わたしが中学生の時の同じクラスに、太っている女子がいた。性格は短気で内気、漫画とアニメが好き。こうなるとその当時の空気としては、クラスメートに嫌われる条件が揃っている。当然のように、みんなに気持ち悪がられていた。わたしは出席番号が彼女の次でなにかと近くにいたけれど、仲良しでもなかった。
漫画の趣味が私と合わず、彼女の世界にわたしは必要ないようだった。彼女は担任にも嫌われていた。授業中も漫画を描いていたので、ぶさいく顔で顔以外の魅力もない男の先生だったが、彼女のことが生理的に許せなかったらしく、一度本気で彼女の顔を叩いたことがあった。彼女はそれでもひるまなかったので、これは彼女の勝ちだな〜と、中学生の私は思っていた。そこまで開き直れるブス（と呼ばわれる子）や太っている人に、それ以来会ったことがない。
この間遊びにいったおんなともだちの家の台所に、ポストカードが何枚もきれいに飾ってあった。彼女の好きな画家モディリアーニのジャンヌの肖像画や変な顔をした動物の写真、ヌードの写真のカードも何枚かあった。その中に、いままで見た事のない、私は持ち得ない豊かさを持った女性のヌードがあった。目が離せなくて、手に取ってずっと眺めていたら、ともだちがそのカードをくれた。そこからの帰り道もずっとカードを見ていた。家に帰っても、ずーっと見つめた。
お化粧をした全裸の白人女性が草の上で目をつぶって寝転んでいて、その奥にはユリ科っぽい植物のオレンジ色の花が咲いている写真。そして、彼女はとても太っている。この写真は、どういうことなのか。なにを写したいのだろう。写されている人は、どういう気持ちでいるのだろう。
写真家はパトリシア・シュワルツ（Patricia Schwarz）というアメリカ人の女性だった。1986年に清里フォトアートミュージアムで「豊満女性」（Women
of Substance）という太った女性ばかりのポートレイトとヌードの作品を発表している。
写真集をめくってみると、どのページのどの写真も、体重が100kg以上はありそうな女たちがいる。黄色いバラの絵のぴちぴちのワンピースを着た女性、天使の像の隣に立ってそれを抱きしめるかのような全裸の女性、黒とピンク色のショールだけをかけて大理石の階段に横たわる全裸の女性、プールサイドで黒い水着の女性のまあるい背中。赤い口紅を塗り、みんな、官能的で大胆で、おんなである。
パトリシアさんは、自分の写真を通して、新しい、そして違ったものの見方や感覚を伝えたいそうだ。太った女性たちを誇り高く生き生きとした人間として、美的で尊敬を込めた方法で見せたい。パトリシアさんは、人間をずっと写真家として記録してきたんだけど、スマートな人ばかりだった。しかし彼女自身もぽちゃぽちゃと太っている。これまで自分の外見と違う人たちを写すことで自分を隠してきたが、太った女性を撮ることで自分をも受け入れることができたのだ。太った人たちをただ太った人ではなく個人として知ること、次に、自分の身体と身体のイメージについて問いかけ、今日の自分の姿を、不完全さも含めて受け入れることができるように願っているんだと思った。
太っている女性のヌードを撮っている写真家に、ローリー・トビー・エディスン（Laurie Toby Edison）というアメリカ人の女性もいる。「太った女性たち：肥満ヌードのイメージ」（Women
En Large：Images of Fat Nudes）というシリーズを発表、1996年には東京都写真美術館に出展している。モデルになった人たちは、作家や俳優、大学教授から店員さんまで、さまざまな職業に就く26歳から55歳までの女性で、多くの場合はモデルの自宅で撮影している。モデルたちは日常生活の場の中、カウチやベッドの上、ギターを抱えて、野外で、全裸になって、ただそこにいる。正面からの写真もあるし、横向き、後ろ姿、ふたりの女性が背中合わせで座っているものもある。
わたしは彼女たちの身体から湧き出る命の光に惹き付けられる。わたしのガリ子（やせっぽち）の身体とは、ひとつひとつのパーツの形、やわらかさ、鷹揚さ、あわゆる点で違う。どこも曲線でまあるくて、尊厳があって、体温を感じる。縄文時代の遮光器土偶やオーストラリアの旧石器時代に作られた女性像みたいなうつくしさ。ガリ子にはガリ子のうつくしさがあるんだろうけれど、この圧倒的な曲線にわたしはやられてしまった。日本の女の子たちも、無理にダイエットなんかしないで、のびのびとからだにお肉をまとったらいいのにな〜。
●パトリシア・シュワルツ『豊満女性』（清里フォトアートミュージアム企画・編集／本体価格2500円）
〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545-1222 TEL.0551-48-5599
http://www.kmopa.com/index.htm
●ローリー・トビー・エディスン（Laurie Toby Edison）
公式サイト：http://www.laurietobyedison.com/index.asp
＊このサイトで、ローリーさんの写真の一部を見る事ができます。
