、水浴びし、そして時折ビーズ細工にはまってる私の足元までやってくる。動物たちの自由気ままな様子と、子ども達が自由に一日を過ごす空気が完全にマッチしている。
 昼ご飯は各々にキッチンで料理をし、食べている。キッチンを使うきまりなどは細かくて、キッチンを使い始める時、名前と料理の内容を書き込むようになっている。きれいに片づけ終わったら、sign out の時間を記入する。食べるのはキッチンかベランダ、外と決められている。そうでないとたいへんな汚れになる‥‥とジョーの弁。
 ところで大人がなにも指示しないこの日常が、なぜ学校なのか、きっとみなさんは疑問を持たれることでしょう‥‥。サドベリースクールに関する本が出版されているので、詳しくはそちらに譲ることとして‥‥、私の感じた限りでは、人間は子どもも大人も自らを成長させてゆきたいという強い学ぶ欲求を持っている。そしてその学ぶ内容は、一人一人が違っているということを基本としているこの学校が、たいへん居心地がよく、ありのままでいられるということです。
 私はここで、時間があったらやりたいなと思っていたことを今やっている‥‥。そういうスペースだからね。14才のスコットにギターを教えてもらったり(ロックンロールの弾き方とかね)、気ままに歌ってセッションしたりしている。そうすると15才のシャンテとか、もう少し幼いかんじの女の子がギターを持ってそばにやってくるんだけど、彼女たちは今のところ限られたフレーズしか弾けないから、彼女たちの限られたフレーズに場を譲ったり、合わせてみたり、笑ったり、ということになる。楽器の好きな子はしょっちゅう音を出している。ちっとも上手じゃないけど、ヤギやニワトリが鳴くみたいに、一日、時々、思いだしては、たいていは同じように聞こえる彼女の音を出している。混然としたスペースの中で。
 だから私もいつのまにか、ラジカセやテレビゲームが鳴っていても平気で歌を口ずさんだり、ギターを鳴らしたりするようになった。
 ありのままでいいんだ。ありのままで今を生きることで、ちょっとづつ進歩していくんだと、そんなことを今、ブリスベンのサドベリースクールで感じている。
 ちなみに9才のあまちはテレビゲーム。6才の八星はトランポリンを、1日に何度もこころみている。そして少しづつみんなと仲良くなってきている。
 ところでこの学校も、創立以来6年たち、親とのミーティングや子どもとスタッフのミーティング、あらゆることが大人も子どもも同等の権利で充分な話し合いをし、みんなが気持ちよく過ごせるような、みんなの作るきまりの元に運営されているそうですが、去年は学校を閉めなくてはならない‥‥というような危機もあったそうです。
 現在、子ども達は週にオーストラリアドルで$35を授業料として払っていて、それはプライベートスクールとしては高くないとジョーは話してくれました。でもそれは、政府から私立学校として認められ予算がおりて可能な額。ところが去年はその認可がストップしてしまい、やりくりできなくなった時期があったとのこと。
 「デレクは驚くべき人よ。彼は最後まであきらめず、ねばり強く話し合い続けた。政府は、子ども達を机に向かわせて、一定の教科を教えているということでなければ、学校として認めないと、話し合いは成り立たなかった。でも私たちの信念は揺るがなかった。私たちはあきらめず、交渉を続けたのよ」

 5月10日、昨夜はパーマカルチャーのコミュニティー、クリスタルウォーターのカフェで歌った。カズは風邪で声が出なくなってしまい、急きょ私ひとりでカズのギターで歌うことになった。カフェの雑然とした会話の聞こえる中でノーマイクで歌うのは、ましてや英語で自己紹介などしつつ、場を作っていくのは苦手だなあ‥‥と思いつつ始めたが、音楽をはじめたとたん、会話が止んで、扇型にひらいた木のデッキの中心に立つ私にみんなの気が流れてきた。この日の聴衆はたいていはクリスタルウォーターの住人。そこにサドベリースクールのスタッフ&子ども達が混じってる感じだったかな。クリスタルウォーターには200人の住民がいるというし、来週も同じ場所で歌うことになっていて、住人達とのジャムセッションも場所を移してやろうと誘われた。 
 カフェの隣にはパン焼き小屋があり、そこでパンを買って満足しきった顔のデレクたちと学校へ帰る。来週は5日間、クリスタルウォーターに泊まることになっている。自分の来たかったところになぜか確実にやってきていて、今はその一員として動いている不思議。デレクさんに会わせてくれた高砂、大阪のみなさん、そしてクリスタルウォーターの情報をくれたタマちゃん、カナちゃん、ありがとう。