ポンの近況

桂川救援運動とアナナイ詩

《 4 控訴審が開始された 04.9 》


裁かれるのはどっちだ?! −控訴審第一回公判傍聴記−

桂川救援全国勝手連 代表
ポン 山田塊也

 わが国の大麻研究の第一人者としてアングラ世界では知る人ぞ知る桂川直文君は、昨03年7月近畿厚生労働省麻薬取締部によって逮捕され本年4月大阪地裁にて「懲役5年罰金150万円という大麻事犯ではかつてない重刑判決を受けた。一人の被害者もなく、多くの人々に夢と希望と幸福と、そして健康を分かち与えた大麻の栽培と譲渡が、殺人罪並みの重刑に値するとは一体どういう理屈なのか。判決文に曰く「大麻の有害性が否定できないことは公知の事実といえる」だと。

 この裁判官や検事は最近の書籍やインターネットに溢れるヘンプ・ブームやマリファナ情報など一切シャットアウトしているのだろう。彼らの”公知の事実”とやらは数10年来の思考停止状態にあるようだ。現今大麻が有害だなどという若者はいないはずだ。

 「この裁判は被告が原告を裁く裁判になるだろう」と、被告桂川君は勝手連への手紙の中で予告した。その控訴審の初回公判が9月8日、大阪高裁で開かれた。

 公判前日、私は安曇野のクマ(窪田明彦)と共に大阪拘置所を訪れ、囚人桂川君に面会した。4月の再勾留後、スキンヘッズにしたという頭髪もすっかり生えそろい、表情もおだやかになって、今や雑居房の牢名主の風格さえ感じさせた。我々に次いで丸井英弘弁護士が面会し、入念な打ち合わせを済ませた後、その夜は台風接近のさなか、天満のお好み焼き屋で支援集会を開き、鳴り物入りの詩の朗読などで大いに盛り上がった。この高揚したボルテージは翌日の法廷にまで持ちこされ、定員40名の傍聴席はほぼ満員となった。

 開廷2時30分、黄色いTシャツに腰紐を巻かれて入場した桂川被告にも、傍聴席のバイブレーションが伝わったに違いない。いざ決戦の緊張のためか伏目がちに被告席に着いた桂川君ではあるが、権力のウソとペテンを論破する静かな自信に満ちていた。間もなく3人の裁判官が入場、初老2人、若者が1人、検事1人に弁護人が2人。全員起立して敬礼。制限時間は1時間。事務レベルの話が延々45分。弁護士側の証人申請はことごとく検事側が不同意。ただし裁判資料は丸井弁護士の著書やビデオなど全て受理。そして被告の本拠地である信州安曇野地方の住民197名による「減刑嘆願署名」には検事がケチをつけたが、「まだ100名くらい集まるそうです」という弁護士からのおまけがついて受理された。

 今回のハイライトはラスト15分間の弁護士による被告人質問だ。最初は10年前のアムステルダムの大麻コンクール「カナビスカップ」に、審査員として参加した時の話から始まった。そこで品種改良された先進国のハイブリッドを吸って、その高品質に驚いた桂川君は、わが国の後進性を痛感したとのこと。そこで東京の厚生省麻薬局を訪れ、わが国の大麻研究の状況を尋ねたところ、厚生省はもとより、誰にも研究はさせていないという事実を知って驚き、自ら志願して翌99年に栽培免許を得て研究を始めたという。更に2002年にスイスのベルンで催された産業ヘンプの国際見本市「カナトレード」を視察した桂川君は、そのレポートを雑誌「スペクテーター」に発表してヘンプブームの到来を告げた。

 わが国に上陸したヘンプ・ブームは若者のファッションから日常生活の多様な方面にわたり、今や大麻の旧生産地の元生産者たちを鼓舞して、村興し、町興しのヴィジョンともなった。今夏は被告の本拠地である信州安曇野地方は美麻村で商工会主催のヘンプ産業見本市「美麻フェスティバル」が開催された他、高知県などでも同種のイベントが開催されている。今後産業大麻の復興は長野県を最前線として日本列島を席捲してゆくだろう。そして国立信州大学の農学部では、ついに本年度より大麻の研究が開始されたのだ。

 資源小国の日本が麻の茎や実まで輸入している現実はどう考えたって馬鹿化ている。北海道では毎秋野生の大麻が大量に焼却処分されているのである。

 桂川被告のコトバに無駄はなく、考え抜かれたコトバが淀みなく淡々と語られ、全員が引き込まれるような話し方だった。特に傑作だったのは、取調べの状態に対する質問に答えて「11年前に長野県警にパクられた時、警察は大麻のことは何も知らず、法律で決められているのだから悪いものは悪いというだけ。ところが今回の麻取りは誰一人として一度も大麻が悪いとは言わなかった。彼らはプロとして大麻のことはよく調べ、海外の情報にも通じていて、なかには私より詳しい人さえいた。彼らのほとんどが大麻を体験しており、それがタバコや酒より害のないことも知っている。なかには大麻を吸ってレゲェバンドをやっていたという人もいた」という発言である。

 これに対して金井塚康弘弁護士から「大麻を吸ったことのある人かどうかは分かりますか?」という質問があり、被告が「話をしてみればすぐ分かります」と答えた時、若い裁判官は微笑して頷いていた。そこで被告は「麻薬取締官たちの言うには『我々は大麻の無害なのを知っている。しかし我々の仕事は例えどのような法律であれ法に違反した人間を捕えて取調べることであり、それが良いか悪いかを決めるのは裁判官の仕事だ。だから我々もあんたがどう裁かれるのか興味をもって見ているよ』と言っていたと麻薬取締官たちの実態を暴露した。

 麻薬取締官が大麻の情報を集め、ガサ入れで押収した最高級の大麻やハッシシーを吸っているだろうことは想像に難くないが、それが真実のみを語ると誓った法廷で被告の口から公言されたのは初めてのことだろう。それに対して検事側から一言の反論もなかった以上、これは”公知の事実”となるだろう。かくて「大麻=無害、大麻取締法=悪法」という事実を知りながら麻薬取締官がそれを検察庁に教えないため、思考停止状態にある検事と判事は、数10年来の”公知の事実”によって、殺人罪並みの重刑を課するというアナクロニズムに陥っているのだ。

 しかし今回、桂川被告の口からその事実が公表された以上、検察庁も法務省も”公知の事実”の誤りを認めるしかあるまい。控訴審に何を望むかと問われた被告は「”公知の事実”などという人をばかにしたような言葉ではなく、もっと納得のゆく言葉で説明してほしい」と答えた。司法官僚の道義的責任と自己欺瞞が今後厳しく問われるだろう。

「最後に何か言っておきたいことありますか?」と丸井弁護士が尋ねた時には、もう制限時間が切れていた。「言いたいことはいっぱいあります」という被告の声を裁判長はさすがに無視できなかった。そこで弁護士の要請に従って、被告人質問は次回10月13日に持ち越されることになった。普通控訴審は1回で終わると言われているから異例の第2ラウンドである。押せ押せムードの中で退場する被告の背に、傍聴席から拍手が上がったが、裁判長のおとがめはなかった。

 公判後、弁護士会館において2人の弁護士を囲む説明会があった。今回の40名近い(赤ん坊、幼児含む)の傍聴人は関西在住の麻の民の他にも、東京からは一審の救援活動を担当した麻生結氏と「カンナビスト」のメンバー7人、桂川事件に関連してパクられた「大麻堂」の前田耕一氏やラバーズのメンバー、カンナビストに替わって控訴審の救援活動の中心を担うことになった地元安曇野勝手連のクマと、全国勝手連のポンなど、多種多様な麻の民が集結した。長らく分裂し、反目し合い、群雄割拠の感さえあった「フリー大麻」運動は桂川弾圧を機に、控訴審に向けてついに大同団結にこぎつけたのである。この獄中と獄外をつないだ共同戦線は、世界的なヘンプ・ブームや「マリファナ・マーチ」などの勢いに乗って大麻解放へ向かって大きく踏み出すだろう。それは麻の民のボルテージを一気に上昇さすに違いない。
(*イラストは右:丸井弁護士、左:金井塚弁護士)

 獄中者の救援とか、獄中闘争支援というのも物の言いようであって、実は桂川氏の不屈の信念と情熱に救援され支援されているのは、シャバの雑事と時代のニヒルに流され、溺れかかっていた我々の側ではないのか。

 暴力と陰謀が世界を覆い、物質文明末期を迎えて悪化する環境と劣化する人類。金満日本によって失った心の空虚を襲うまたぞろ日の丸ファシズム、追いつめられる市民運動のなかにあって治安維持法化する大麻取締法を粉砕し、アメリカの影から脱出するべく、ヨーロッパ並みの大麻非犯罪化、合法化への道をたたかう麻の民。「弾圧が強まる程に連帯の絆は深まる」という格言もある。桂川氏の身に集中した弾圧の痛みが、いま全国の麻の民を決起させて「フリー大麻」の運動は活性化してゆくのである。これが「麻の仕組み」であり「人民の力学」というやつだ。 (『アナナイ通信・創刊準備号』所載)



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 9月17日から3日間、四国土佐中村にて「オープン ヘンプ ギャザリング」というイベントが催され、丸井英弘、中山康直、赤星栄志などヘンプ系の諸氏が参加。主催者の本宮裕邦君(キンドー)は数年前までは安曇野に住み、桂川グループの一員だったこともあって、私も参加したかったのだが体調がすぐれず、直後に催された伊予しめが浦のイベントに2日間だけ参加した。こちらは昨年の「太陽と月の祭」にも参加しているので大半が顔なじみ。そして「88いのちの祭り」以来の懐かしい問題児にも再会した。

      修  羅

        ウルセー キサマラ ナメンジャネ―――!
        大声で歌っていた50男が 突然
        ギターを投げ出して 立ち上がった
        一瞬 ラヴ&ピースの渚に 緊張が走る
        まるで楽園に乱入した野獣のように
        このところあちこちの祭りに登場して
        修羅を燃やす 中年ヒッピー
        「またか オッサン いい加減にしてくれよ」
        陽気にはしゃいでいた若者達が
        異口同音につぶやいて 黙りこむ

        オレハ ナニモカモ キニイラネーンダ―――!
        長いひきこもりから 脱け出して
        昔なじみの祭りに参加してみたが
        自分の出番も 場所も見つからず
        アルコール無しの幼児退行でわめき散らし
        出刃包丁をふりかざして若者を追いかけ
        海にとびこんで 頭を冷やした
        「あゝなっちゃ お仕舞いだな・・・・」
        ヒッピージュニア世代の反面教師になって
        黄昏のフリークは海の中で さめざめ泣いた
    
        コドモタチノマエデワ ドナルナ―――ト 昔
        ポンカラ言ワレタ事ワ 忘レチャイナイゼ――だと
        バカな奴め あの頃の子供たちが
        今ここにいる 若者たちじゃないか
        おまえのそれは不治の病なのか?
        オレダッテ治ソウト思ッテ反省シトルダ――
        暴力は出るのか?
        ソレガ ヤッパリ出ルダヨ―――
        暴力が出るようじゃ 身の破滅だぜ
        おまえ まだまだ吸い足りないんだよ
     
        夕陽を浴びて 寄せるさざ波
        おれはふと 宅間のことを思った
        ガンジャも知らずに あっさり死刑にされた
        子殺しの修羅のことを
                
                    04,9  伊予 しめが浦

     

 
 余談ながら、池田小学校へ乱入して、多数の児童を殺害した犯人宅間守は、桂川君が収監されている大阪拘置所で処刑された。私が桂川君と面会した一週間後のことである。日本という国は発展途上の野蛮国なのだ。


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