プラズマが銀河を形成する

 宇宙に存在する4つの力、すなわち重力と電磁気力、強い力、弱い力のうち、核力である後者2つは力が及ぶ範囲が極めて限られている。これに対して、重力と電磁気力の及ぶ範囲は理論上、無限大である。それこそ宇宙の果てまで作用する。
 大量の電気が流れ、強力な磁場が存在すると、いったいどんな現象が起こるのか。宇宙の果てまで作用する電磁気力は重力以上に、天文現象に影響を与えているのではないか。
 宇宙空間が単純な真空ではなく、電気伝導度の高いプラズマで満ちているとなれば、電磁気力こそ宇宙を支配しているといっていい。プラズマが電磁気エネルギーを全宇宙に運ぶ媒体なのである。

 宇宙空間には電流が流れている。最初にそう主張したのはノルウェーの物理学者K・ビルケランであった。彼は極地方に発生するオーロラがプラズマ現象であることを理解した上で、それを生じさせる地磁気とイオンが宇宙空間にまで広がっていると推理。星は進化する過程で大量のプラズマを宇宙空間に放出していると予言した。
 予言は的中し、宇宙空間はプラズマで満ちていることが確認され、大量の電気が縦横無尽に流れていることが判明した。今日、宇宙空間を流れる電流は彼の名にちなんで「ビルケラン電流」と呼ばれている。

 電流が流れるとそこに磁場が生じる。ビルケラン電流があると、それを中心にしてプラズマが生まれる。と同時に、プラズマはビルケラン電流の媒体となる。ビルケラン電流によって生じるプラズマ流のことを「プラズマ・フィラメント」と呼ぶ。ビルケラン電流があれば、そこにプラズマ・フィラメントが必ず生じる。そして、その周りに強力な磁場が発生する。複数のプラズマ・フィラメントが接近すると、その周囲に発生する磁場によっ
てビルケラン電流が同じ方向に流れるもの同士が互いに引き合う。ピンチ効果と呼ばれる現象によって、2つのプラズマ・フィラメントは絡み合うようにして合体。まるでしめ縄のように大きなプラズマ・フィラメントとなり、渦巻き構造の高エネルギー領域を生み出す。
 プラズマは質量を持っている。巨大なプラズマ・フィラメントは自らの重力によって収縮し始める。すると、収縮運動がまたも新たなビルケラン電流を生成。そのビルケラン電流は例によってプラズマ・フィラメントを形成する。重力が電磁気力に変換される形で、プラズマ・フィラメントは成長する。

 かくしてプラズマ・フィラメントは巨大化して銀河の渦巻き構造を生じさせ、宇宙空間にビルケラン電流の送電網を形成していく。
 言い換えると、プラズマ・フィラメントが銀河を形成し、銀河から噴出するプラズマ・ジェットがフィラメントとなって宇宙空間に広がる。フィラメントはそれ自体が電流であり、磁場を作る。銀河が銀河を生み、さらに銀河団を作る。銀河団は超銀河団を形成し、遂には宇宙の大規模構造をも生み出すのだ。

 天文学者たちは何世紀にも渡り、恒星や惑星を生み出したり、天体の運動を支配する力は重力しかないと考えていた。彼らは宇宙にある全ての天体は電気的に中性であり、正の荷電粒子と負の荷電粒子が同数あると仮定していた。そうすれば、きわめて強力な電気の力を無視することができるからである。けれどもそれは致命的な間違いだった。極小の粒子から巨大な銀河まで、電気回路網が自然界の全てを接続し、統合しているのである。
 この電気回路網は銀河を組織し、恒星にエネルギーを供給し、惑星を誕生させる。「電気的宇宙」に孤立した島はない。こうした宇宙間を媒介するのがプラズマという状態にある物質である。プラズマは全宇宙を満たしていることが分かっている。これは、重力理論の先駆者たちが知らなかった事実である。岩石から成る少数の惑星や衛星、隕石を除き、宇宙に存在するほとんどの天体はプラズマからできている。遠方の恒星も、我々の太陽も
、太陽系の惑星も、電気を帯びた天体なのである。

 スウェーデンの物理学者ハンネス・アルフベンは、ビルケランの研究を継承する形でプラズマを研究。1970年度のノーベル物理学賞を受賞。現在のプラズマ宇宙論を確立するに至った。1960年代にすでにアルフベンは、ビッグバンというようなものはけっして起こりはしなかったと強く主張していた。
 アカデミズムでの評価は十分とは言えないが、プラズマ宇宙論を支持する物理学者は少なくない。ビッグバン宇宙論を超えるモデルはプラズマ宇宙論にしかないことを最先端の物理学者は徐々に気づき始めている。
 米国のロスアラモス研究所のアンソニー・ペラットも、その一人。彼は実験室でプラズマ・シミュレーションを繰り返す過程で、プラズマ・フィラメントが形成する渦巻きが銀河の構造と全く同じであることを発見し、注目を集めた。宇宙空間で観測される銀河の全ての形状がプラズマ・シミュレーションで確認できたのである。
 天文学の最も根本的な謎の多くは、現在、プラズマ挙動の中にその答えを見いだしている。プラズマ実験は、プラズマ中で相互作用する電流には物質を回転させる性質があることを示している。電流は物質を引き寄せて、回転する恒星や銀河を形成させることができる。
 ビッグバン宇宙論も、インフレーション宇宙論でさえシミュレーションに成功していない銀河の構造をいとも簡単に再現できた意義は大きい。実験室の中でも再度検証できることが、プラズマ宇宙論の強みである。未知の素粒子や想像を絶した高エネルギー状態を想定しなくても、電磁気力はスケールを小さくすれば、現象を再現できるのだ。


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