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『トワイライト・フリークス』

黄昏の対抗文化人たち


 陽は西に傾き、月が東に昇る。神秘と幻想のトワイライト・タイム。文明の黄昏、世紀の黄昏、人生の黄昏。去り往くものと、やって来るものとの一瞬の出会い。

 97年春、飛騨冬季国体を前に、“反国体ステハリ事件”で、前代未聞のドジを演じ、ハジを晒したぼくは、挫折から立ち直るために絵を描き、関西で個展を開いて多くの人々の激励と協力を得て、海外旅行の旅費を作ったが、ついでに『雲遊天下』という季刊誌に執筆の機会を得た。

 「なんでもありの世紀末、なにがあっても驚くな!」というタイトルのエッセイは、その年の暮れ、アジアへの還暦の旅から連載を開始した。初めて訪れた社会主義国ベトナムは、アメリカ式市場経済という“バビロン・システム”を導入したことによって、カネとモノに狂いかけていた。
 バビロン・システムの完備したタイでは、「チェンマイいのちの祭り」もスーパー管理のオールナイト。それでもたっぷり吸って、“カラワン”など沢山の仲間と再会できた。ついでに40日間を共に旅した波乗り娘とのSEX抜きのプラトニック・ラヴは、色道修行の最終プロセスなのか‥‥?
 独り旅のインドは、バラナシ、プシカル、そして10数年ぶりにヒマチャルを訪れ、リゾート化の大変貌に唖然。チャラス作りの麻畑を野焼きまでして自主規制すると聞いて、アメリカン・グローバリズムの侵入を知った。ソ連崩壊後、代わって登場したアメリカは、大麻を禁止し、アルコールを解禁して、精神世界の堕落と衰退を企んだ。

 帰国後は拠点である飛騨高山と聖地位山を中心に、奈良の天河弁財天社、和歌之浦、土佐の唐人駄馬、佐渡島のどんでん山、会津若松などのライヴ(祭)とレイヴを巡り、カウンター・カルチュア界の動向を探り、仲間たちとの再会を楽しんだ。
 かって“ヒッピー”というマスコミネームを嫌い、“フリーク、フリークス”を名乗った仲間たちも、中年から初老に達し、反抗のシンボルだったヒゲとロングヘアーが一般化したように、革命と解放の武器であったロックはショービジネス化し、サイケデリックはデジタル化し、自然食はスーパーマーケット化し、放浪はガイドブック化し、精神世界はカタログ化し、お祭りはマニュアル化するなど、カウンター・カルチュアが普遍化、大衆化するプロセスにおいて、金になるものはことごとくバビロン・システムに組み込まれ、メイン・カルチュアに変換され、支配の道具として人畜無害化されてしまった。

 98年春、慢性呼吸不全を患い、酸素吸入器つきの身となり、さんざん楯ついてきた国家から、医療保護と生活保護を受ける羽目に至った。
 ノストラダムスの予言の夏、恐怖の大王が大麻取締法をもってガサ入れし、半病人のぼくと居候など3人をパクった。取り調べは自宅出頭で行われ、起訴されたが、辛うじて執行猶予を勝ち取った。しかし借家を追われ、貸す家もなく、再び「ふるさとさらば!」の詩を書いて、デラシネの身は娘たちを頼りに、美濃から秩父に移住して、最後の止まり木とした。
 最終回は昨夏の「いのちの祭り鹿島槍」と、秋の「ゲーリー・スナイダー来日イベント」における大団円でエッセイを結んだ。

 連載を終え、13回分のエッセイを単行本にするという企画が出て、改めて筆者の還暦までの思想遍歴を紹介する必要を感じたが、それはあMた曖昧にしてきたステハリ事件を総括することでもあった。そのためには前著『アイアムヒッピー』では伏せていた左翼革命運動の黒幕で、2年前に他界した山口健二氏との関係を公然化する必要があった。
 あるいはまた山口市以前に、ぼくがもっとも大きな影響を受けたナナオサカキ氏についても触れないわけにはいかなかった。そこでこの2人の先達についての小論を書き下ろし、“あとがき”を書き上げた翌日、アッと驚く同時多発テロが発生した。その時ぼくは「なにがあっても驚くな!」という世紀末のセリフには、「アッと驚く新世紀」を待望する心があったことに気づいたのだ。
 20世紀にアメリカが際限もなく投げ飛ばしたテロのブーメランは、地上至るところに死と不幸をまき散らしたが、それは地球を一周して、今アメリカ自身の胸に突き刺さり、ツイン・タワーを崩壊して、21世紀の幕を開けた。それはバビロン・システムの一極支配を成し遂げたアメリカン・グローバリズムの無惨な破局を予告している。
 アメリカに追従する限り、日本は交戦国となり、テロの対象国になる。これ以上黙っていたら、テロ対策の名目で、“治安維持法”が復活し、祭りもできず、反原発も叫べない暗黒時代がやってくるだろう。再び「ラヴ アンド ピース!」を唱えよう!                          (ポン)


『トワイライト・フリークス』黄昏の対抗文化人たち
11.20 ビレッジプレス刊 ¥1800+税 山田塊也著



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