火星の空は赤い―NASAは30年来そう言い続けてきた。だが、最近になってNASAの動きが変わりつつある。徐々にではあるが、火星の水の存在や生命の存在を示唆し始めている。空が赤くないことが証明されたことにより、火星の大気圧や水蒸気の含有量も根底から考え直す必要性が出てきた。 これまでに公表されている火星の大気圧データ(7〜8ヘクトパスカル。地球は1013ヘクトパスカル)では、水の沸点が氷点と等しくなるため、水は氷から直接水蒸気となってしまい、液体の状態では存在することができないとされている。しかし、火星の地表に見られる壮大な侵食地形は、大洪水の結果作られたものとしか説明できないものだ。 それでは、実際の火星の大気圧はどのくらいなのだろうか。NASAの公開したデータに基づき、大気圏突入のシミュレーションを行い、大気圧データの矛盾点を指摘した研究結果がある。NASAはマーズ・パスファインダーが大気圏に突入した後、探査機が受けた大気による制動力のグラフを公開している。このグラフから秒速7.5kmで大気圏に突入した探査機は、空気摩擦による制動力を受けて110秒間で急激に減速する。そして、パラシュートが開く163秒後までに、空気中での一定の落下速度に近づくということが分かる。しかし、大気密度分布のグラフを基に、大気圏突入高度、突入角度、初速、探査機の重量など、NASAの公開データで実際にシミュレーションすると、NASAが公開している制動力のグラフとは全く異なるグラフとなった。 火星を周回する最初の探査機となったマリナー9号。そのカメラが捕らえた火星の巨大な砂丘を見た科学者は、7ヘクトパスカルの大気圧で砂を運ぶために、地上では秒速300メートル以上もの風が吹き荒れていると見積もった。ところが、バイキング着陸船が1年間を通して記録した最大風速はわずかに7メートルだったのだ。科学者は、大気圧を7ヘクトパスカルとする限り、どうしても地表から砂を浮き上がらせることができないジレンマに頭を抱えていたのである。仮に大気圧が330ヘクトパスカルとすれば、地球上にたとえれば高度7000メートルに相当する。こうしたシミュレーションから、火星表面の大気圧が地球の高地程度の気圧を持っていることはほぼ確実になったといえる。火星上で生命が存在するには十分な条件であると考えられるのだ。 |