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ありがとう! 私のパラダイス

〜八丈島、八年間の渦な日々〜

植草 ますみ


それはそれはエロスな日々だった。遠く太平洋の彼方から押し寄せては潔くブレイクする高波も、うたい止むことのない鳥たちの喧噪も、おもむろに立ちのぼっては世界を金色に染める巨大な月の光も・・みんな私をクラクラさせた。「女護ヶ島(にょごがしま)」の異名をもつこの島では、ヤマンバ(山母)の末裔のような女たちが、あちこちで色とりどりの炎をあげていた。あからさまで、激しく、情け深く、賢く、正直で、どこかずっこけた、そんな女たちだ。都会から移り住んで通りいっぺんとうだった私は、はじめはただ圧倒されていたが、いつしか迎え入れられ、色んなことを学んだ。困った時にさしのべられるさりげない手、違うタイプの人同士が楽しく心通わせあえる日常、落ち込んだときもそのままを包んでくれる仲間、必要なモノが必要な人の手にちゃんと渡る経路、バカがつくほど真剣でスケールの大きい遊び、笑い。ここに暮らすことを選んで本当によかったと思った。その懐からいつも湧きだしている温泉のように、島そのものが、熱烈なやさしさをいまも放っている。ここに着いたとたん自分の中で何かがほどてけしまうあの感じを、来たことがある人なら覚えているはずだ。そのほどけ目から、古いかなしみのかたまりが浮かび上がっては溶け、私を浄化してくれた。激しい雨、風、雷。ものすごい勢いで循環しているこの島の水は、いつも透明で甘い。その清らかさに向かい、手を合わせた。私にこの島を最初に案内してくれたヤマンバは、岩や水平線にいつも歌いかけていた。うっとり聴きながら、生命としての交流ということを私も覚えていった。海、空、植物、動物、家、人・・。美しいものに素直に驚き、讃え、敬い、問いかける。相手は必ず答えてくれる。場所そのものが、語ってくれる。それはあたりまえのことなんだけれど、まるで魔法のように思えるほどこの時代、私たちの感受性はくもってしまっている。そういう意味では、この島はやっぱり特別なのかもしれない。私のように元来いじけたケチな人間も、無条件に与えられ続けることでこんなふうに満たされていった。無条件に「うけとる」ことを、8年かけて学んだ気がする。その経験がいまの私から「あなたがあなたらしく、元気で輝いてほしい」というすべてのものへの思いをあふれさせる。私にできることをやりたい。そういう願いが今回、「ゲストハウス渦(UZ)」というかたちになったのかもしれない。私がこの島で体験した「魔法」を、ひとときでも縁ある人に味わってほしいと思った。数えていないけど、この2年半でのべ100組以上があの山の中のボロいアジア風民家を訪ねてくれただろうか。ふりかえれば一つひとつの出会いが、深く濃密な、かけがえのない時間だった。そういえば20代の頃、各地を旅した私は色んな人に飛び込みでずいぶんお世話になった。何のお返しもしていないままだけど、気がつけば今度は自分が旅人を迎える立場になっていた。とても嬉しく、楽しい。どちらにしても、旅はすてきだ。ただの観光じゃなくて、もしかしたら人生を変えるかもしれない「出会い」が待っている旅。思えば創刊から10年あまり関わらせてもらったこの「なまえのないしんぶん」でやってきたのも、紙という媒体を通して「出会い」を紡いでゆく作業だった。それを仕事にさせてもらい、人と人、人と場所との縁つなぎをしながら、最低限とはいえ生活させてもらえて、何とありがたかったことか。つないだ出会いから一番の恩恵を受けていたのは、ほかならぬこの私に違いない。感謝でもうバクハツしそうだ! 
 そして、卒業の日というのは必ずやってくるもので、ちょうど世紀のさかいめに、私はこの島を離れることになった。そんなにすてきな場所なのにどうして?とよく聞かれるし自分でも思うけど、そういう流れなんだ。みなさんの身のまわりも、最近とみにシンクロ的出来事、変化をうながす出来事が多いでしょう。シンクロニシティはいまや日常、あとは常識にとらわれず直感に従うしかない。ホットな南の島で、生身(なまみ)でいることの味をしめてしまった自分が、見知らぬ新しい土地でやっていけるのか不安でなくもない。でもきっと何とかなるんだ。本当はどこにいたって出会いの魔法はかなうこと、いまがどんな状況でも、きっかけさえあれば本来の元気と輝きを誰もが取り戻せること、それを証明するようなことを私はやっていくんだろう。
 記事にキャンセルがあり空いたスペースに個人的なことを書かせてもらってしまいました。なまえのないしんぶんに書くのは久々ですが、これを機会にみなさんにお礼を伝えたかったのです。本当にどうもありがとう。あなたのエロスな旅のよき出会いをお祈り申し上げます。これからもよろしくね。              



No.103=2000年11・12月号

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