フォーラム報告

ストローベイルハウス講演


                                   
講演者 馬上精彦
司会  おおえ まさのり
質問  講演会参加者

・シンプルで快適な家づくりについて、お話をお願いします。
」じゃぁ、あの、かなり、少人数なんで、リラックスしてお話したいと思います。おおえさんから直接問い合わせをいただく以前、多分おおえさんがストローベイル・ハウスの記事に注目されて祭りのインターネットにだいぶ早めに掲載されたんです。その記事は、去年の11月に朝日新聞に書いた記事です。その時点では私は祭りのネットに掲載されていることに全然気がついてなかったんですが、のちに祭りでストローベイル・ハウスを 建てられないか?という問い合わせがメールで入ってきました。その時点ではおおえさんは、藁の家っていうと、「三匹の小豚」に出てくる様な、簡単に吹っ飛んでしまうような仮設的建築物というイメージを持たれたんだと思います。しかしこのストローベイル・ハウスっていうのは、アメリカで、百年近くもっている恒久的な建築です。本当の家づくりと同じ条件が必要です。だから祭りで仮設的に建設するには、費用面でも取り壊すのはかなり勿体無い。その後ちょっと、祭りとどう結びつくのかなと、返答を待っていた次第です。以前祭りの中では、“いのちのフォーラム”という中で、ひとつの環境 ?21世紀のライフスタイルということで、おおえさんも注目されている御様子だったので、講演だけという形であれば参加出来そうと、急きょ参加することになりました。
 で、ストローベイル・ハウスをご存知の方、この中でいらっしゃいますか???3〜4人くらいですかね。 あちらは アメリカの方ですか?そうですね。アメリカの方はご存知だと思いますね。ストローベイル・ハウスは日本ではまだ知る人が少ない。2000年6月1日から東京のイナックスギャラリーという所で「草の力、藁の家」というタイトルで、展覧会を始めました。それで知ったという人が大半という状況だと思います。これは写真中心の展覧会で、これから大阪〜名古屋と来年まで続きますので、もし機会があれば御覧になっていただければと思います。展覧会にあわせ「草の力、藁の家」というタイトルで、イナックス出版からブックレットという形で本が出ました。現在日本語での資料はこの本だけということになると思います。ストローベイルに関してはアメリカからの情報が一番という事になります。アメリカでは数冊、本が出ています。その中でもこの『ザ・ストローベイル・ハウス』という本はベストセラー化していますから、インターネットでAMAZONからも取り寄せられます。この本の著者は4人います。Athena & Bill Steen(アセナとビル・スティーン夫妻)、David Bainbridge(デヴィッド・ベインブリッジ)とDavid Eisenberg(デヴィッド・アイゼンバーグ)です。私はこのアセナとビル・スティーン夫妻のワークショップに参加して、彼らのストローベイル・ハウスの作り方を学んで来ました。
 この本の跋分(ばつぶん)、つまり巻頭を飾る言葉には日本の福岡正信先生の言葉が掲げられているんです。これはアメリカでは『ONE STRAW REVOLUTION』、日本で『わら一本の革命』という本からの引用です。この引用は、“人々は藁の本当の価値を知らない。でも人々がその価値を知った時、人類にとっての革命が起きるだろう”という言葉なんですね。このように、福岡先生の『わら一本の革命』を読んで影響を受け、わざわざ跋分に掲げるような人達が、アメリカではストローベイル・ハウス・ムーブメントの中心にいるとも言える訳ですね。で、のちに?というのは、今年の2月頃でしたか、福岡先生と会いまして、先生にこの事を知らせたら、非常に感激しまして、現在先生自身が講演会の中で藁の家の話をしている訳なんですね。だから、逆に福岡先生の講演会から、藁の家を知ったという形での問い合わせが私の方へも来ます。日本では他に、建築関係の雑誌などには記事を書いていますので、建築関係の方で知っている方はぼちぼち出て来てるという状況ですね。7月の29日から、栃木県の那須高原で、2泊3日のワークショップを開きました。「日本ストローベイル・ハウス協会」主催の第一回目のワークショップでした。25名の定員だったんですが、定員通りの応募者が集まりまして、遠方だと大阪、新潟、青森、熊本、沖縄など全国からの参加者がいました。全員単独の参加で、何らかの形でストローベイルを知った方ですね。参加者の中で最も以前から知っていた人で2年前、この人はオーストラリアのパーマカルチュアーのコミュニティーで知ったそうです。大半の方は今回のイナックスの展覧会から知ったという状況です。で、なぜこれだけ情報化の進んだ日本で知られてないのか、私自身不思議に思ってたんですが、アメリカでも90年代以降の動きで、まだ新しいものです。インターネットと、ワークショップという形で広がっているので、割とメジャーなメディアにのって来ていないという状況があるのかな?と思ったんですが、その辺はどうですか?アメリカの方?。アメリカの方はストローベイルの事知ってますか?
、アメリカ人ですか?ん〜、まだよく知らないと思います。西海岸のほうだけだと思います。
」それじゃあ、ストローベイル・ハウスとはどういうものかを説明いたします。日本の方はつい“ストロベリー・ハウス”と言ってしまいますよね。これでは「苺の家」になってしまいます。つまり、“ベイル”という言葉に馴染みがない訳ですね。ストローはあの、藁(わら)っていうことですね。ベイルはbaleと書きますが、辞書などをひきますと、藁梱(わらこり)という風に翻訳されています。藁梱。こういう字なんですね。つまり藁を圧縮したブロックの事なんです。このベイルというものは、酪農家が家畜の飼料用に作るものなんです。ですから日本でも酪農家はベイルという言葉を使っています。本来、酪農家は藁(ストロー)じゃなくて、牧草をブロックにする。英語で言うと牧草はヘイという?hay,もともとはHay Bale Houseですね。Hay House とも言うその起源は、19世紀末のアメリカ、ネブラスカ州の開拓者達の家でした。Great Plains グレート・プレーンと呼ばれる大平原地帯、地図で見るとアメリカのど真ん中の地域です。東西に長いネブラスカ州の西側の地域、木のまったくない草原地域で、開拓者たちが豊富な牧草を使って家を建て始めたのが最初なんですね。何故その頃が最初かというと、ベイルを作る、つまり藁を圧縮してブロックにする物をベイラーと言いますが、そのベイラーが作られたのが、19世紀後半くらいからなんです。最初は手動式、やがて馬に引かせて藁を圧縮してブロックにするような物、それから蒸気式のものが、1800年代の後半に発明されました。そういう機械でベイルが作られるようになってから、ストローベイル・ハウスができたと考えられます。約1世紀程前に誕生したということですね。1930年代くらいまで限られた地域で建てられていましたが、やがて木造のフレーム・ハウスの普及とともに忘れ去られてた訳ですね。そして1973年に、この本に書いてますが、『Shelter (シェルター)』っていう本が出るんですね。これは、世界中のVernacular House(ヴァナキュラー・ハウス、土着的な家)を紹介した本なんですが、ベルベル人の竪穴式の家とかモンゴルのヤートであるとか、中国のヤオトン(黄土高原の土中の家)とか、いわゆるオルタナティブ・ハウスですね。オルタナティブ建築を集めた『シェルター』誌は、当時『Whole Earth Catalog(ホールアース・カタログ)』なんかと並んで注目された本なんです。その中で、Roger Welsch(ロジャー・ウェルシュ)っていうバナキュラー・ハウスの研究家が、アメリカの片田舎にこういう藁で作るという特殊な建築方法があったということを、報告するんですね。それからアメリカで一部の人たちがそれに刺激されて、再現を試みていく訳です。で、ぼちぼちリバイバルが始まるんですが、本格的になったのは、90年代に入ってからです。
 その立役者は、『ザ・ストローベイル・ハウス』の著者の4人達がほぼ中心だと言っていいと思うんです。彼らはアリゾナのツーソンっていう所が中心地なんです。デビッド・ベインブリッジとデビッド・アイゼンバーグっていうのはそれぞれ、建築家と建築研究家で、ビル・スティーンは、どちらかというと、「アドービ」というもともとはプエブロ・インディアンの建物の左官職人的な人物だった。自らもインディアンの血を持っていて、アドービそのものですら、アメリカではオリジナルな物は造れなくなってしまったので、伝統的なアドービ造りなんかをやっていた人物です。彼らが試行錯誤しながら、現代にリバイバルさせたというのが、ひとつのストローベイルの流れですね。ですから、ストローベイル・ハウスは一世紀前にあった物が、90年代に入ってから急激にリバイバル現象として現代化され広まったものだと思って下さい。
 これは作り手によって、主にふた手に分れますね。つまり、開拓者が造ったものをそのまま継承するような土着的な作り。もうひとつは新しい建築の方法という形で、コンクリート構造と組み合わせたり、現代建築として手を加えたタイプです。ストローベイル・ハウスというのは、デザインを示すものではないのです。よく日本の方は建築のスタイルやデザインと勘違いしてしまうんですね。サンタフェ・スタイルとか。私は日本語では「藁壁建築」と言っているんですが、壁の新しい建築方法と思っていただければいいですね。ですから、デザインは自由自在。スタイルはさまざまです。ただ、ヴァナキュラー・タイプっていうのは、独特の雰囲気、共通したイメージがデザインとしても現われて来ます。で、そのヴァナキュラーなタイプは、建築の素材として藁のブロック、それから粘土、土壁ですね?で仕上げに漆喰を塗るという、まったく100%天然の素材で造りあげていくという家ですね。だから、あるひとつの共通したデザイン・テイストがうまれてきます。
 ただ広義で解釈すると、ストローベイルっていうのは、さまざまなデザイン展開を見せています。コンクリートや鉄骨とかを組み合わせ、モダン・デザインを取り入れたようなストローベイル・ハウスもあります。
 それと、もうひとつ、ストローベイル・ハウスってのは、外側から見た場合、その家が藁でできているとは誰も見破れないというか、わからないですね。ですからストローベイル・ハウスを造った人は、室内の壁の一部を剥き出しにして、額縁などをつけて藁の面を残す。こうした部分を見ないと、これが藁でできた家だって事が判らない訳です。要は壁が厚い家だな、みたいな感じです。その壁厚がどのくらいになるかって言うと、ベイルという藁ブロックの大きさによって決まります。そのベイルの大きさを決めるのはベイラーという機械です。ベイラーというのは、トラクターに取り付けて、刈り取った藁を圧縮して、紐をかけてブロック化していく農器具です。ちょっとベイラーのカタログが、そっちのファイルの中に入ってたんで、回して下さい。そのベイラーは酪農家が使います。ですから、日本でも酪農家が当然ベイラーを使っています。
 こういう物で、(会場に回っている)そのベイラーによって、紐を2本かけるタイプと、3本かけるタイプと分かれるんですね。それでベイルのサイズが決まってくるんです。2本がけのものは、重さが約20キロくらいです。幅が1m、奥行きが45cmくらい、これはミリ単位の正確さはまったくなくストローベイルの場合、求めないので、大体何センチくらいというアバウトな単位です。高さが35cmくらい、これが2本がけのもの。3本がけは日本では非常に少ないんですが、重さ30キロ位、ひとまわり大きい。この藁ブロックをレンガのように、こう、交互に積み上げていくわけですけど。壁の厚みは仕上げを入れると、大体50cm程になりますね。壁が厚いというのは、住宅の性能から言うと、断熱効果が高いということで、エネルギーの節約にメリットがあるということですね。
 日本の建築の中で、土蔵壁と言うのが非常に壁厚が厚いですが、土蔵壁で厚いものというと、最大25cmくらいですね。だから、土蔵壁の2〜3倍くらいの壁厚になる訳です。その断熱効果というのは建築では「R」という数値で表わします。ストローベイル・ハウスは「R」値が非常に高いんですね。在来建築の数倍の断熱性能があります。アメリカでは家を造る時、建築費と耐応年数までの維持費を共に考えます。仮に耐応年数50年として考えた場合、片やストローベイルの工法で3000万で造って、片や在来の方法で3000万で造ったとします。それに50年分の冷暖房費を計算します。在来建築の場合で年間20万円の冷暖房費を使うとすると50年分では1000万円になります。それを建築費に加えると4000万円ということになります。「R」値が4倍あるとすると冷暖房費は1/4です。「R」値4倍のストローベイル・ハウスの場合、50年分の冷暖房費は250万円ですから、建築費に加えると3250万円ということになります。このようにして、家のコストパフォーマンスを比較することが出来ます。さらに家の耐応年数が尽きて、解体する際の処理費を考えることも大切です。現在の建築には有害化学物質が含まれていますから、みなさんもご存知の様に処理問題が起きています。解体コストもこれから、どんどん高くなって来ると思います。現在建てられているこういった建築物が将来焼却される段階になった時、環境コストってのが、大変なものになって来るわけですね。ストローベイルの場合は、自然に還元することが出来ますから環境コストが低い。極端に言えば家畜に食べさせてしまう事もできるわけですね。(笑)実際、家畜に食べられてしまったという実例があるんです。それがストローベイルの唯一の欠点と言えるかも知れません。(爆笑)
 このようにストローベイル・ハウスはエコロジー効果が非常に高いという事が理解出来ると思います。藁で家を作るということは、人類にとって画期的な出来事だと思います。20世紀の末に来て、世界的に森林資源が枯渇して、地球上には、もうほとんど建築に回せる森林資源がないと思うんですね。いわゆる地球上の人類全体がまさに「藁にもすがりたい!」という状況に、藁の家が出て来たというタイミングは絶妙だと思うんですね。「永続可能な?」というエコロジーの最大のテーマから言うと、藁という素材は見事な解答になるわけです。藁は一年草の草ですから、毎年出てくるわけですね。しかも、農業の主目的は食糧を採るということですから藁は副産物です。生活の三大要素である衣食住から考えていくと、食と住が同時に賄えてしまえる訳です。日本の稲藁をベイルにして、住宅を作ろうとした場合、約30坪程の家で、250個位のベイルが必要です。1個20キロですから、5tくらいなんですが、これは水田面積にすると、各々の収穫の量によっても違いますが、約1.5町歩くらいで一軒分の材料が採れます。
 毎年1.5町歩から2町歩くらいの米を生産して、毎年30坪分くらいの家の材料を得る事になる。人類は今まで農業をやってその穂先の粒、米粒、麦粒などを目的にしてきた。茎や葉は副産物だった。日本ではかつて<藁の文化>がありました。近代までは、完璧なまでに藁を使い切るという文化が日本にはあったわけですが、現代では無くなってしまった。藁は利用されなくなってしまった。アメリカも同じで、それを焼却処分しています。カリフォルニアあたりでは大規模に米を作っていますから、それの焼却は、当然CO2という形で大気中にばらまかれています。アメリカでは75%の藁が焼却されているんですが、それを建築に回していくとすると、年間300万棟家が建つそうです。これは本当に地球にとって、大変な建築方法だなぁということが、認識できると思います。私自身も、最初にこの、ストローベイル・ハウスを知った時には、衝撃的で信じられないような思いをしたんですね。
 それから今言ったようなエコロジーに対する意味合いを考えていくと、これはもう本当にある程度21世紀のライフスタイルの起爆剤になるもんじゃないかなと、そういうとらえ方をしているんですが、そういう反応をされる方は、一杯いらっしゃいます。じゃ、まずどんな人たちが作り始めているのか?アメリカでは、環境に理解のある人たち、言ってみれば今、いのちの祭りに集まって来てる様な人たちと言ったらいいか。当然アメリカでは、60〜70年代はヒッピーと言われていた世代ですけど、彼らが非常にプログレスしている訳ですね。で、私自身、ビルたちのワークショップに行って、最初の日の自己紹介で、アメリカからセカンド・インパクトを受けたと言った訳です。ファースト・インパクトは60年代のヒッピー・ムーブメントです。Whole Earth Catalogとか、そういった事以来のインパクトを受けた。そう彼らに言ったんですね。すると、あっさりと、いやこれはセカンドでもなんでもない、自分達はず〜っと続いていると言うんです。それが、もうプログレスしている。日本の状況と比較すると、アメリカではこういったライフスタイルをとる人たちは、進化してますね。80年代には彼らの多くはNew Ageと呼ばれるようになっていた訳ですけど、一度精神世界に入って、意識の変換をした人たちですね。90年代に入ると急に彼らが新しいキーを手にするようになった。パソコンやエコ・テクノロジー、ニュー・ビジネスなどです。変換した意識に基づいたリアリティー、つまり現実を作ろうという動きが急激に活発化したと思うんですね。この動きはポスト・ニューエイジのムーブメントだと私自身はとらえています。こうした動きを「ニュー・エイジ」と区別して「リアル・エイジ」と呼ぶことが出来ます。「精神的意識を現実化していく世代」という意味ですね。リアル・エイジャーにとってストローベイル・ハウスは、新しいライフ・スタイルを築くための有効な手段と言えます。
 私自身、新しいライフ・スタイルを築くため東京を離れました。長年、東京でデザイン事務所をやっていたんですが、やはり色々疑問感じて、伊豆の大島に移住しました。ジャングルから切り拓くみたいな形で、手作りでオルタナティブな家づくりをしてたんですね。様々な試行錯誤があって辿り着いたのが、ストローベイル・ハウスです。私自身も本当に、究極の建築方だと思っています。
 今、これ、時間は
・いくらでも大丈夫なんです。(笑)
」スライドの方もかなり枚数用意してきてあるんですが、これは建築の話ですから作り方までとなると、かなり時間的なボリュームを必要とすると思います。ですから作り方は簡単に説明します。
 ストローベイル・ハウスは今すぐ、日本でも作れます。但し、日本には建築基準法がありますから、作れる方法と作れない方法があるんですね。ストローベイルを構造から見ていくと、主に3つのタイプに分類出来ます。一番目は「壁式構造」と言って直接藁のブロックを積み上げていって、屋根をかけていくタイプ。アメリカではロード・ベアリングと言われている作り方です。「壁式構造」は現在、日本の建築法では認められていません。しかし建築審議会を通せば、作れない事はないと思います。ログハウスも当初日本ではそういう状況でした。日本の建築基準を充たすように内部に柱と梁で構造を組む形で建てていたわけです。そのうちにニーズが高まって来て、建設省が丸太組み構造基準書というものを出して、その基準値であれば許可が下りるようになりました。ですから、ストローべイルハウスも日本でロードベアリングで建てるには、独自の基準値をクリアする活動をしていかなければいけないと思っています。壁式構造で作る場合には、当然壁全体を藁ブロックだけでを積み上げていくわけですから、一番メリットを表現できるわけです。つまり材木の使用量が少なく、工法が簡単であり、当然コストの低下にもつながるからです。アメリカでも初期のリバイバルのパイオニア達が試行錯誤しながら許認可をとったわけです。
 次に2番目の方法「ノン・ロードベアリング・システム」という構造について説明します。つまり壁式以外の方法です。日本の在来の建築方法、ー軸組工法とか、ツー・バイ・フォーとか、様々なRC構造とかー、現在の建築基準法の中でストラクチャー構造体を組んで、その内壁外壁、あるいはまん中にストローベイルを入れるという方法です。この方法で今、個人住宅を作っています。それは栃木県の益子町という所で作ってますが、

(ここからはスライド上映をしながら参加者の質問に、任意に答えていく。)

」?じゃちょっと、スライドの方を。
 これはアメリカの例ですけど、ちょっとランダムになってると思うんですけど?。これは、アリゾナの方で割と若い夫婦が作った家ですね。ソーラーなどを取り入れています。ただこれはバナキュラーなタイプと言うより、もっと現代的な処理をしているストローベイル・ハウスですね。こうやって見ると、ちょっと、藁で出来ているとはわからないと思うんですけどね。             
 次?。これは、建築家の家ですね。さすがにゴージャス。これも同じ。?はい、どうぞ。
 これは、ビルとアセナ夫妻の所。彼らは、カネロ・プロジェクトと言う名称で、ストローベイルハウスの普及活動をしています。アリゾナのツーソンという所から150H位離れたメキシコ国境から30H位の所に住んでいるんですが。そこでワークショップをやっています。これはゲストハウスのストローベイルです。
 はいこれは、カネロ・プロジェクトのなかの、幾つかの実験。仕上げるというよりも、ワークショップの参加者が試しに作っている建物のひとつです。こうやって見ると、中に藁のブロックが入っているのがわかります。これは最初に土壁の下塗りをかけた状態。
 これもそのひとつ。こういう建て方が、直接の壁式構造です。ですから壁部分には、柱、梁という構造がなくて、直接屋根を乗っけています。
、柱はまったく入ってないんですか?
」入ってないです。
、壁と屋根の接合部分はどのようにするんでしょうか?
」いくつか方法があります。あれは、最上段にラダー(梯子)を乗っけると思って下さい。2×4(ツーバイフォー)材でかまわないんですが、そのラダーに屋根タル木を架けるのが一つの方法です。アメリカはトラス屋根が多いんので、大きな梁材など使わず、2×4材で済んじゃいます。
、壁式の場合、藁壁の沈みこみはありますか?
」壁を全部最上段まで積んだ状態で、タイダンベルトというベルトジャッキで締めていきます。圧縮して締めるんですね。その状態で、こういう縦紐、梱包テープなどで締めます。屋根荷重が重たい場合は、やはりログハウスと同じで、セトリングと言って、沈み込みがあるので、窓やドアー部分にセトリング・スペースを設けます。
、強い風で屋根が飛びませんか?
」屋根の風対策はストローベイルとは別の問題ですね。屋根作りのプロセスですから、良くない作りをすれば飛びますね。普通の家と同じです。(笑)  

、材料はヘイ(牧草)でもストロー(藁)でもいいんですね。
」どちらでも構いませんが、ストローは日本では、商品としてはまったく流通していません。現在日本の農家では藁をブロックにしてとっておくというのは非常に少ないんです。酪農家でも、最近は牛舎構造が違って、敷き藁を入れるという手間のかかるやりかたをしないので、藁をブロックとしてとっておくところが少なくなっています。一方ヘイは、家畜の飼料を目的として作っているので、商品として流通していますから値段があります。栄養価があるアルファルファとかティモシーなどは、キロ50〜8 0円くらいします。建築材料としてヘイを使うのはもったいない。
、藁は乾燥していないといけないのですね。
」水分が含まれていると発酵しますから、水分は禁物です。厳密に言えば、湿度計をストローベイルに刺して、湿度%をチェックします。湿った物を粘土なり、漆喰なりで閉じ込めてしまうと、内部発酵しますから、工法で一番気をつける点です。
、モルタルで壁を塗ってもいいんですか?
」ストルーベイルハウスの工法は無限にあります。モルタルをスプレーガンで吹きつける方法は多いです。工期を短縮できますが、手作りのタッチは出せません。セルフビルトが中心なので、各々の作り手のアプリケーションがたくさんあります。たとえばベイルを積む時、粘土を目地ごとに詰めていくようなやり方もあります。材料もスライドではベイルの補強に竹を使っていますが、鉄筋棒にしてもいい。日本では竹より鉄筋の方が価格的には安いかもしれませんね。鉄筋をコの字に折り曲げて、筋交いにして、ベイルとベイルを繋いでいく方法もあります。唯一ストローベイルのオリジナルな道具と言えば、ストローニードルという縫い針です。長い鉄棒で、そこにロープを通しておいてベイルとベイルを縫い止めていく道具です。ベイルの補強もこのニードルを使って、ベイルとベイルを繋いでいく方法もあります。さまざまな補強方法があります。 じゃ次。これも同様ですね。自由に形はできちゃうんです。これは壁部分だけ積み上げた状態です。
 このベイルは、スリータイ、ロープが3本がけです。ちょっと幅が大きいです。こういう風にベイルの内外を竹の棒で補強してロープで縛って、積み上げていく。
、これ基礎みたいなのは必要ないんですか?
」必要です。基礎と一段目のブロックはアンカーボルトで留めます。最初に基礎にボルトを埋め込んでおくんです。
、ベイルを結ぶ紐の材質はなんですか?
」紐はベイル・トウィンと言って、ベイラー(ベイルを作る機械)に入れていく専用紐があるんです。天然繊維のものと、プラスティック製のと針金がありますね。天然のものは麻などがありますが、濡れてるとやはり腐って切れる。むしろプラスティックの方が切れないという点では優れていますね。
、開口部は制限されますか?
」自由にとれます。ひと壁丸まる開口して、ガラスをはめる事も出来ますね。そういう家もあります。
じゃ次
 これなどは、壁にレリーフを入れてます。東屋みたいな建物です。基礎は一般建築と同じですから、布基礎、べた基礎、独立基礎などがあります。さらにアメリカではオルタナティブな基礎として、古タイヤを二段積みにしたり、サンドバッグを入れたりなど様々なアイディアが考えられています。そういう物が複合して、ストローベイルハウスと共にあるみたいな感じですね。またストローベイルの専門業者も出て来ています。専門業者が作る家は、このように鉄骨で構造を組んで、メタルのブレスで留めたり、ラス網を全面に張り付けたり、防水シートを全部くるんでしまったり、バナキュラーな造りとは違いますが、注文主が満足する様な一般建築に近いという要求でこういう工法もあるという事ですね。
 じゃ、次?。
 これも、業者が作っている家ですね。次の写真で内部構造が見えて来ると思うんですが。アメリカでは大きい家が作られいて、2階建ても当然作ってます。それと、四角い家にこだわらないデザインも非常に多くて、平面図で見るとクローバー型をしていたり、円形とか卵型とか瞳型とか、瞳形などという形もあります。既存の家からかけ離れた形ですね
 ストローベイルハウスとは別にCOBという建築スタイルがあるんですね。これは藁混じりの粘土で壁を作る方法です。ストローベイルハウスの兄弟関係にある様な建築方法です。COBには2種類の作り方があって、ひとつは型枠を使ってその中に藁粘土を入れてブロックを作り、それを積み重ねていく方法です。もう一つの作り方は、コンクリート構造と一緒で、型枠を使ってその中に藁粘土を入れて、型枠で壁を作っていく方法です。版築工法と言って、昔から世界的にある方法です。こういうものとストローベイルを組み合わせたりする家の作り方もあります。その場合、オーガニック・アーキテクトと言われていますが、有機的な建築、ガウディとかシュタイナーの建築みたいな、不定形の、曲線を描いたような建物を作るのに適しています。
 じゃ、次?
 これも壁式構造で、業者が作ってますね。ハンドメイドではない。
 では次?。
 これは、実に私驚いたんですが、セルフビルドなんですよ。業者じゃなくってね。奥さんと二人で作っています。すごいマッチョなタイプ、むしろログハウスを作るようなタイプの男性が作ってた家なんですけど。ちなみにログハウスは、アメリカでは今どちらかと言うと、エコロジスト達にはネガティブにうけとめられてますね。日本ではログハウスはナチュラルでエコロジカルみたいなイメージですけど逆ですね。今アメリカで、かっこいい家の発想は、『It's not so big house』 ?そんなに大きくない家?です。ところが、これなんか非常に大きな家っていう選択なんですよ。母屋かな?っと思ったら、母屋はもっと大きい家を作るらしい。手前にあるのはランドリー・ルームで、こちらにあるのは40〜50坪の建物ですけど、ゲストハウスに使うようです。ですから、こういう作り方というのは、在来のアメリカ人の発想だと思うんですね。それが、藁の建物に切り替わったというだけです。スケールは今までのアメリカ人の意識の中で作っている藁の家。確かにすごいですけど、ストローベイルの本来の思想からはちょっと遠いかな?みたいな。失礼ですけどね。
 じゃ次
 これは内部を表してますね。こうやって見ていくと、一般建築方法とほとんど変わりがない。内部のパーテーションは在来の方法です。ですから木材がまったく使われないというわけではなくて、従来の建築よりも、木材の使用量が減らせるという事ですね。材木の使用量が大きくなるのは、屋根をかける際の梁構造なんです。長いスパンの梁を通そうと思うと、縦の断面を高くしないといけないですから、どうしても大きな木材が必要になり、木材の使用量が増えてしまう。でも、アメリカみたいに2×4という形でトラス構造で組んでいけば、わずかな材木使用量で屋根が架けられます。
 屋根を葺く素材は様々に選択肢があります。屋根面積は床面積の1.5倍以上になりますから、それなりに建設コストがかかります。壁断熱性が高いという事を利用して、壁の高さを通常よりも高くして、屋根を波板一枚で仕上げる様な家もあります。非常に高級な家でも、波板一枚でね。人間が生活するのは低い位置ですから、屋根断熱が波板一枚でも壁断熱が高ければ暖かいという訳です。屋根はチープな素材でコストをおさえようという発想だと思うんですが。
 はい、次お願いします。
 これは、電気の配線が見えています。ストローベイルハウスの電気の配線は非常に簡単です。コンセントや棚の取り付けなど、藁壁の中に木で楔(くさび)を作って打ち込んじゃうんですね。そして、コンセントのプレートをネジで留めていけば終わっちゃいます。配管類も藁壁ですから、直接外まで貫通できます。
 次、これは、私が参加したワークショップで作った家です。サイズは3m×5mです。約20人くらいで、朝から始まって夕方には完成させました。ここの基礎は、グリ石を2×6の板枠の中に入れただけです。これは2段目まで積み上げたところ。ボランティアで作りに行ってあげたんですね。この家の持ち主は、離婚してちょっと慰謝料がもらえなくて家に困っている女の人です。ワークショップという形で作りに行ってあげたという例なんですけど。
 壁はあっという間に積み上がっちゃいます。20〜30分でひと壁、補強はやり方によって更に時間はかかりますが、4壁作るのもあっという間でした。
 次。これも、作業現場です。
 コーナーからベイルを積み始めるんですけど、これは3段目くらいですか。
 これで、ほぼ積み上がって、屋根をかけるとこですね。ジッと見ていただくとどんな構造になっているか解ると思うんですけれども。なにか質問ありますか?
、耐震構造的にはどうなんですか?
」耐震に関しては、立て揺れ、横揺れなどに対して様々な補強方法があるんですね。非壁式の場合は各々の構造毎の耐震方です。壁式の場合、第一は、縦配筋(たてはいきん)を入れていく。要するに、藁ブロックの中央部にブスッと一段目と二段目、二段目と三段目に、鉄筋なり竹なりを入れていくんです。横配筋を入れてもいいですね。びくともしない壁ができます。
、そのままだと、積んで紐だけだと弱い?
」そうですね、弱いと思いますね。弱いって言っても、底面積が広いですから、そんなに大きく崩れるという事はないと思います。やはりそれなりに留めていく方法が必要ですね。
、土壁はどのように塗るのでしょう?
」信州には結構土壁がありますよね。土壁というのは、耐火性を発揮する。塗り厚(ぬりあつ)が厚ければ厚い程、耐火性があります。日本の土壁というのは、昔は下塗りして3年くらい乾燥させてから、それから中塗り、上塗りと3工程で仕上げる。厚みは相当厚くなって、耐火性が発揮されてきます。さらに漆喰を塗る事で防水性がでる。耐火性を高めたければ厚い方がいいですが、工程で粘土を厚く塗るのは非常に難しいです。塗り方としては、粘土の粘性を下塗り、中塗り、上塗りと徐々に落としていくんです。最初の下塗りは一番粘性の高いもの、ですから収縮率が当然大きいですから、乾燥するとヒビが入る。それを防ぐ為に長い藁でつなぎをしていくわけです。中塗りの場合は、つなぎの藁を短くしたもの混ぜて粘着性を落としていく。同じ粘土を使う場合は、砂とか混ぜものを入れたりします。
、アメリカの標準的なもので、厚みは?
」標準は特になくて、ケースバイケースですね。20mmは最低でも。

 次は、屋根面にも藁を入れてます。粘土を薄く溶いたものを藁と混ぜています。
 屋根を張る前、フラットな屋根です。
 こういう屋根です、片流れを作ってる。
 粘土塗り、これ下塗り。
 これも同じです。
 これはお風呂場を作っている所です。馬てい形のシャワールーム。これは、COBですね。藁混じりの粘土で作ってます。
 これも実験的に作っている建物。
、壁はネズミなどに食われませんか?
」漆喰と粘土で固めてしまえば食われません。
、家畜が食べちゃった例があるんでしょ?
」笑い話しとして出したわけですが、それは藁がむき出しになった状態ですよね。土の上からは多分食べていないと思います。

 アメリカの写真は一応ここまで。
 この後は先日那須でやったワークショップのスライドがあります。
 これは那須のシュタイナー保育園で行ったワークショップの様子です。物置きになっている柱と屋根だけのバラックに、壁を作り、将来風呂場に改造しようという設定で作りました。農園レストランもやっている所です。こういう電信柱を利用した壁なしの物置きがあったんですね。ここに、布基礎を回してストローベイルの壁を築きました。だから、壁式の構造と言っていいと思います。こちらの柱の構造と、これから積んでいく藁壁の構造は、切り離されている状態です。布基礎の状態で、こういう風に鉄筋を入れています。
 これは今回使った稲藁なんですが、今頃の時期というのは、日本ではもうほとんど藁が入手できない時期なんですね。藁っていうのは秋の収穫期、年に一回しか入手のチャンスがないと思った方がいいです。要するに、今需要がないですら、まったく藁っていうのは手に入りにくい状況ですね。卵が先か鶏が先かみたいな関係ですね。需要がないから藁が無い、藁が無いからベイルができないということです。日本での藁事情は微妙な段階ですね。
 麦藁ってのは、6月頃が収穫なんですけど、ちょうど梅雨時にあたってしまいます。今年はダメでした。那須方面では黒かびが発生してしまって。通常はベイルの入手時期は、秋の稲藁と、5〜6月の麦藁の2回があります。
 こうして見ると、今回使ったベイルは、ストローの圧縮状態がアメリカのさっきの写真と比べるとちょっと弱いように見えますね。
 はい。積み始めちゃってますけど。
 普通の布基礎は土台の太さに合わせますから、4寸、5寸せいぜい12〜15cmぐらいの厚みです。しかしストローベイルハウスの場合は50cmぐらいの厚みになります。あと特殊な部分は、こういった所に番線を埋め込みます、これはあとに、紐で押さえてくために必要なので最初にこういう物を取りつけるんですね。
 はい次。これですね。これはほぼベイルのブロック一個につき一本刺さる様なピッチで立てておく鉄筋棒です。
 これは基礎に番線を埋め込んであります。あとでロープをひっかます。
 はい、これは参加者達が3班に分かれて、ワークを始めるところ。第一段階です。これは防水紙を張ろうとしてるところですね。
 はい。このように、防水紙を布基礎へ。
 防水紙の上に一段目のベイルをボルトに刺すように置いたところです。ベイルはコーナーから必ず積みはじめます。
 これはベイルを切断しているとこですね。
 このように、人がのって圧縮していく。
 2段目までできました。
 3段目。足下を見ると、1段目はあのように、防水紙をラス網で留めていきます。
 段ごとに人が乗って、圧縮してしまって構わないんです。このワークショップをテレビが取材に来てたんですが、来年の3月の放映予定で、藁の番組を作っています。TBSで放映する予定です。来年放映の時点では、かなりの人がストローベイルを知る事になって来るかなと思うんですが。
 次。この様に、ラス網で防水紙を留めていきます。
 これは、最上階に乗せるラダーを2×4で作っている様子です。
 この様なものを一番上に乗せます。こういうものがないと藁の中に紐が食い込んでしまう訳ですね。ラダーの形もさまざまあるんですけど、これは非常に簡易な方法をとってます。
 これは、タイダウンというベルトジャッキで、締めている所です。
 この様に、まずタイダウンベルトで、ベイルをさっき作ったラダーごと締めてしまいます。圧縮してしまうんです。
 この状態でロープをかけて、固定します。
 こういう形で留めましたが、PPテープという梱包用のテープで留めてます。こういう留め具で簡単に留められます。
 留まったら、ベルトをはずしちゃうんですね。
 これですね。これは別に、天然繊維のロープで留めても構わないですけど、アメリカでも腐りにくいという意味で、こういうものをよく使ってます。
 鉄筋を折り曲げて、かすがいを作っているところです。特別な道具なしでも、簡単に鉄筋は曲がります。
 ベイルとベイルに渡るように、かすがい状に留めていく訳です。全スパン留めなくても大丈夫ですが、コーナーは必ずこのかすがいで留めます。
 コーナーをかすがいで留めている所。
 これは鉄筋棒を縦に打ち込んで入れるところです。
 これもトンカチで叩けば入っていきます。これで各段のベイルをつないでいってるわけですね。
 これは、ニードルでベイルの内と外にロープを通そうとしている。
 ニードルの先に穴があいていて、そこにロープをひっかけて、外から内に突き刺すわけです。内側に居る人がそのロープをはずして、外側の人がニードルを抜き取る。それで竹の棒を内と外から締めて、内側からぐらつかないように留めていくんですけど。
 この作業ですね。
 これは、ちょっと小窓を作ってるところですね。
 窓はああいう形で、枠内に穴を開けてピンを藁の中に打ち込んじゃう。そうすると窓枠が決まってくるんです。
 ニードルには、通せる穴とひっかける穴があります。
 番線を折り曲げてピンにしています。これでラス網なんかを留めちゃうんですね。藁の中に突き刺しちゃう。
 これは木ゴテですね。道具も木ゴテも特別なものはないですが、仕上げの段階には金ゴテ、木ゴテはあった方がいいですね。最初の下塗りなんかは、むしろ手で塗った方がいいです。材料もこう見ていくと、さほど高い物はないんです。
 はい、これは粘土です。下塗りを終えた状態です。
、日本で作る場合の粘土は?
」土壁用の土は天然では特別ありません。粗木田(あらきだ)とか一般的に総称されてますが。では粘土とはなにかと言うと、土をスコップでひとすくい採ってビンに入れて、水を入れて、撹拌します。しばらく放置すると三つの層に分離します。一番下に小石と砂の層がでます。二番目にはシルト層、一番上にクレイっていう粘土層が現われて、その上に水の層が出来ます。この一番上のクレイ層が粘土です。この層が沢山バランス的にあるものは、粘土性の土という事になる訳です。日本には水田がほとんどの所にあります。水田は粘土で作ったプールですから、水田のあるとこだと大体粘土があると思ったらいいですよね。ストローベイルでヴァナキュラーなタイプを作る場合、生のマテリアルに関して、知識が必要になってくる訳ですね。たとえば土とは何かとか、藁とは何かとか。多分来世紀は素材のオリジンから新しい文明がスタートしていくんじゃないかなと思うんですね。そういう意味で、ストローベイルハウスは21世紀的だと思ってる訳です。21世紀には素材の“おタク”が現われて来るんじゃないかな?『俺は水だ。俺は木だ。俺は麻だ。俺は藁だ。』とか素材にこだわる人、そういう人たちがやがて各々複合していって、21世紀の新しいクリエーションが始まってくると思うんです。今そんな予感を持っています。そういう意味から、今、土とか藁とか粘土、漆喰とは何か?ということを一から学んでいくというのは、非常に面白いと思います。ストローベイルをきっかけに。
、粘土に何か入っていますね?
」これは、スサです。草冠に切ると書きますけど、スサが入っているものです。藁や麻など様々なスサがあります。左官のプロセスはものすごく奥が深いというか、幅が広いですね。だからストローベイルハウスを作るという事は非常に簡単なんですが、一方それが全体的というか、そういった本当にホリスティックな体験になって来ると思います。自分で作るという点で。
 はい、次お願いします。これは、粘土に藁を混ぜてこねるところです
 このように、手でこねます。
 こういった下塗り用の粘土には長めの藁を入れます。こんな感じですね。藁混じりという。
 いきなり藁のブロックに、粘土を塗り付けていきます。これは粘着性の強い粘土なんで、手離れが非常に悪いんですよね。コテなんかでは塗れない。コテに付いてしまって壁側に付かないですから、むしろ、手の方がいい。ちなみに、2日間のワークショップだったんですが、1日目に壁は完全に積み上げてしまって、2日目に壁の補強、下塗りを完成させました。ただこれは、下塗りですから、乾燥をとらなりません。雨に耐えられる様にするにはあと2工程あります。事実上、2日でほぼ形になったという事です。?次ですが、塗った表面がやや乾いた状態ですね。
 乾いた状態です。3週間程前にリハーサルをやって、乾燥期間が終わった面です。
 ほぼこれは、ワークショップとしての完成に近づいた写真。ラダーの出っ張りを波形にして、むしろ、シュタイナーの保育園なんで、こういった有機的な形にしました。最後に、こういった藁の部分も残して、参加者たちがサインを寄せ書きした。
 これは塗上がった状態。いびつで凸凹した仕上がりです。きちっとして仕上げることも大事だと思うんですが、ヴァナキュラーな造りであれば、これ位いびつであっても、むしろ面白いんじゃないかな?いままでの建築では、垂直とか水平を求めすぎるので、それが息苦しくなっている。歪みとかいびつとか、そういう物が求められてきてるのではないかと思います。そういういびつさというのは、ポジティブに考えていいかなと思ってますね。自然界には垂直とか水平はない訳ですから。歪みやいびつさは、むしろ人が受け止める自然な感性に近いかもしれないですね。
 これは2日目で、ほぼ終了したという状態ですね。夕立ちにたたられたんで、ブルーシートで養生してます。雨にあたってしまうと非常に工事が困難になってしまうので。ーこれはワークを2日終了して、乾燥させてる状態なんですね。これで数カ月して上塗りの工程と、それが終わってからまたしばらく乾燥の工程をとってから、漆喰を塗って、仕上げをするんです。漆喰まで塗ってしまえばもう、雨にあたっても大丈夫です。
 これで終わりかな?
 (拍手)
 以上でおおまかに、ストローベイル・ハウスについて説明しました。わかりましたでしょうか?
 質問とか、何かありますか?
、雨の話ですが、雨にあたってしまったら?
」藁に雨があたったら、乾燥させないとダメですね。
、積んでしまったら?
」積んでしまってびしょびしょになったら、やっぱりダメですね。
、使えない?
」工事をやる時には始めから、雨にあたらない様な養生をしていく。
、季節とか選ばないといけないのですね?
」どのような季節でも、今のようにブルーシートをかぶせるとか、屋根を葺き終わってからベイルを積むのがよいでしょう。今益子で建築中の家では、在来方法に対して藁を積んでいきますから、屋根は初めに作っちゃうんですね。それからベイルを積んでいく。藁壁を施工する際には、雨には濡らさないでやるということが大前提です。土壁の時も同じです。乾燥しないで雨にあたると、やはり落ちちゃいますね。チラホラっていう雨ならなんとか大丈夫ですが、夕立ちとか土砂降りが来たらもうちょっとダメですね。
、法的な問題は?
」町の中でもまったく問題ないです。益子の家も、どちらかと言うと市街地です。街の中でダメかどうかというのは、要は建築基準法と消防法と二つの問題です。消防法では、一種防火地区、準防火地区という所では、不燃素材を使わないといけない。でも、田舎であれば、そういう防火規制はない。表面素材もどんなものでも作れる訳です。この漆喰で塗った場合は防火地区でも大丈夫です。?
、都市の中の狭い土地でもつくれますか?
」作れます。ただ、壁が厚いので内部面積が減ります。土地代の高いとこでは不利ですね。設計の際のモジュールは、私は内のりで作るんです。二間二間っていう家を作ろうと思った場合、二間二間で内のり作って、その外側に約50cm飛び出すと思えばいいですね。だから土地がニ間ニ間のとこには、二間二間のストローベイルは作れないですね。内のりはもっと狭くなっちゃう。だから、やっぱり適地は田舎だと思いますね。
、藁の入手は難しいのでしょうか?
」日本の藁事情にはさまざまな問題があります。私も今一番苦労しているのが、藁の入手問題です。つまり、藁があるのは米作りをしている農家なんでが、ベイルを作る機械を持っているのは酪農家なんです。酪農家は牧草を主に家畜の食糧として生産している訳です。日本では飼料用の牧草が不足して輸入しているぐらいですから、牧草のベイルを外に売りに出す程余裕がない。稲藁は、酪農家の一部が畜舎の敷き藁として利用しているケースがあります。しかし最近では保存にロールベイラーという大型の機械が使われるようになってきて、ブロックベイルの状態で保存されなくなってきている。大きな円筒形のもので、ビニールで梱包して野積みで保存できる、そういう新型の機械に切り替わっちゃったんです。四角いブロックベイルを作るベイラーは古い機械になってしまった。
、写真の中で、COBが一点だけありましたが、あれも壁式ですか?
」そうです。日干しレンガ工法と思えばいいですね。COBもナチュラリストにうけてます。また、ラムドアースというオルタナティブな建築もあります。これはセメントと土をある比率で混ぜて型枠に流します。やっぱり壁厚のある、高断熱建築です。壁面に独特の縞模様が出てくるんです。様々なオルタナティブ建築法がアメリカでは模索されてきて、実際にそれを実践している訳です。その中でもストローベイルハウスはトピックス的なものですね。
 セルフビルト建築では3つの要素を充たさなければいけないと思います。安く出来て、作るのが簡単で、かっこいい家。いいかえれば経済面、技術面、デザイン面です。しかしセルフビルトではどれかひとつの要素を優先する訳です。経済面を優先した場合、格好わるいとか、デザイン上の希望がかなわなかったりします。また技術的に難しいかったりします。技術面を優先した場合、簡単に作ろうとしても道具代やら材料費など高くついてしまったり、不格好なものになってしまったりします。デザイン面を重視した場合、技術的に難しかったり、高いもんについてしまったりします。3つの要素がなかなか揃わない。セルフビルトの場合、高い・難しい・格好わるいものには手を付けない方がいいと思います。そういう意味ではストローベイルハウスは3拍子揃っています。
 ストローベイルハウスは、単に建築というものに留まらない、これはある意味ではひとつのライフスタイル・ムーブメントだと思うんですよね。新しい生活を模索していく中で、キーになって来るものだと思います。アメリカの先進的な連中は今、サウス・ウェストと呼ばれるニューメキシコとかアリゾナ、ユタなどの乾燥地域にどんどん移住して新生活を始めています。北部や東部の緑の土地はもう高いし、都市化が進み、人々はコンサバ過ぎてどうしようもないからです。こうした地域は、従来の発想では、むしろ条件の悪い所です。しかし太陽に恵まれ、新しい生活技術を駆使すれば快適な環境に変えることが出来ます。こうした地域に、ストローベイルハウスがどんどん建っています。アメリカの場合、地上は砂漠でも地下には氷河期の水が貯まってるんで、掘れば水が出るんですね。僻地に居ても、パソコンで仕事はできるし。そこで彼等は様々な新しいライフスタイルを作っています。たとえばニューガーデンと呼ばれる家庭菜園など。パーマカルチャーのホーム版とも言えます。家のゲートからブロッコリーの並木が続いていて、ポーチにはサヤインゲンがなっているというような、食べられる物で作るガーデニングです。衣食住をフリーにしていくというのが、彼らの考え方です。ポスト・ニューエイジ、あるいは進んだヒッピー文化と言えるかもしれない。今ちょうどアメリカは表側はバブルですから非常に経済が好調です。その一方で、第二次シンプルライフ・ムーブメントが進行中とも言える訳ですね。第一次はもちろん60〜70年代。気の効いた連中は、このチャンスに会社を辞めて新生活に移行している。たとえば退職金をローリスク投資で運用し、ある一定の金額が入ってくるようにする。今まで月5000ドルの生活だったのを、月1000ドルの利息だけで暮らせるようにする。家を売り、安い土地に移住する、車はやめて自転車にしようとか、生活をシンプルに切り詰める。衣食住をなるべくフリーに近づける。その上でNGOとかNPOなどの活動に加わったり、創造的な仕事を選択していく。そういう動きが非常に多いですよね。ですから今、個人の生活を自給させていく、それが彼らのひとつの目標設定です。その中で自分の家をセルフビルトで作っていくのは当り前みたいな。例えば私の見てきたケースでは、アリゾナの砂漠の中で、50代くらいのヒッピーがストローベイルハウスを作り始めていました。この土地で何をするのかと思えば、これからバンブーのプランテーションを作って、竹産業を始めるようでした。バンブーはエコ素材として非常に人気があるからです。それから、メキシコ国境の谷間の広い土地では数人のグループが住み着いて、国境を越えたメキシコ側で有機農業の投資事業をしていました。メキシコの農民に投資し、アメリカ国内で有機野菜を販売している。そういう連中がストローベイルのコミュニティを作っていましたね。進んだヤッピーたちと言うんでしょうかね。
 ビルとアセナ夫妻は、ワークショップとボランティアを結び付けているんです。メキシコ側で住居に困っている人たちの家を、ワークショップ形式で大体$500くらいの材料費で建ててあげる。ワークショップの参加者達は勿論、10日間で$1000くらいの授業料を払って参加する訳ですけど。メキシコまで行ってみんなで家を建ててあげる。
 ストローベイルハウスが、新しい生活のきっかけになっている訳です。ですから、日本でもそういう状況をつくりだしていきたいなと思っています。今年、ジャパン・ストローベイル・ハウス・アソシエーションという任意団体を作りました。特に会則も会費も何もない形で今やってます。いずれはNPO法人にしていく方向が一番いいのかな?と思っています。興味のある方は連絡していただければ?。とにかく日本ではストローベイルハウスについて誰も知らない状況から、ここ1〜2年、主に広報活動をしてきました。ようやく知る人たちがぼちぼち出て来たので、第二段階、プロモーション的な段階に進んできたと思っています。具体的にワークショップを開くとか、実際にストローベイルハウスを作るなどということです。そういう段階に突入してきて、やはり資金も会としては必要になってきていますが、今の所はボランティアでなんとかがんばってる所です。
」最後に何か質問ありますか?
、カヤ(萱)ってのは藁に近いですよね。雪国で萱を断熱に使っている。ストローベイルハウスはアメリカ的ですが、日本の伝統的建築に近いものがありますね。
」まったくそうです。日本の伝統的な建築をむしろアメリからキャッチボールで投げ返されてるわけです。彼らは日本の伝統左官技術なども研究しています。日本の建築資料を取り寄せています。左官のコテ類も日本のものがやっぱり世界最高って言ってますね。藁屋根も日本にはありましたよね。萱葺きよりはチープだったようです。壁も土壁だけで、漆喰を塗らなかった家の方がチープだったと思うのですが、今や贅沢です。左官の工程っていうのは、材料ニ分に手間八分というくらい手間賃がかかるんです。材料費は大した事ない訳です。工程が多ければ多い程工費がかかっていく訳ですね。何工程も塗重ねていけばそれだけコストが高くなる訳ですから、貧しい人達は土壁と藁屋根だったんですね。豊かな家は漆喰まで塗って、萱も厚く葺いてあるみたいなそういう感じじゃないですか。藁という解釈をしてくと、ストローベイルハウスにはいろんな可能性が考えられます。藁は必ずしも稲藁じゃなくてもいい訳ですね。地域によっては砂糖キビの搾りかす、それを圧縮してベイルにしたり、麻のオガラを混ぜたり、麻の研究では麻は電磁波防止になるっていうから、高圧線の下の家なんかにいいですよね。そういう事も考えられるし、あるいは、ハーブをベイル化してみるとか、雑草、ヨモギを圧縮しベイル化してみたっていいわけですしね。草を利用するっていう発想を拡大すると、いろんな可能性が見えて来るんじゃないかなと思うんですね。
、竹はどうですか?
」メキシコではストローベイルハウスに竹を使っています。屋根の梁とか垂木に使ったり。材木の代わりに使われていますね。だから藁と竹で作れば、木よりはるかに永続可能なマテリアルってことになってきますよ。
・)時間もそろそろなので?。今日はほんとに、ストローベイルそれがどんなものか、どんな可能性を持っているかという事を、お話いただきましてありがとうございました。ワークショップに参加すれば、もっと具体的な体験ができると思いますが?。
」連絡先など欲しい方いますか?アドレスだけプリントしたものがありますから、それもらって下さい。
、日本語の資料はありますか?
」「草のちから藁の家」というブックレットをつくりました。これは、紀伊国屋とか大きい本屋さんで入手できます。それと、今銀座のイナックスギャラリーというとこで展覧会をやってます。その1階のブックショップに、今藁に関する書籍だけ集めたコーナーも作ってますから、そこでも買えます。
 今日は十分に話せてないかもしれません。作り方とか素材の事、日本の農業事情、諸々の物がつまってます。勉強会やワーショップなどで徐々にそういった事を何回かに分けて話していかないと、説明しきれないと思います。「いのちの祭り」は、来世紀のテーマを持っていると思いますから、今日のストローベイルの講演は意義あるものになると思います。今日本でエコロジーと言っても、ままごと程度のものしか出てこないという歯がゆさがあると思うんですよ。あらゆる分野で。次のほんとにこれぞと言うものは、なかなか出てきていない。そんな中で、ストローベイルハウスは、はっきり言ってかなり有効なエコロジーのテクノロジーだと思いますね。省エネルギー効果からみても、ストローベイルハウスが普及すれば、原発数個分くらいすぐに消えちゃう訳ですね。それに食糧生産と建築が結びついているということ。現在、日本の穀物自給率は非常に低いのです。食糧を作りながら、家のマテリアルが同時に出来るというのは、素晴しいことです。木材の消費量を減らし、地球温暖化を防ぐ手立てにもなります。それから、様々なハウスシックの問題からも解放される。このように複合的に効果が波及すると考えられます。建築においてもエコロジーというのは非常に重要なテーマになっていますが、やはり有効なものがほとんどなかったですね。例えば断熱材でも、グラスウール以外の天然系の断熱材ってのが出て来てるんですが、価格が高いんですよね。平米単価が7〜8000円くらい。グラスウールはせいぜい平米単価が500円くらいですから。だから、エコロジー素材は高いものというのが、現在の開発技術なんです。ストローベイルハウスの材料は、入手する人の工夫とアイディア次第です。工業製品というのは、商品ですから、物をつくり出す為のコストがかかってしまいますから、ただではないわけです。天然の物というのは本来ただ。藁にしても土にしても自然の恵みです。こうした素材でモノを作っていくのが21世紀のエコ文明社会だと思います。
 ・じゃ、本日はほんとにどうも、ありがとうございました。
(拍手)
--------------完---------------------
2000年8月6日「ストローベイル・藁の家」馬上精彦
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/1946/

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