ビアンチェンマイ掲載の原稿

Vol.53


今月の雨季も昨年と同じで、八月の満月の日にパイ川にかかる竹橋が「あ!!」と流されてしまった。パイにとっては洪水は毎年のことかもしれないが、この竹橋がこの世に生まれ出たのはこの町にツーリストが来るようになってからだ。川向こうにバンガロー群が出現し始めてのことだから。昨年、この竹橋が流される前、つまりボクの「パイ物語第一章の頃、ボクは川向こうで15年ぶりにタイの女友達「アオ」と再会した。彼女は長年バンコクやコサメットをベースにしてアート活動を展開していたけど最近「限界」を感じ始め「新天地」を求めて「パイ」にやって来たのだ。そしてこのボクと15年ぶりの再会。ドラマチックパイ。昨年の洪水のあと移ったPSゲストハウスに「アキ&タカシ」がやって来てボクの「パイ物語」第一章の舞台に光が差し込んできた。ランプに火がつき、焚き火を囲み七輪で自炊を始め、そして、それに加えて「音楽」が始まった。ボクは旅に出る前はいつも尺八とインドの笛を持っていて、それが役にたつときが来たのだ。何でもそうだけど、枯れ萎えてたモノがみずみずしくなりふくらんでくると「いのち命」してきて元気になるしね。流れぬ水はよどんでゆくし。例の15年ぶりに再会した「アオ」にはすでに6歳の子供がいて、そのパートナーのギリシャ人の男がボクらの音楽活動のセンターになってアチコチでライブを始めたのだ。昨年は例の「流星群」のとき、丘の上のゲストハウスの広場でパイ中のツーリストが集まる中でセレブレーション音楽をやったし、その時ボクは尺八、陣内はギター、アキ&タカシのアキはインド楽器のタンプーリを演り、パイの夜空の流星群の下でボクらは確実につながってゆくのを感じたな。そしてボクらの音楽活動のキッカケとなった旧友「アオ」は自宅のすぐ近くに「EartH」というお店を開いて、彼女のPAIでのアート活動の口火を切ってくれたのだ。これを読んでくれた男女はぜひ訪れてほしいな。そしてタイの女アーティストの「きらめき」を感じるといいな。生き物は「ある状態」になると「いのち」が芽生え始め、ふくらみ始める。パイに住むボクらにとっては、このパイがそういう「ある状態」みたいで、ボクらの「いのち」をふくらませてくれる「何か」独特なエネルギーを持っているのだろう。そしてこの独自の強くて深いエネルギーが人から人へと伝わって「パイにいきたい」という気持ちにさせられるのだろう。今、パイは、ユートピア。アキはこの「パイパワー」に突き動かされて「SNAX&RELAX」という日本食をベースにしたレストランを始めたのだ。それも「アオ」の家の庭の中に竹の家を作って。「出会い」が人の心を動かし、自分の中の秘めた「想い」がPAIで芽を吹き、形となり、実現してゆくそのプロセスは美しい。パイドラマ。PAIにはきっと、そういう「想い」を「形」にしてゆく強いパワーがあるのだと思うな。「SNAX&RELAX」は今年は十一月上旬からスタート。カツ丼一杯味噌汁付きで六十バーツくらい。昨年、ボクはその店でウェイターをしてたので一日一回必ずカツ丼定食を食べれて幸せだったけど、今年は?だな。ボクもこのPAIでどんどん変化していて、ボクの「パイ物語」第三章をお楽しみに!!    

 パイ人とろんより


とろんのことば HP表紙