〜メッセージ〜

「危険ドラッグ」シンドローム


 

 最近、その名もズバリ「危険ドラッグ」というシロモノが、世の中を席捲している。
 その「危険ドラッグ」の乱用によって、酩酊、錯乱し、交通事故や事件を起こす人間が後を絶たない。意識障害などで救急搬送される患者も急増している。厚生労働省の推計では、危険ドラッグの使用経験者は、国内に40万人。若者を中心に乱用は広がりを見せている。以前は「脱法ハーブ」と呼ばれていたそれは、2004年に欧州で登場し、2008年頃から世界的に拡大して、日本で流通が盛んになったのは2010年頃からだった。

 問題は、使用者が、「危険ドラッグ」をコーヒーかタバコを一服するように、日常の仕事中や街中で使用し、周囲に危害と大迷惑を及ばしてしまうということだ。
 これらのアンリーガル・ドラッグは、法規制が追いつかず、合法か違法かが曖昧なグレーゾーンに存在している。ベースはオーガニックなハーブでも、それに化学合成された合成カンナビノイドなどの薬物がしみ込ませてある。
 これらの合成カンナビノイドの作用は、天然の大麻成分THCの4〜5倍から数十倍という強力なものが流通している。
 さらには、覚醒剤のように中枢神経を興奮させる「カチノン系」という物質を含んでいる製品もある。よって、合成カンナビノイドとカチノン系が混合しているものもあって、危険な状況だ。

 もう一つの問題は、製造者が摘発を逃れるため、化学構造の一部を変えた物質を次々に作り出していることだ。しかも、製品になった時には、複数の物質が適当に混ぜられており、何が入っているのか、全く明らかにされていない。ブツによって成分も薬効も異なるので、使用するまで薬効や症状の判断や予測ができない。まさに人体実験であり、非常に危険だ。
 身体的依存性はさほどではないが、その強力な効き方や錯乱症状を引き起こす点も含めて、ある面、覚醒剤より危険な薬物と言えるかもしれない。
 私は「危険ドラッグ」―いわゆる脱法ハーブは喫ったことはないが、そのブツの成り立ちや、怪しげな成分やらを知って、尚更、敬遠したい気持ちになった。こんなものに高い金を払っている人間が気の毒になるほどだ。

 体験者や、現在、リハビリ治療中の人の告白によると、その強力な効きにおいて、大麻や覚醒剤よりもいいとして、これらの脱法ハーブにハマる者が後をたたないという。
 実際、既にこれらのハーブの使用が原因と思われる死者が既に出ている。それのみが原因ではなく、ケース・バイ・ケースで複合的な原因も考えられるが、モノによって何が含まれているか分からないそれが、危険な薬物であることは政府や識者、メディアが訴えている通り異存はない。しかし、同時にこの機に紛れて、危険ドラッグから覚醒剤、大麻まで同列に並べて、これらを一度でもやったら即、人格崩壊といわんばかりのデタラメなネガティブ・キャンペーンがテレビ、ラジオで流されている。
 メディアが危険ドラッグについて、大麻と似た成分が含まれているなどと言うものだから、よくは知らない一般人は、大麻も、そういう幻覚、錯乱状態を引き起こすものだと思い込んでしまっている人が多いのではないか。

 これまで大麻を吸ったことで、昨今の危険ドラッグにまつわるような事件・事故を起こしたり、社会的脅威となるような事例は、日本でもほとんどない。大麻をやって、それだけで危険ドラッグを摂って起こすような錯乱、幻覚状態になることは、けっしてない。
 ただ、本人が既に精神的疾患を持っている場合は別で、アルコールや他の薬物を併用して摂取した場合も、何が起きるかは個人個人によって保証はできない。
 自然の薬草である大麻の天然成分と、「危険ドラッグ」に含まれる化学合成された合成カンナビノイドは、組成は似ていても薬効は全く異なるものである。

 大麻が仮に「危険ドラッグ」と同様に危険で有害なものだったら、既に解禁や合法化が進んでいるヨーロッパの国々やアメリカの一部の州でも、社会問題となり、解禁や合法化はありえないことだっただろう。 強力な“ラッシュ”があるらしい危険ドラッグなどとは異なって、天然の大麻の作用というものは、もっと精妙で、静かな波動なのだ。
 それは衝撃的な興奮ではなく、他者への親愛の情を呼び起こす。
 それは何よりも心と体に優しい。ラリるのではない。心の目と耳を澄まさせるのだ。「危険ドラッグ」を一週間、毎日、喫っていたら、身体的異常も含め、錯乱状態を招きかねないと言わざるをえないが、大麻を一ヵ月、いや、一年中、毎日喫っていても、何の支障もないどころか、かえって健康の増進を感じている―名前は出せないが、そんな御仁を私は大勢知っている。

 大麻の有効成分であるTHC(デルタ9・テトラ・ハイドロ・カンナビノール)自体は、非常に安全性の高い物質である。マウスに対して、体重1キロあたり100ミリグラム以上を静脈注射し、カタレプシーを起こす何千倍という量を与えても、致死量には達しない。これは体重60キロの人が60グラムのTHCを摂取した場合と同等なのだ。このTHCの量は、一般的に意識が変容するといわれている分量の実に5000倍に当たる。つまりTHCは人間の場合には致死量がほとんど問題にならないほど毒性が低いため、無理に死のうとすると、体重60キロの人は、500グラム以上のハシシを一度に経口で食さなくてはならず、事実上、不可能である。
 例えば、タバコを一箱(20本)食べたら、致死量を超える。何事も、過ぎたるは及ばざるが如しだが、大麻の毒性といっても、この程度のものだ。         

 G8、G20カ国の中でも、唯一、大麻に関しては懲役刑を含む最も厳しい法規制下にあるこの国では、その代わりに、未だ法規制が曖昧な脱法ハーブと称した文字通りの危険ドラッグがあてがわれ、若者だけでなく、今やあらゆる層に至るまで秘かに広がっている。
 ブツはワンパケ数千円。一週間に一度、それでは済まず、もっと増えて…と、そんな生活をいつまでも続けられるわけがない。

 危険ドラッグ(脱法ハーブ)の有害性と危険性が、声高にメディアや公的機関から伝えられる中で、大麻もそれと並べて同様の有害なものとして呼び習わし、ますます遠ざけようとする露骨な動きが見える。
 危険ドラッグを製造して売っている連中も、それを取り締まっている警察も、大麻が合法化、あるいは解禁されては困るのだ。大麻も危険ドラッグと同様、非合法のモノであってくれなければ、それで商売ができない。警察も、それを取り締まる仕事を失いたくないと考えている。種があれば、誰でも栽培ができる大麻が合法化されてしまったら、危険ドラッグの需要は大きく落ちるだろう。自分で栽培、収穫した大麻が手元にあれば、誰もあえて何が入っているか分からない危険ドラッグなどを、高い金を払ってまで手を出そうとは思わなくなる。

 私はここで、危険ドラッグに代わって大麻こそ普及し、合法化されるべきだという宣伝をするつもりはない。ただ、この機に乗じて、大麻に対して謂われなきデマや嘘が喧伝されている情況に、一言、言っておかずにはいられない。
 一旦、「危険ドラッグ」で、その強烈な効きの味を覚えると、大麻などでは物足りなくなるらしい。そういう連中に今更大麻を勧めても、何の解決にもならない。それは覚醒剤、ヘロイン、コカインなどの麻薬、他のあらゆる向精神薬などのドラッグ全般に関しても同様である。それらの使用者にとっては他のものでは代わりにならない。それでも健康に生きていたいと思ったら、使用者は、そのドラッグとの関係を断ち切るか、自らの中毒症状と闘うしかない。

 アルコール依存症同様、覚醒剤も、一旦、中毒になるとほぼ一生、完治という状態には戻らない。それを断って何年も経っていても、脳も身体も依然、それを欲している状態なのだ。最近の「危険ドラッグ」に至っては、その身体的影響も中毒性も、モノによって一定せず、全く未知の状態である。誰が見ても危なくて仕方がないが、人々は今、実験材料としてブラックマーケットのいいカモにされている。
 いったい今、なぜ危険ドラッグなどという有害性が明らかな紛い物のドラッグが巷に出回っているのだろうか。日本だけでなく、おそらくは世界レベルで。それをばら蒔いている大元は誰なのだ?
 格差が広がり、差別と他者攻撃が蔓延する社会、過労死当たり前の若者を食い潰す暴走経済。そんな未来に夢も希望も見えない閉塞感漂う世の中に、誰しもが内心悲鳴を上げ、何でもいいから、それを一時でも忘れさせ、吹き飛ばしてくれるものを、すがりつくように求めてしまう。脱法ハーブの流行の裏には、人々のそんな心性も見えてくる。

 それは嗜好品として、酒やタバコのように長年に渡って嗜むなどという使用法は不可能だ。体の方がとてももたない。それは今だけ気持ち良ければいいと、刹那に集中するドラッグだ。体験者の多くが告白するように、効きから醒めると、ものすごい倦怠感と、頭や神経に不快な症状が残るという。その快楽が強烈であればあるほど、それと見合うだけの地獄も味わうことになる。これは脱法ハーブや覚醒剤のみならず、全てのドラッグに当てはまる法則、原理である。

 私が今、言えることは、覚醒剤にも負けず劣らず危険な脱法ハーブ等に手を出すのは、絶対に止めておいた方がいいということだ。それでも、やりたい奴は周りが何と言ってもやるだろう。けっしてお勧めできないが、それも彼らなりの一つの挑戦なのかもしれない。それでせいぜい恐い目、ヤバイ目に遭って、少しは己の愚かさを学んだらいい。
 使用者当人はそれでもいいが、周囲に迷惑と危害を与えるのだけは絶対にやめてもらいたい。これは酒―アルコールもふくめて、個人がドラッグを使用する際の最低限のマナーであり、鉄則であると思う。

〜覚醒剤は止めましょう それとも人間やめますか
 今さらやめてももう遅い〜

 タイマーズのゼリー(忌野清志郎)が歌っていた“覚醒剤音頭”の中の一節だ。
「覚醒剤」を「危険ドラッグ」に置き換えてもいいが、タイマーズは既に20年前に、唄の中で今の日本の光景を予言していたのかもしれない―。



 

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