火星の水と生態系

 ESAが発表する火星の映像は、NASAが発表した映像とはやはり一味違う。使っている観測機器の違いもあるが、映像が実に生々しい。ヘラス盆地の峡谷を写した映像には、青い液体の水がはっきりと見えるばかりか、その周辺に植物らしきものが確認できる。
 南極の砂丘に見られる染みのような領域はコケ類が繁茂しているのではないかと、分析に当たったハンガリーの科学者たちはコメントしている。同様に南極付近には原生林を思わせる一帯があり、これに関してSF作家のアーサー・C・クラークは氷床の下から顔を覗かせた植物に違いないと言っている。

 

 すでに火星に水が存在することは公然の事実である。問題は海である。かつて火星には大量の水―海が存在したことは間違いないが、その規模はどれほどのものだったのか。日本をはじめ世界中の天文学者たちは様々なシミュレーションを行っている。アリゾナ大学のベーカーらは、火星の北半球の少なくとも15%は水深100〜200メートルの海であったと計算しており、日本の小松吾郎氏によれば、面積で最大、北半球の半分は海であったと結論づけている。研究者たちが注目するのは北極である。火星の北極には低地が広がっており、ボレアレス海と呼ばれている。その構造からこのポレアレス海は巨大な隕石か、小惑星が衝突したクレーターが元になってできているのではないかともいい、海岸線を分析したところ、少なくとも海の水は2段階で消失したことが分かっている。
 さらに、赤道付近に傷のごとく伸びるマリネリス峡谷は、海溝と呼ぶべき地形である。
 なぜこの峡谷が誕生したかについては諸説あるものの、ここもかつて水を湛えていた海であったことは間違いないという。
 こうした地形学的な視点とは別に、地質学的にも火星に海があった証拠は発見されている。2004年3月23日探査機マーズ・オポチュニティが火星の岩石を分析した結果、そこに流水で形成された縞模様構造が発見された。発表によれば、水深5センチ、流速は秒速10〜50センチの水が流れていたことは間違いなく、その成分は塩素と臭素が40%以上、他に鉄ミョウバン石も含まれており、ここが地球によく似た海水に洗われていた。つまりは海辺であった可能性が高いという。

 かつて火星に海が存在した。これは間違いない。時期については諸説あるが、広大な海が存在したことは定説になっているといっても過言ではない。問題はなぜ消えたかという点にある。一般に太陽系が誕生して約10億年間、火星は地球と同じような環境にあったが、約15億年前頃から徐々に寒冷化が進行し、それと同時に海の水が蒸発。やがて荒涼たる大地となり、水は両極と地下に存在するのみとなったと説明されている。アカデミズム得意の斉一論の典型であるが、はたしてそれは事実だろうか。疑問は多い。

 火星の赤道付近には台状クレーターという風変わりなクレーターが存在する。名前の通り、クレーターの周りが円形に台のように盛り上がっている。なぜ、このようなクレーターが赤道付近にできたのか。実は謎なのだ。台状クレーターは元々両極の氷床がある地域に特徴的なクレーターなのだ。氷床に隕石が落下するとその中心にクレーターができ、衝撃で飛ばされた土砂が周囲に広がる。この状態で夏になって氷床が溶け、結果として、土砂がない部分が溶解して、ある部分だけが残る。これが繰り返され、周囲が風化されると、台形をしたクレーターができあがる。つまり、台状クレーターがあるということは、そこにはかつて氷床があっことを物語っている。問題はそれが赤道にあるということだ。赤道でも存在するのは2つの地域に限られる。同じ赤道でも両者はともに緯度で180度離れている。

 考えられることは一つしかない。この2つの地域はかつて両極地方だったということだ。南極と北極だったのだ。それがいつしか赤道付近にまで移動してしまった。ポールシフト―極移動である。現在の両極はかつて赤道付近にあり、逆に赤道付近の台状クレーターがある2つの地域が両極だったのが90度入れ替わってしまったのだ。
 かつて火星で極移動があったことは、多くの科学者が認める事実である。極移動が引き起こされた原因が何かについては定説はないものの、激変が生じ、極が緯度で90度移動したことだけは間違いないとされている。
 つまり、火星は大きな海を湛えた緑あふれる星であったのに、それが未曾有の天変地異で破壊され、死の星になった。苔や植物の一部は今も存在するものの、海棲生物の多くはほぼ一瞬にして絶滅したのだ。
 火星の地表に海や生命の痕跡があり、また、先に紹介した人面岩やピラミッド状構造物など、ここにはかつて人類とは別の古代文明が存在していた可能性がある。そして現在も何らかの知的生命体の活動が存在する物的証拠が、NASAや旧ソ連の探査機によってキャッチされていた―。


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