2001年2月14日  八星、初めての幼稚園

 



今日も一人でけいこ宅に来てパソコンに向かっている。うららかでいい天気。昼すぎ
けいこ宅に向かって見晴らしのいい丘を歩いた時、その空間の広がりと自分が自由で
あるという事実に気がついて喜びを感じた。だれもが本当は自由なのだ。一瞬、一瞬
をどう生きるかはその人の選択にかかっている。朝はラウンドハウスで目覚め、あま
ちの大好きなクリームシチューをたっぷりと作ってきた。1週間後には山を出て、日
本にむかうので荷物の準備や身の回りの整理に忙しい。でも、あと半年はこの家に帰
ってこないかと思うと名残おしい。ワインやリンゴの天然炭酸ジュースなど買ってき
てあるので今夜はみんなで乾杯でもしようかな。
 
明日はサンフランシスコまで出かけ数日帰らない予定だ。翻訳家の山川こうや&亜紀
子ご夫妻のお話会が16日にあり、そこで歌うことになっている。山川ご夫妻が訳さ
れた本で最初に出会ったのは東京で暮らしていた学生時代で、女優のシャーリーマク
レーンの書いた自伝”アウトオンアリム”だった。妻子ある人と恋に落ちてしまった
シャーリがその出会いを必然的なものとして受け止め、それをきっかけに精神的な探
求の道にはいっていく過程が書かれていて面白かった。目に見えない世界に対して目
が開かれていったのは山川さんたちの訳された多数の本をきっかけとしてきたから、
とても感謝している。今、こうしてアメリカに暮らしているのも彼らが訳された本が
刺激になって、直感や内面の動きに従うように変わってきたからだ。お会いできるの
が楽しみ。

さて、昨日は家族みんなであまちが週1日、通っているチャータースクールlavilaへ
行って来た。次男の八星も先週から幼稚園の部に参加しはじめたのだ。チャータース
クールというのは、公のお金で親が主体になって作っていく公立学校のこと。あまち
が学齢に入った3年前、ukiahでも設立され、シュタイナー方式であると聞いて、参
加することにした。シュタイナーは既に亡くなったドイツの人だが、彼はそれぞれの
こどもの魂の要請や成長の段階に応じてこどもを導いていくのが教師やの仕事だと説
いている。頭につめこまず、感覚を豊かに広げていく独特のメソッドは、わたしもこ
んな学校で育ちたかったなという想いを引き起こさせる。ukiahには現在、週5日制
のシュタイナー方式のチャータースクールがあり、友人のこどもたちが通っているが
、わたしたちのこどもたちの参加してるのはホームスクーリングの部でlabilaと呼ば
れている。lavilaはcalpelaからwillitに今年から移動した。週に1〜2日だけ学校
で過ごし、基本的な勉強は家の生活の中で、というやりかただ。

去年までは、ラビラはカルペラの公立小学校の一部屋を借りていた。教室というより
はメルヘンの部屋のようなキッチンも遊びの部屋もしつらえてあるその部屋から一歩
出てしまうと、ふつうの四角い箱みたいな教室ばかりで世界の落差が大きかった。こ
としはウイリッツの自然の豊かな一角にあるコミュニティーの建物全体を借りること
ができて、スペースもゆったりし、授業などがトータルにコーデュネイトしやすく、
こどもにも大人にも居心地がよくなった。
 先週、わたしは八星の初めての幼稚園に付き添った。英語のしゃべれない八星が固
くなって教室に入ると、やわらかなメルヘンの世界が待っていた。奥は淡い色の薄布
で仕切られた遊び部屋になっていて、ドングリや貝、着替えの衣装などが編んだかご
の中にいれてある。部屋の四隅には手作りの人形や木のおうちやくれよんやパズル、
絵本などがおいてある。その部屋のまんなかで子どもたちが9人、色鮮やかな緑のド
レスを着た先生のまわりにまるくなって座り、歌をうたっていた。
 この日は、朝のおやつをみんなで食べ、ゲームをし、散歩して、お弁当を食べて終
わり。穏やかで声を荒げることのけっしてなさそうな先生に何度も優しく声をかけて
もらい、八星も安心して遊びに参加できるようになった。ダニエルという男の子と手
をつないで外を走ってるのを後ろから見守り、わたしも嬉しかった。

八星は思ったことをそのまま口にする”八星はクリスマスと誕生日とルナちゃんと遊
んでる時以外は面白くない。”と最近何度か八星から出てきた言葉がわたしには気に
なっていた。。ルナちゃんと友人の子供で週に一日一緒に遊ぶ仲良しの友達だ。八星
は朝から眠るまで、なにかに夢中になって遊んでいて、けっして家でも退屈している
風ではないのだが、なにかもっとたのしい世界があるんじゃないかと感じはじめてい
るのかなと推察していた。

そして、2週目の昨日は八星の付き添いを和生に任せて、わたしは学校のオフィスで
自分のノートパソコンをインターネットに繋ぎ、せっせと返信に精を出した。今は日
本とのやりとりが多く、週に数回、町でインターネットに繋ぐ限られた時間では全部
には返信しきれなくなっている。山の自宅には電話線がないので繋げない。いつもは
ルナちゃんのいる町の友人宅で八星を遊ばせ、わたしはパソコンに向かうのだが、数
週間前からルナちゃんは幼稚園に通い始めた。いいきっかけができて、わたしたちは
新しく自分たちの場所を開拓したわけだ。学校のオフィスには、キッチンがあり、そ
こではひとりのお母さんがクッキーを焼いていた。すみのイスでは二人の母親がおし
ゃべりしながら編み物をしていた。わたしは、コンピューターと電話、fax,コピーマ
シーンの並ぶテーブルに自分のパソコンをセットアップして自分の仕事に集中した。
親、先生、生徒が自由にこのスペースに出入りし、リラックスしてマイペースで憩っ
ている。途中で、八星のクラスのみんながやってきて、クッキー作りに参加し朝のお
やつの時間を過ごしていった。この時、和生も付き添って来たので、タイミング良く
、メールの返信内容について相談した。こどもたちは、焼いたクッキーを持って列を
作り、隣の部屋をノックしてあまちたちのクラスへ行き歌を歌ってクッキーを上級生
にプレゼントしたようだ。クッキーを焼いてたお母さんは朝のおやつの当番だったわ
けだ。来週は日本に行く前の最後の機会なのでわたしがおやつ当番を名乗り出た。さ
て、なにを用意しようかな。

たった3回の幼稚園体験になるわけだけれど、わたしにとって一日が貴重なように、
こどもたちにとってもそれは貴重だ。そのときそのときの流れの中で精一杯の日々を
作っていきたい。そしてこの1日がまた次の新しい一日を運んでくる。