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映画「百合祭」を見て

「いい奥さん、さみしい老人、さようなら。」 

 (取材・文:ほった さとこ)

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  東京へ映画を見に行く。ひとりで行く。一人で映画を見るのって、けっこう好きだ。見たい映画は『百合祭』。桃谷方子さんの小説『百合祭』(講談社発行)が原作。
 映画『百合祭』は、第13回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭の最終日に、青山のスパイラルホールで1回だけ上映された。前から見たくてしょうがなかったけれど、映画祭や各地の女性センター、男女共同参画推進センターなどで上映される時を狙って見るしか機会がないので、今回は待ちに待った上映だった。
 イタリアの第9回トリノ国際女性映画祭で「セコンド・プリミオ」(準グランプリ)を受賞。他にも、香港、台湾、モントリオール、ボルドー、ニューヨーク、パリ、ベルリンと、15ヶ国・38都市で上映され、海外の国際女性映画祭や大学などへ、今もたくさん招待されている。日本国内よりも映画『百合祭』を正面から評価してくれているのだ。
 『百合祭』の主人公たちは、69歳から91歳までの7人のおんなと75歳の1人のおとこ。シンプルで大切に住われてきた洋館“鞠子アパート”で老嬢ばかり暮らしている。女優は吉行和子さん、正司歌江さん、白川和子さん、中原早苗さん、原知佐子さん、大方斐紗子さん、目黒幸子さん。それぞれのキャリアを積んでこられた方々ばかり。しかし役どころは、もう社会で必要とされない、恋愛の対象にされない年齢を迎えた人たち。長い時間を連れ添った相手は既に亡くなったりして、老いていく時間をたんたんと過ごしているように見える。着ている服は地味で表情もうすく、毎日に彩りがない。
 そこへ三好さんというミッキーカーチスさん扮する粋でアヤし〜いお爺さんが引っ越してきて、ご婦人がたが、みるみるうちにきれいになっていく。自分に興味がわき、お化粧をし、輝いてくる。そしてみんな三好さんを好きになる。セックスもする。そうなると同じ洋館のはじまった恋を隠せるはずがない。嫉妬や修羅場が起こらないわけがない。だけれども、主人公は平均年齢77歳と長い人生を歩んできた人たち。お互いの暮らしを大事にしながら、個々の恋愛関係を受入れ、自分のセクシュアリティーに素直になっていくのだ。人生には大変なことも多いけど、経験や年月を重ねることでうまれる余裕。その上で新たな自分を発見する。それまでの人生で引き受けてきた役割、世間や自分がつくってきた常識から自由になることの、なんとすばらしいことか。
 登場した俳優さんたちは、みな素敵だった。この映画に出ることを楽しみ、演じているようにみえた。キャリアのある方が老人のセックスを演じることに対して反対もあったようだ。だけど、役の中でセクシュアリティーを超える前に、自らのキャリアの枠をらっくらっくと乗り越えてしまった。
 監督は浜野佐知さん。ピンク映画を300本以上撮ってきており、日本の映画界の中で最も多くの本数を誇る。しかし、ピンク映画だからと日本の映画界でその功績は認められていない!。浜野監督は映画を撮りたかったが、1960年代当時は大卒の男子しかメジャーな映画会社へは入れなかったそうだ。こういう話をきくと、いまのおんなの自由さは、過去のおんなたちの根性と大変な努力によって生まれたものなんだと、ほんとうにありがたく思う。とはいえ、まだまだ差別はあって、がっくりすることは多いけれど。で、なんとかもぐりこめたのがピンク映画の世界だった。そして、数々のセクハラや嫌がらせを受けながらも、映画でほんとの女の性を表現するには、ピンクしかないんじゃないかと考える。その後1984年に映画製作会社旦々舎を設立し、1998年には『第七官界彷徨・尾崎翠を探して』を自主製作。この映画は、日本芸術文化振興基金や東京女性財団の助成を受けるのと同時に日本全国から12,000人以上のおんなたちの支援を受けて完成した!
 今回『百合祭』が上映された映画祭「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」は、国内海外の作品問わず、ゲイやレズビアンというようなセクシュアル・マイノリティをテーマにした映画のおまつり。見に来ている人たちはとてもノリがよく、笑う人あり、涙する人あり、わたしもあっはあっは笑った。こういう自由な場所って貴重。大切だ〜。
 映画の上映の後、Love Piece Club(おんなによるおんなのためのセックスグッズストア)代表の北原みのりさんとのトークショーがあり、大きな拍手の中で浜野監督は迎えられた。浜野監督は、おおらかで好きなように『百合祭』を楽しんでいるわたしたちを心から喜んでくれていた。だってほんとに、こんなに自由に、人生の孤独と向き合いながら、おんなが自分のセクシュアリティーを受入れていく映画を見ることができたんだから。あ〜、もっとたくさんの人に『百合祭』を見てもらいたい。痛快です。しわがかっこいいです。70代の主人公に、30代のわたしは、もっと自分を解放することを教わりました。いえ〜い。

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Love Piece Club・ラブピースクラブ(http://www.lovepiececlub.com/
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No.126=2004年9・10月号

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