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東海地震と浜岡原発(2)

地球の営みである東海地震を、原発震災にしないために

河本和朗(長野県大鹿村)


1、地震は自然の営み、“原発震災”は人間が招く

 前号で、地震は日本列島の宿命であること。しかし地殻変動こそ日本列島の大地の
恵みの源であることを理解してもらえたと思う。
 この大地の営みを“鎮め”ようとすることは、誤った祈りではないだろうか。起る
べくして起る地震が発生しないならば、より多くのエネルギーが解き放たれることな
く貯めこまれ、将来もっと大きな地震を招くことになる。自然の大きな営みを変えよ
うとしてはならない。
 しかし、震災は人間が作るものである。どうか“地震”と“震災”を区別してほし
い。人間の側の、大地へのあなどりと技術過信が、震災を招く。
 現代には多くの危険物があって震災を大きくする。とりわけ、毒物が漏れ出せば、
被害は地震発生時だけにとどまらない。汚染物質は大地や水系に残るほか生物にとり
こまれて循環し、長期間にわたって被害を与え続ける。
 その最大の脅威が、原子力発電所の放射能である。100万kwの原子炉1基だけで、もし全量が放出されるならば数10万人が急性放射線障害で死亡するだけの放射能を内臓している。急性障害はまぬがれても晩発性障害に長い間苦しめられることになる。広い範囲が居住不可能になる。もちろん、被害は人間だけにとどまらない。

2、確実に東海地震にあう浜岡原発

 東海地震は、地震のおおまかな規模と切迫性が世界で最もよく予測された地震であ
る。その震源域に浜岡原発があり、4基の原子炉が運転中で1基が建設中である。これ
らの原子炉が大地震に遭うことは確実である。(宮城県沖地震もよく予測されてい
る。その震源域の西端には女川原発がある。女川原発も確実に大地震に遭う。)
 国や電力会社も、浜岡原発が東海地震の直撃を必ず受けることは知っている。
 東海地震対策が考えられ始めた1978年以前に運転を始めた1号炉と2号炉の耐震設計規準は、最重要部品で450ガル、その他は300ガル。3号炉と4号炉では、最重要部品で600ガル、その他は450ガルになっている。
 一方、1854年の安政東海地震の震源断層モデルから計算した浜岡原発での揺れは、450ガルを超えないので、原発が壊れることはないと主張している。

3、原発サイトでの最大の揺れは予測できない

 しかし、ほんとうは、震源断層モデルからは広い範囲での平均的な揺れは予測でき
るけれども、浜岡原発という特定の地点での最大の揺れは予測できない。人間はそこ
まで地震のことを分かってはいない。
 震源断層モデルは、地下での複雑な現象を、大きな1枚の震源断層面の動きに単純
化したものである。被害記録から1854年の安政東海地震と1944年の東南海地震の震源断層モデルが作られ、それをもとに、今回の東海地震の震源断層モデルが作られた。
 じっさいの東海地震では多数の震源断層面が同時〜数10秒の時間差でずれ動く。震
源域の真ん中にある浜岡原発では、地下のあらゆる方向から地震波がやってくる。地
震波は互いに強め合ったり弱めあったりして、はるかに複雑な揺れになる。1分間ほ
ど揺れが続くなかで、強い揺れと弱い揺れが繰り返されるかもしれない。揺れの周期
も複雑に変化するだろう。その最大の揺れは、単純モデルから計算された揺れを大き
く上回るだろう。
 地震波が来る方向や地下の構造しだいでは、特別に揺れが強い場所(異常震域)に
なる可能性だってある。1984年長野県西部地震や1995年兵庫県南部地震では、物が飛び上がっており、ところによっては重力加速度980ガルを超える揺れが加わった。

4、1号炉と2号炉は老朽化している

 また、国や電力会社は、強度に余裕をもたせて設計しているので、設計規準より強
い揺れに遭っても壊れないと主張している。
 しかし、設計上の余裕とは、部品や施行のバラツキや、部品の劣化の影響をあらか
じめ考慮したものである。1976年に運転開始した1号炉と1978年に運転開始した2号炉は、はじめに想定した寿命の30年が近づき、その余裕はほとんど失われているのではないだろうか。じっさい1988年には1号炉で、廃炉のときまで使う予定の交換不可能な部品から冷却水もれが起こっている。
 最近では、運転を止めて行う定期点検も3ヶ月から1ヶ月へと、大幅に短縮されてい
る。気づかれないまま腐食した配管が、地震の揺れで一斉に破断することも考えられ
る。

5、原発の弱点、放射能は運転停止後も発熱し続ける

 原発には放射能からの発熱のため運転停止後にも冷却水を回し続けねばならないと
いう、原発特有の弱点がある。もし配管が地震のために壊れて冷却水が抜けるような
ことになれば、メルトダウンという大事故になる。
 放射能=放射性核種とは、陽子と中性子の比率がかたよっていて不安定な原子核の
ことである。不安定な原子核は放射線を出しながら別な原子核に変わっていく。これ
は、やがて陽子と中性子が安定な比率をもった原子核になるまで続く。
 この過程は、放射性核種ごとに決まった速さで進む。もとの核種の半数が別な核種
に変わるまでの時間を“半減期”という。この過程は、いかなる方法でも、止めるこ
とも早めることも遅らせることもできない。
 放射能が出す放射線のエネルギーは、まわりの物質に吸収されて熱に変わる。この
熱を“崩壊熱”という。
 原子力エネルギーを取り出すには、ウラン-235の原子核に中性子をあてる。このときウラン-235の原子核はいくつかの破片に分かれるとともに、大きなエネルギーを出す。この破片を核分裂生成物というが、それぞれがウランより小さな原子核である。
 これらの人工の原子核はひじょうに不安定であり、ひじょうに強い放射能である。
数年間運転したあとの燃料棒の中には、この核分裂生成物がたまっている。その放射
能の強さは、もとのウランの放射能の強さの1億倍になっている。この莫大な放射能
が出す崩壊熱も莫大である。
 核分裂生成物からの発熱量は、電気出力100万kw(熱出力300万kw)の原子炉の場合、運転停止1分後で12万kwもある。これだけのエネルギーが直径も高さも数mの燃料集合体を加熱するため、燃料集合体の温度はアッという間に2000℃近くまで上昇し、数分後には溶け落ちてしまう。これを“メルトダウン”という。液体になっても発熱は続く。

6、地震で主要な配管が壊れると、メルトダウンの進行を止められない

 1969年、アメリカのスリーマイルアイランド原発2号炉でメルトダウン事故が発生
した。アメリカ原子力委員会の事故想定シナリオ(WASH-1400)では、メルトダウンが起こる確率は無視できるほど低いと主張していたのだが・・・。
 事故の原因はポンプとバルブの故障で、冷却水が噴き出して失われた。燃料集合体
が半分以上溶け落ち、厚い鋼鉄でできた原子炉圧力容器に亀裂が入っていた。けれど
も配管はまったく健全だったため、故障したバルブを遠隔操作で閉じ、非常用炉心冷
却装置(ECCS)から水を注入して事故の進行を止めることができた。
 しかし、地震による原発事故では配管がやられている可能性が高い。原子炉から出
る配管には運転中には70気圧300度という高温高圧の蒸気が流れている。主要な配管
が壊れれば、わずかの時間で水が抜け、冷却機能が失われる。配管が大きくやられて
いれば、ECCSも役立たない。その場合、メルトダウンの進行を止められない。
 事故シナリオ(WASH-1400)では、メルトダウンの進行を止められなければ、溶け落ちた燃料集合体が原子炉圧力容器の底を貫通し、コンクリ−ト製の格納容器の底にたまった水の中に落下し、水を急激に沸騰させ、その水蒸気の圧力で格納容器が破壊される。このタイプの事故は、浜岡と同じ沸騰水型原発の場合「BWR-2型事故」と名づけられている。
 BWR-2型事故では原子炉内の放射能の20%ていどが環境に放出される。これは、
1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故の放出率を少し上回る。

7、地震発生の前に停止しても、メルトダウンの可能性がある

 東海地震の起こりはじめをとらえて警報を出そうというのが現在の予知計画であ
る。あまり可能性はないが、幸運にも成功した場合は本震発生の数時間前に警戒宣言
が出るかもしれない。その場合、中部電力は「電力の需給を勘案して停止」と言って
いる。
 停止していれば配管中を高温高圧の蒸気が流れることはないから、一瞬に水が抜け
ることは防げるかもしれない。しかし、もし水が抜けてしまった場合、やはりメルト
ダウンになるだろう。
 運転停止後は、半減期が短い短寿命の放射能が急速に減っていくので崩壊熱も減衰
していく。それでも1時間後に42000kw、1日後に17200kw、1週間後でも9000kwの発熱がある。9000kwの熱を加えれば、1トンの水が1分間で沸騰してしまう。停止後どのぐらい過ぎれば空気への自然放熱だけでメルトダウンにならないかということは、反原発サイドの専門家も確かなことは言えないようだ。3ヶ月〜1年というところらしい。
 なお、原発から抜き取られた使用済み燃料は、水を張ったプールに数年間漬けて崩
壊熱の減少を待つ。この崩壊熱は、高レベル放射性廃棄物の形になっても、半永久的
につきまとう。

8、立退き地域

 図は、1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故による、長寿命のセシウム-137による汚染地域である。同じ縮尺の日本地図を、チェルノブイリと浜岡の位置をあわせて重ねてある。
 日本の100万kw級の原子炉1基が冷却水喪失→メルトダウン→水蒸気爆発という形で進行する最悪のBWR-2型事故を起こした場合、放出される放射能の量はチェルノブイリ事故とほぼ同じになる。東海地震による原発震災では、浜岡の4基の原子炉が一斉に大事故ということもありえる。4基合わせて362万kwなので、チェルノブイリの3〜4倍の放射能が出てくることになる。そこまでいかなくても、運転開始後25年の1号炉(54万kw)だけでチェルノブイリの半分以上の放射能が出てくることになる。
 セシウムは土壌の粒子と結合しやすく、雨によって流れにくい状態のよい土に付着
したものほど長い間とどまる。セシウム-137の半減期は30年で、何十年も減衰せず、高濃度汚染地域は居住不能になる。図で濃く着色された15キュリー/1ku(56ベクレル/1cu)以上の汚染地域は、立退き対象地域である。日本地図と重ねると、静岡だけでなく、風向きと雨により、やや離れた東京・神奈川・埼玉・群馬・栃木あたりが立退き地域になっている。 
 セシウム-137による長期汚染に対しては、数ヶ月ていどのうちに立退けばよいの
で、あわてる必要はない。原発震災発生時に緊急にやらなければならないのは、急性
放射線障害を避けるため緊急避難することと、放射性ヨウ素を体内に取り込んで将来
甲状腺ガンにならないようにヨウ素剤を飲んだり子供を避難させること。避難者の除
染の手助けなど。次回(最終回)は、浜岡原発震災の具体的なイメージと対応を考え
よう。

 “東海地震の前に浜岡原発を止めよう”祈りのウォーク

 9月1日(土)1923年関東地震発生の日(防災の日)、10月28日(日)1707年宝永東海地震発生の日、12月23日(日)1854年安政当会地震発生の日、・・・浜岡原発休止まで続く。
 出発地:相良サンビーチ11:15→12kmのウォーク→浜岡町池新田の原発が見える砂丘
(つづく)


*この原稿の第一回はこちら 東海地震と浜岡原発(1)
*ウォークの詳細は:ピースウォーク浜岡



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