沖縄やんばるの森に米軍のヘリパッドはいらない

「高江」と出会えて

や ん や ん


高江での座り込み photo by イチロー

 私は去年の7月まで「高江」のことを知りませんでした。兵庫県の山陰山奥にある「あーす農場」へお手伝いで行った時、DVD『高江の現状』を見ました。それがきっかけで、2008年9月初めての沖縄へ行くことになりました。
 名護から国道70号を車で40分程、やんばる東村「高江」に着きます。高江集落に入った時、窓から見た風景は異様でした。ちょうど暮れた薄暗い空と、道の両サイドを壁のように覆う木々(ブロッコリーの森と呼ばれています)、それ以外は何もありませんでした。その風景はなんだかどこまでも続いていきそうで、不思議と懐かしい気持ちになったのでした。ああ、日本にこんなところがあったんだと思いました。
 座り込みは高江集落の中、国道沿いのテント(N4)他で、朝から夕方まで行われていました。テントの下で地元の方々に出会いました。自分たちから心を開き、素朴に優しく受け入れてくれる皆さんに、すっかり嬉しくなりました。一方で座り込みをしていたある日、アメリカ兵に出会いました。彼らは30人程、大きなジープの中からこちらを見ていました。ゆっくりとジープがテント前を通り過ぎました。突然の出会いでした。私はとっさに笑顔で見送りました。しかし、一瞬にして不安になりました。彼らの無表情の中に、どこか喪失感が漂っていました。本当は人殺しの訓練なんてしたくないんだろうなと想像しました。シンプルに生きる高江の人々と接していると、人間の気持ちは皆同じだろうと、頭ではなく、すーぅっと体感するのでした。
 私は高江集落、やんばる森の山奥にあるカフェ「山がめ」で、住込み2週間のお手伝いをしていました。初めて来た沖縄、最初の1週間は夢のように過ぎました。満天の夜空、夜道のホタル、カフェ横を流れる透明な小川のせせらぎ、その中を泳ぐ蛇、巨大ヘゴの葉、かわいい5人の子供たち、美味しいカフェレシピ、カフェでするひとときのおしゃべり、「山がめ」安次嶺家族と一緒に食べるちゃぶ台ごはん、安次嶺家のお父さん:現さん手作りのステキなお家、ゆんたくおじさんたちのギターやサンシン、穫れたてシークワーサーを絞った泡盛、畑、空、ブロッコリーの森。ああ、豊かに生きていくに十分な場所だと心から思いました。
 朝、森の中へ出かけます。大きな南国のジャングルの葉っぱは色んな形を魅せてくれます。朝もやたちこめるその中にすーっと光がさし、幻想的ですごく美しい情景です。うっとり眺めながら、美味しい空気を吸い朝の散歩をします。それは至福の時でした。そこで野草を摘みます。日々摘んでも、ちゃんと柔らかいキミドリの新芽が出ています。オクラやピーマン、夏野菜も日々実っています。自分たちの食べる分だけ頂戴し籠に入れ、夢中で戻ってくると朝露でスボンが濡れています。その新芽や野菜を入れたカレーやピザを、カフェ「山がめ」にてお客さまに出し、「穫れたてなんです。」と伝えるとお客様が本当に嬉しそうにしてくれました。
 しかし、2週間目の真ん中にさしかかったあたりから、少し生活がしんどくなってきました。都会育ちのへなちょこな私は、高江の皆さんのたくましい生活に追いつけなくなってきました。その辺りから、不安な妄想に囚われるようになりました。隣にあるジャングル訓練の森から米兵が襲ってくるという妄想に囚われました。お風呂に入っている時、森の向こう側に米兵がいて、見られているような気分になったり、自分の眠る部屋の屋根に足をひきずった米兵が居る、という妄想に囚われました。その不安な心のせいで、お手伝いに来たつもりが、逆に「山がめ」の皆さん、高江の皆さんに心配をかけてしまいました。
 そんな時、「山がめ」の安次嶺家族の8歳の女の子が、怖くて眠れなくなってしまった私の気持ちを察して、ある日一緒に寝てくれました。隣で彼女の寝息を感じていると私はすぅーっと落ち着き、安らかに眠ってしまいました。子供たちと一緒に暮らすことができて、例えば大量の洗濯ものだけでも大変と思ったけれど、計り知れない喜びがありました。
 座り込みテントの下では、高江住民の方とゆんたくしたり、高江を日本各地から老若男女が訪ねてきたり、日々新鮮な山奥の出会いに喜びがありました。テントの上をよくヘリコプターが飛ぶのはちょっと怖いですが、その音に負けないくらいずっと鳴く、夏の終わりの蝉の声は強く生命力がありました。
 初めて経験した「高江」の土地はちょっと感覚的な表現ですが、純粋で透明で光が強く心の深くまでを照らしてくれる場所と感じました。その強い光が真っ直ぐに私の心を照らしたので、私は自分の心の中にもともとあった安心と不安、平和と戦争、夢と絶望、などの色んな対立する事情に翻弄されてしまいました。私の心が弱いと、つい悪い方に物事を捉えてしまいます。でも心がしっかりできている時は、美しいものに囲まれ幸せに暮らせるのでした。ここに来たことで今まで気がつかなかった心の内側に気づけました。これは唯一の地上戦を体験した島の力でもあるのかもしれません。キム監督のUAの高江ライブDVD「心(ククル)」の中で、高江住民の森岡尚子さんは、『高江はコントラストのある場所』と表現されていました。私もその通りと感じました。このコントラストのお陰で見えなかったものが見えてくる、そんな場所と出会えたんだなと感謝でいっぱいの気持ちです!
 さて帰ってくると、私の暮らす東京・町田の上空にもヘリコプターや飛行機がよく飛んでいることに気づきました。座間が近いからでしょう。また国分寺へ行っても横田基地の飛行機の音を聞きます。どこにいても不安になる音です。でもこの音を聞いた時、私は「高江」のことを思い出せます。そして一緒に眠ってくれた8歳の女の子の幸せをつい考えてしまいます。「高江」の皆さんが今日も平和に楽しく暮らせますように!


●「やんばる東村 高江の現状」 http://takae.ti-da.net/
 パンフレットのダウンロードや高江のガイド、仮処分申立却下申請の署名もこちらからできます。
●映画「チベットチベット」のキム ・スンヨン監督作の「くくる〜心」DVDが出ました。http://www.wacca.com/88/