詩  篇 
龍 神 疾(はし)る

 

  唸るような地鳴り 沖合に一閃の稲妻
 その時、海がのたうつ巨大な龍となって 日本列島の東北沿岸に襲来した
 見たこともない一瞬の大破壊 見たこともない押し寄せる黒い大波
 見たこともない阿鼻叫喚 見たこともない恐怖の光景
 誰もが一瞬の選択が生死を分かつ運命を、生まれて初めて知らされる時
 そして見たこともない あまりに無惨であからさまな累々たる骸(むくろ)
 老人、子ども、幼子、お父さん、お母さん、我が子、兄弟姉妹、友だち、
 同僚、夫、妻、恋人…。
 (コレハナンナンダ! ナンデ ドウシテ…)
 ある人は自然の無慈悲を呪い、神など存在しないと確信したと言った

  その時、東北(艮)の方角に閉ざされ、眠らされていた地の龍が、
 太平洋沖の地の底で目覚め、身震いを始めた
 日本列島を背骨とするその龍は、日本列島創成以来地の底に封印されたまま、
 ずっとこの時を待っていた
 それが今、動き出した 目の前で起きたことの一つ一つが
 それを知らせていた
 後に残されたのは 全てが一掃された砂漠のような津波に洗われた街
 それは不思議にからっと突き抜けている光景で、悲しみさえ感じさせない
 誰かの手によって破壊され、集められたような残骸の山が、これまでの日常と
 世界は終わったということを告げていた

 Shiva Shiva Shiva Bom!

  大地の震動と津波を浴びて 三つの原子炉の炉心が溶けて突如、世に踊り出てきた
「放射性物質」―。ヨウ素131、セシウム137、そしてプルトニウム…。
 5マイクロシーベルト、100マイクロシーベルト、1000マイクロシーベルト
(1ミリシーベルト)、100ミリシーベルト、400ミリシーベルト…。
 線量計のアラームは鳴り続ける
 破壊と死を司る主であるシヴァが今、核の澳火となって3つの原子炉に宿り
 虎視眈々と人類を窺う
「絶対安全と言うから信じていたのに、こんなことになるなんて…」
 人々は初めて知ったことのように 放射能に恐れおののく
 それでも政府や専門家やマスコミは言う
「直ちに健康に影響はない」「安全性は確保される」
 一方で30キロ圏内強制避難、立ち入り禁止―。 真実は何か一目瞭然

  着の身着のまま、全てを置いて避難させられた原発30キロ圏内の人たちは
 もう一度立ち上がるための大地そのものが 放射能に汚染された
 先祖代々守ってきた土地と家に もう二度と戻れないかもしれない
 昨日まであった仕事や暮らしが、突然その劇の幕が下りるように
 終わってしまった 消えてしまった
 見た目は何も変わらないが、人影が消えた時が止まった街
 それは映画のかきわりのセットか、夢の中のシーンを見ているようなシュールな空間
 放射能は目に見えないから街並みは何も変わらない それなのに全てを変えてしまう
 街の大通りの上に架かる「原子力 明るい未来のエネルギー」と大きく書かれた
 アーケード 誰が言ったか今ではゾッとするばかりのブラックジョーク

  僕らはどこまで避難すればいい? 元通りの生活や日常ってどこにあるの?
 壊れた原発から今も放射能は放出され続けている 
 「日本の力を信じてる」「つながろうニッポン」で それは止められるのか…。

  津波に呑まれて無惨に死んでいった夥しい数の人々がいて
 一方、生き残った子どもたちの中には 余震が来る度、
 恐がることなく揺れに合わせて 波乗りのようにサーフィン
 してみせる子たちが現れ始めているという
 不謹慎? いいや、それこそが新しい進化
 これは神や大地の怒りではない もう恐怖は必要ない
 今、宇宙が人類に 地震に対する新しい態度を科している

  もし地球がこれから生まれ変わろうとしているのなら
 地震はその身震いで いずれ天と地が合体して 新たな次元が生まれ
 まっ新な世界が甦る
 現在の次元のシステムもモノの一切も その世界には持ち込めない
 そこには原子力も放射能もなく 国家も戦争も、飢餓も病も存在しようがない
 僕らはそこへ行くことを望むだろうか それともこのままこの次元にとどまって
 いたいのか 

  もがき苦しむ今の人類は、まるで殻で閉じられた蛹(さなぎ)状態
 さなぎから成虫になるには 最後の産みの苦しみがともなう
 僕らは今 そこにさしかかろうとしている
 それが現実の「アセンション」 それはファンタジーでもスピリチュアルな体験
 でもなく 誰にとってもリアルで現実的な体験となって訪れる
 あの時からスイッチが入ったように ほら、その一つ一つが今 
 目の前で起きている

  きみは覚えているかい 世界がここにあったことを
  誰もが見守ってる 僕らは生まれ変われるのか

               2011.4.23 
                by 工 藤 弘 和(ガリバー)


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