82.  アフガン・ブラックよ、いずこ?

 

 70年代初頭、カトマンズを訪れた私は、地元産の「ロイヤル・ネパール」と、行商人から買った「アフガン・ブラック」という2種類のチャラスを吸ってぶっ翔んだものだ。
 しかし70年代中頃、ネパールはCIAの工作により大麻禁止令を定め、70年代末にアフガンはソ連に侵攻されたので、ロイヤル・ネパールもアフガン・ブラックも幻のチャラスになってしまった。
 麻薬ヘロインの原料であるケシの生産は、70年代のベトナム戦争時からゴールデン・トライアングル(ラオス・タイ・ビルマの国境地帯)が、全世界の80%といわれ、麻薬王といわれた台湾系中国人クンサーの全盛期だったが、CIAやマフィアの絡んだ麻薬戦争が行われていた。そして80年代末にクンサーが敗北すると、ゴールデン・トライアングルのケシ栽培は下火になってしまった。
 アフガンに侵攻したソ連兵は、ベトナムに侵攻したアメリカ兵が野生の大麻を吸って厭戦気分になったように、アフガン・ブラックを吸って戦意を失い、アメリカ軍同様にソ連軍も敗退し、帰還兵の持ち帰ったチャラスでモスクワは「ラヴ&ピース」になり、結局ソ連は崩壊してしまった。
 90年代はアメリカ軍が湾岸戦争をバックに、中東レバノンを世界一のケシ栽培地に変えた。そこは「レバノン・レッド」というハシシーで有名なところだが「悪貨は良貨を市場より駆逐する」の諺どおり、金になる麻薬が、金にならないチャラスを生産地から駆逐したのである。
 一方、群雄割拠する多民族国家アフガンでは、ソ連撤退後も内戦に明け暮れ、「ブラウン・シュガー」という安物のヘロインが蔓延した。しかしイスラム原理主義タリバーンが政権を握ると、麻薬撲滅政策を採った。そしてアラブ義勇兵として対ソ聖戦に参加したテロリスト、ウサマ・ビンラディンを受け入れ、共闘関係を結んだ。そして「9.11 ニューヨーク同時テロ」により、ブッシュ大統領は犯人をビン・ラディンとアルカイダと決めつけ、予定通りアフガンに軍事侵攻しタリバン政権を打倒したのである。
 この2001年時点では、ケシの生産はタリバン政権がヘロイン撲滅政策をとっていたので、年間185トンしかなかった。ところがアメリカ軍がタリバーン政権を打倒して以降、06年には年間6100トンと、33倍に急増した。これに関して最近注目すべき発言があった。
 
 ソ連のアフガン侵攻の現地司令官だったマーマット・ガリブ将軍は、テレビ「ロシア・トゥデイ」のインタビューに答えて、
(1)全世界の麻薬の80%はアフガンで生産されている。
(2)アフガンの麻薬は米軍が空輸している。
(3)取引高は年500億ドルに達し、大半は米軍のアフガン駐留経費に当てられている。
(4)米軍はケシ栽培を阻止する行動を実質的に着手していない。
 さらに、米軍のアフガン戦争の真の狙いについて「中央アジア諸国を支配し、この地域すべてを不安定化させて、軍事基地を置くことにある」と述べた。
 また、カナダ・オタワ大学のミッシェル・「チョフドフスキー経済学教授は、
 「米軍や多国籍軍がアフガンの麻薬取引を支援し、1200億〜1940億ドルの麻薬収入が、CIAをはじめととした各国諜報機関や犯罪組織、西欧の金融機関に流れている」と分析している。
                      (『週刊金曜日』09.8.28国際通信)

 マスコミはアフガンが世界一のケシ生産地であることは伝えている。そしてそのケシがタリバンの軍資金になっていると。しかし事実は逆ではないか。アメリカの麻薬ビジネスは常に戦争と同時に麻薬を生産し、その巨大な利益で軍隊を維持しているのだ。まさに軍事費の現地調達であり、タリバンにとっては踏んだり蹴ったりである。
 この醜悪な事実を踏んまえて、「チェンジ」のオバマ新大統領は、イラクから米軍を撤退させ、アフガンに増派した。ブッシュ時代以上にアフガンは破壊されつつあるのだ。
 元ソ連の将軍が言うように「米軍のアフガン戦争の目的が中央アジアを不安定化させ、軍事基地を強化すること」である以上、アフガンには半永久的に平和は訪れないだろう。そしてアフガン・ブラックの復活は望めそうもない。
 この戦争中毒国家の大統領が「核兵器廃絶」を唱えたからといって、誰が本気にするものか。半世紀以上に渡るアメリカの傀儡政権自民党に代って、民主党新政権が誕生したが、「オバマの戦争」に協力して、自衛隊をアフガンに派遣することのないように、我々は厳重に見張らねばならない。
                                   9.1 

 [追記]
 国連薬物犯罪事務所(UNODC)はこのほどアフガニスタンの首都カブールで同国の麻薬生産に関する年次報告を発表した。
 ケシの耕作面積は前年比22%減の12万3千ヘクタールで2年連続の減少となった。
 アヘンの生産量は6900トンと前年比10%減にとどまり、依然として世界で流通するアヘンの9割を同国が供給しているという。
                          (09.9.8 朝日新聞夕刊より)

 


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