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動物実験代替法

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野生動物は21世紀に生き残れるの?
名前のない新聞No.104より


1.ラスカルは日本の森には帰れない

 もう、おととし位のことになるだろうか。深夜、鎌倉市内をフラフラ歩いていた私は、路上で1匹の不思議なけものに遭遇した。向こうから、悠然とした足取りで、動物らしきシルエットが歩いてくるのである。なんだろう?とよくよく目を凝らすと、ネコにしては大きいし、顔もちょっととんがっているようだ。2つの目がぴかぴかっと光る。こちらを警戒する様子もなく、堂々と、私のすぐ目の前までやってきた。そして、ゆっくりと方向転換し、横の草の茂みに消えていった。瞬間、暗い夜道のなかで、太いしっぽがふわりと揺れた。派手なストライプ模様。
 「アライグマだ!」私はお酒の酔いもすっかり醒めて、ボウゼンとその姿を見送った。しかし、どうして「ラスカル」がここにいるんだろうか・・・。
 アライグマは本来、日本の野生どうぶつではない。彼らは、もともとアメリカの大地に暮らすいきものである。ところが、現在、北海道から鹿児島まで広く「野生アライグマ」の生息が確認されている。それだけではない。「畑を荒らした」「池の鯉を食べた」等々、ニンゲン達の苦情が殺到し、平成10年度には「有害駆除」として406匹、「狩猟」として64匹、合計470匹ものアライグマが全国で捕殺されているのである。
 何故こんなことになってしまったのだろう。アライグマが、自力ではるばる海を渡ってきたワケでは、もちろんない。彼らを日本列島に連れてきたのは、他でもない、いま「アライグマを駆遂しろ」と騒いでいるニンゲンなのだ。あの「あらいぐまラスカル」のアニメの可愛いキャラクターの影響もあり、80年代から急速に、全国各地のペットショップでアライグマの赤ちゃんが売られるようになった。1匹5万円前後。血統書つきの犬猫よりも安い。そして、彼らは風貌も仕草も愛嬌があり「かわいい」ので、衝動買いしてしまう人も多いのだろう。一時は、デパートの屋上のちょっとした小鳥屋さん等でも売られている程ポピュラーだった。
 ところが、である。アライグマはやっぱり野生の生きものなのだ。子供時代はちいさくてキュートでも、成長するに従って、力も強くなり気も荒くなる。体だってでっかいし、爪や牙も鋭く、とても人の手には負えなくなってしまう。手先もおそろしく器用で、カンタンな鍵ならあけてしまう程だという。
 「お座敷アライグマ」は成立しないのだ。
 「もうこれ以上飼い続けられない」とギブアップする飼い主が続出した。そして、「ラスカルを森に帰そう」と野山にアライグマを放獣してしまったのである。でも、ここは日本列島、ラスカルの帰る森ではなかった。日本の残された自然の中には、タヌキやキツネが生きている。大柄で繁殖力も旺盛なアライグマは、日本の野山の生きものたちにも脅威となってしまった。いつのまにかアライグマはどんどん数を増やし、平成6年には「日本の狩猟対象獣」に指定された。そして、北海道を筆頭に、「有害獣」として嫌われ者のレッテルを貼られるに至ったのである。
 当のアライグマ達にしてみれば、とんでもない話だと思う。自分たちの意志で日本に来たワケではないのに。「かわいい」とか「じゃまだ」とか勝手に騒ぐのは、いつもニンゲンの方だ。そして困ったことに、未だにアライグマを流通させ販売している業者が存在する。さらに、アライグマの販売に規制をかけることは、今の日本の関連法規では不可能なのだ。
 アライグマだけではない。外国産の野生どうぶつが、いともカンタンにペットショップで買えてしまう現状。ワシントン条約で規制されてなければ、彼らの輸入も販売もオッケーなのか。金力にまかせて世界中の「かわいい」「美しい」「珍しい」生きものを買いあさる日本人の図は、地球規模に恥ずかしいと思う。
 何よりも、そんなニンゲンたちの犠牲になるどうぶつ達に、本当に申し訳ない。もう2度と、「日本のラスカル」の悲劇を繰り返してはいかんと思う。

2・ニホンザルたちの受難

 先日、とんでもない現場を見てしまった。晩秋の岐阜の、あまりに美しい風景のなかに、それは在った。柿の実が成り鳥がさえずる山の中、オリ詰めハコ詰め状態のニホンザルが50余頭。なんだこれは・・・!彼らは、正真正銘の元野生ザルたちである。農作物や果樹を荒らすため、「有害駆除」という名目で捕らえられ、「ここ」に連れてこられたらしい。そして彼らは、某有名国立大学に医学実験用に売られていくのだ。なんと。
 以前、実験室の中のニホンザルに会ったことがある。とある私立医大の実験センターにいた2頭のニホンザル。研究者の方の話によると、このサルたちは九州で駆除され、1頭3万5千円で売られてきたという。1頭は、すでに眼球を摘出され、頭がおかしくなってオリのなかをグルグル回っていた。もう1頭は、かつて同じ群れのサルだったのだろうか、「今度は自分の番だ」というふうに怯えきってオリのすみっこにはりついている。それを目撃してしまった当時医学生の友人と私は、大変なショックを受けて、その晩2人でウイスキーを1本空にしたのを覚えている。
 野生由来のサルを実験に用いるということは、ヨーロッパでは法律で禁止されている。正確な年齢も既往症も保持ウイルスや細菌も明確でない動物を実験に使ってデータをとることは、科学的見地からも疑問だし、何より研究者自身のモラルが問われるのだ。
 しかし、日本ではそーゆーことは無いらしい。年間8千頭ものニホンザルが有害駆除で捕獲&射殺されているが、そのうち1〜2割は「動物実験用」に横流しされていく。有害駆除の許可権限が市町村に下ろされてしまった現在、ニホンザルは極めてEASYに駆除され、「その後の処置」については、県庁の担当の課でも正確に把握できてないところが多い。コワイ話だが、サルの捕獲&転売業者が存在しているのだ。
 関西の方で、数件のペットショップにおいて、ニホンザルの子供たちが1頭30〜40万円で販売されているのを見た。「業者の人が持ってくるんです」と、ある店員さんが言っていた。有害駆除で捕獲された群れの子ザルに間違いなくても、「これはブリーダーの所で生まれた子です」の一言でもみ消しになってしまう。ウソだらけの中で、サルたちは流されていく。
 また実験の話に戻るが、元野生ザルのように正確な個人データのない(そしてとても安い)動物は、荒っぽい実験の犠牲になることが多い。「本番の実験」(論文用)はウン十万円で買ってきたカニクイザルで行い、その前段階の「実験のじっけん」は安い駆除ザルで行う、という話も耳にした。サルは脳神経の研究や生理学の分野ではよく使われているようだ。だから、現在そういう学会が、「有害駆除されたニホンザルを引き続き研究用にまわして下さい」と、堂々と環境庁に訴えている。(2002年、鳥獣保護法の再度見直しが行われるので。)
 「実験でサルを使うためにサルを駆除する」「クマの胆嚢が高く売れるからクマを駆除する」といった理不尽が、どこかにある。そしてこれは、どう考えてもおかしい。駆除自体ギモンがいっぱいあるけど、その駆除の「AFTER」はまさに闇の世界だ。
 野生どうぶつは、本来誰のものでもない、自由の魂だと思う。自由に生きて自由に死んでいく、そんなあたりまえのことが、今の日本列島では出来なくなっている。彼らの生きものパワーを信じつつ、21世紀はこんなめちゃくちゃなことが消えて、透明度の高い時代であってほしいなあ、と祈っている。(なかのまきこ)