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第19回

少子化対策ってなんだろう。


(ほった さとこ)


  4月に入ってからのこと。インターネットでニュースを拾い読みしていたら、「少子化対策、フランス方式を日本で取り入れると1年で10兆6000億円」というような見出しがあった。
 そういえば日本では2003年に少子化社会対策基本法が施行されている。内閣府に少子化社会対策会議が設置されて、有識者を集めた少子化社会対策大綱検討会(おおげさな名前だ)を開いたり、2004年には少子化社会対策大綱なるものが施策されたのです。でもこどもの数は増えませんでした。それからもいろんな取組みはあって、そして今年。「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議(http://www8.cao.go.jp/shoushi/kaigi/ouen/index.html)が発足されている。
 塩崎恭久内閣官房長官や少子化対策担当の高市早苗内閣府特命担当大臣、結局辞めなかった柳澤伯夫厚生労働大臣、甘利明経済産業大臣など大臣による9名の委員と、日本経済団体連合会少子化対策委員会委員長の池田守男さん(株式会社資生堂相談役)を筆頭に7名の民間の有識者によって構成されている。合計16名の委員うち女は3人。高学歴でキャリアを重ねてきた人たちばかりだ。3人に罪はないし、大臣を委員に据えるのも予算取ったりするのに話しが通りやすいのかも知れないけれど、普通の感覚のありそうな人が委員にいない。主婦や女性雑誌の編集長とかさ。
 で、“1年で10兆6000億円”のニュースは、その「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議の第2回基本戦略分科会に提出された資料のことだった。
 先進国と呼ばれる国は軒並み子どもが産まれなくなっているのだけれど、フランスは合計特殊出生率(1人の女性が一生で産む子どもの数)が2.0(2006年)に上がった。日本の2005年の数値は1.26。ちなみに日本国内の2005年の合計特殊出生率のデータ(厚生労働省の人口動態統計)によると、東京が最低の1.0、最高は沖縄の1.72。なんとなく納得する数字だよね。
 フランスがなぜ上がっているのかというと、社会保障のサポートがぶ厚い!ことと、結婚することや出産することで女性の自分らしく生きている道を家族や社会が狭めないことだろう。それで日本でフランスの施策を導入したら、いったい幾らかかるのか試算してみた、ということのようだ。そして出た数字が10兆6000億円。
 2003年の日本の少子化対策関連費は3兆7000億円なので、社会的なサポートはなかったと言えるのかもしれない。政治家の無神経な発言や家族や親戚、会社などからの圧力は依然としてあるんだから、ほんとに女はしんどいよ。GDP(国内総生産)からどれくらい家族関係の支出があるかという視点で見ると、日本では0.75%、フランスは3.02%、フランスと並び出生率の高いスウェーデンでは3.54%となっている。これらの数値は、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議で作成された資料を根拠にしているんだけど、この会議で作成された資料には、日本、フランス、イギリス、アメリカ、イタリアなどの施策や世代別、未婚・有配偶別などの労働力率などの比較などもあって、なかなか面白い。こういう資料が家にいながらもインターネットを通じて見ることができるのっていいよね。どんどん資料や議事録は公開してほしい。
 でも、でもである。この資料、フランスの施策は婚姻届けを出しているカップルと事実婚のカップル、どちらも同じ保障を受けられることが抜けている。日本の政府は女に子どもを産ませたいけれども、結婚や家族のあり方に対しては、相変わらず制限をしているのだ。
 『パリの女は産んでいる』という本がある。2005年に出版されて、雑誌や新聞に取り上げられたし、働いている女の間ではフランスはいいよねえっていう口コミで広まったんじゃないだろうか。著者はパリ近郊に住んでいて、フランス人の夫と子ども2人と暮らしている日本人。仕事は通訳や翻訳業と、エッセイや記事を書いている。結婚、妊娠、出産、育児にテーマを絞ったエッセイだけれど、フランス政府が進めている少子化対策が見えてくる。フランスでは、子どもを産んだ女性は仕事をやめていないし、育児を1人で抱え込むこともないし、社会が金銭的なサポートをして会社では働き方の選択肢があって、日本よりもずっと子どもを産んで育てやすい環境があるよなあと思った。わたしはこの本を読んでいなかったら、いま日本政府が進めている「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議などの少子化社会対策に目を向けなかった。わたしの中に政府への信頼がないので、勝手にやってくれって、ついつい思ってしまうのだ。でも兆を越える予算を毎年使っているのよね。わたしの生活の中で施策の存在を感じたことはないけれど。
 少子化対策担当の高市早苗さん(内閣府特命担当大臣)が毎月テーマを決めて、少子化に関する意見を募集しています。意見が反映されるかどうか、わたしは全く責任を持ちませんが、こうして欲しい!という思いがある方、特に男性!、意見を出してみてはどうですか。少子化って女だけが責められることではありません。産みたいのに不安が多くて産めないなんて、命がないがしろにされている社会だよなー。ぶつぶつぶつ。

『パリの女は産んでいる <恋愛大国フランス>に子どもが増えた理由』(中島さおり著/ポプラ社発行/本体1500円)



No.142=2007年5・6月号

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