イベント案内/報告

金子亘の作品

近藤直子のページ

リンク
リコーダーのページ


なまえのある家「Rupa」

 山里に残る古代の聖なる儀式

 「田ァのむーしャ、おーくり、ドン。ドンカカトンカカドンドンドン」。
 夏の初め、田植えも一段落した頃。夕刻、あかあかと燃えるの松明をかかげた人々が、田のあぜ道を練り歩く。「飛んで火に入る夏の虫」とばかりに、稲につく虫を火に誘いつつ、村の端から端まで松明を運ぶ「田の虫送り」という行事だ。村の戸数と同じだけある松明は、最後には村の外れで積み上げられる。火柱の上がる大とんどに仕立てて、村の外へと虫を送り出す。昔は大和高原全域で行われていた祭りだが、現在では天理市山間部に残るのみ。
 この「虫送り」の別名は「虫の祈祷」。殺生した虫の供養のためにも火を灯しているという。松明の出発地と終着地に立てる札には、地域の寺の僧侶によって、梵字と「奉修虫送り害虫駆除五穀豊穣牘」という文言が書かれる。

 「虫送り」が終わると、山里は、蛍飛ぶ季節を迎える。虫を見送った後に蛍が来るとは、なんとも逆説的な流れである。蛍だけではない。昔は、「虫送り」が終わると、ウナギやナマズまでもが田んぼに上ってきたという。本格的な夏に向けて、山里に生命のエネルギーが立ち上る時節に入るのだ。例えば春を迎える奈良の「お水取り」も、火祭り的側面が大きい。つまり「虫送り」は、夏を迎えるための“山間部版・夏の火祭り”。
 民話のなかで、悪者の代表格として扱われてきた虫や鬼、山姥。しかし時として、それらは里に降り、思わぬ恵みや手助けをほどこしてくれることもあった。人々が里山に住み始めた頃よりも、さらに遠い昔から、山々に住んでいた得体の知れぬ存在。計り知れぬエネルギーをもつ太古の存在に対して、為政者たちによって鬼や虫と名付けられ、退けられた精霊たちである。
 例えば、農村における山の神信仰。春、山の神は、里に降りて田の神となる。春から夏にかけて農業の守護という役目を果たした後、秋の終わりには山に再び帰っていく。この去来信仰では、春に山の神に来ていただくお祭りが重要視される。東北地方では、山の神は出産の神にもなる。産気づいた妊婦のもとに、馬に乗せた山の神をお連れすると、不思議と安産になったという。つまり山の神は、多産の神、五穀豊穣の神でもあった。それは、生命力を付与してくれる母なる存在であった。

 「虫送り」が神秘的な空気を漂わす、もう一つの理由。それは、夕闇のなか灯された炎が、田の水面に映し出されることによって、幽玄な世界が視覚的にも広がりを生み出すからなのだろう。つまりそこには火を映す、美しき水の存在がかかわっているのだ。田植え歌のなかには、火の神と水の神の婚姻をうたったものもある。異界への媒体としての火を通して、山に籠もる生命の根源的なエネルギーを呼び、水を通してそれを田に注ぐ――。山の精虫たちを熱き火に受精させ、その火を母なる水に遷す、二重構造の陰陽和合。「虫送り」の本来の姿は、聖なる古代の儀式「虫迎え」だった…。そんなビジョンが、刹那に心をよぎる。古来、東山中に暮らしたという縄文人の世界が現出する瞬間である。それを証拠に、炎の洗礼を受けた山里には、まさに火がついたように様々な生命が息吹を上げ始めるのだ。

 そして、舞台は沈黙の闇。音は沈黙があるからこそ聞くことができる。光は闇があるから見ることができる。闇や沈黙は、心の琴線に触れるような多様な生の感覚を与えてくれるのだ。かすかな音に耳を傾けるとき、人は超感覚を広げ、時間の束縛からすら解放される。闇の中でこそ、激しい炎に生命力を感じ、かすかな光に幽玄を感じることができる。闇なくして蛍は愛を語れない。
 生命の尊さと不可思議さを告げる松明。その後、静かな闇のなかに浮遊する蛍の光。夏の夜は、生命の炎に思いを馳せるに相応しい。そして己の内なる生命の火が、灯されるのだ。

絵:金子亘「火の神」


ブログ始めました。http://rupa.exblog.jp/
第四回「アジアのお茶の間」@Rupa
7月17日(月・祝)3時〜
「ガンガー・サンガによるワークショップとインド古典音楽&舞踏の夕べ」
1800円・小学生1000円(要予約)
毎年インドに渡り、現地で音楽や舞踊の修行して習得した南澤氏、あみちゃん、森山氏が結成したガンガー・サンガ。カタックダンス「天と地に祈る踊り」などのインドの踊りを生演奏つきで習った後、インドのお話を聞きながらのおやつタイム。夕方からは、インド音楽&舞踏のコンサート。子供たちの参加も大歓迎!夕食はインドカレーのオーダーOK(別料金・予約不要)。宿泊は予約制(問)0742-94-0804 Rupa 
http://rupa.exblog.jp/
…---…---…---…---…---
■8月12〜13日に新潟県十日町市で開催される「縄文の日」に参加の予定。3年に一度のアート・トリエンナーレ「大地の芸術祭」の期間中で、会場のキャンプ村「OUT
LAND」の奥では、日本を代表する著名な陶芸家達が「縄文焼き」再現の試みも行われています。出店者や演奏者、ワークショップ企画者など募集中。火炎土器の地での祭りに参加してみませんか。
(問)025-750-3007(OUT LAND)、
http://www.outland.co.jp/blog/


アジア食堂 Rupaからのお知らせ

 奈良盆地の東、奈良、三重、京都に広がる山間部は奥大和・元大和であり、巨石に関連する聖地や縄文遺跡が数多く存在しています。このエリアにご縁を感じる方には、お話をお伺いして、関連すると感じられる地へご案内します。宿泊も可能です。お気軽に遊びに来てください。 rupa@kcn.jp 0742-94-0804


名前のない新聞 No.137=2006年7・8月号 に掲載