59. 大麻取締法を改悪か ?!

 厚労省麻薬取締部の曰(いわ)く。
 「大麻無害論の主張は、個人の研究を都合のいいように組み合わせたに過ぎない。各国が政策の根拠としている世界保健機構 (WHO)の97年の報告書には、有害の根拠がしっかりと示されている」
 「大麻にはテトラヒドロカンナビノール (THC)という依存性成分が含まれている。WHO報告書によると、体重60キロの人で、THC3ミリグラムで陶酔感を覚え、6ミリグラムで知覚、感覚に変化が生じ、13ミリグラムで顕著な感覚変化や現実との遊離感や幻視、幻聴が生じる」
 「大麻たばこ1本分を吸収しただけで5〜15ミリグラムを摂取する。たった1本で著しい精神作用を及ぼすことになる。通常の喫煙、飲酒の量では幻覚は生じない。大麻の方がたばこ、酒より有害である」
 というバカバカしい理論を紹介しているのは、朝日新聞の「時時刻刻」欄 (11.22)である。ちなみに世界保健機構 (WHO)とは、1961年にアメリカが元連邦麻薬局長官ハリー・アンスリンガーというパラノイアを送り込んで「麻薬に関する単一条約」を制定させた御用機関である。
 ところで「大麻汚染止まらない」というタイトルのこの欄は、厚労省麻薬部と警視庁捜査部、そして御用学者による政府広報紙のような紙面だが、なぜ「大麻汚染」がこんなに深刻になったかを、警視庁捜査関係者の意見として、大麻取締法は「大きな改正のない珍しい法律。時代状況を踏まえた議論が必要になっているのではないか」として、
 「法律の抜け穴をかいくぐるように広がっている。時代にそぐわなくなった法律を改正する時期が来ている」という。
 どうやらネット販売とホームグロウの時代にそった大麻取締法の「改悪」を企んでいるようだ。稀代の悪法を改悪して、ネット世界へ潜行し、令状なし捜査、罰則強化などによって「大麻汚染」をくい止めようというわけだ。
 しかしどんなに捜査を工夫し、弾圧を強化しても、このストレスと人間疎外の時代に、大麻の需要はますます増大し、スポーツ選手や芸能人、大学生、高校生、そして主婦にまで広がった勢いは、決して止めることはできないだろう。その最大の理由は、大麻が使用者本人はもとより、周りの人々の誰にも迷惑をかけず、被害がないからだ。
 厚労省麻薬部は「大麻の方が酒、たばこより有害である」というが、飲酒運転の悲劇は後を断たず、たばこは肺ガンの原因となり、吸わない人々に迷惑をかける。それに対して、連日のような大麻事件にも関らず、大麻が原因の交通事故や暴力沙汰、健康被害は全くないのだ。
 勿論、事件というからには被害者と加害者はいる。大麻事件の被害者とは、大麻取締法違反により逮捕された当人である。容疑段階から実名報道され、学校や職場を追われ、家族や友人に迷惑をかけ、場合によっては犯罪者として獄中生活を強いられるのだ。そして加害者とは直接的には麻薬取締官や警察官であり、間接的には検事や判事など司法権力そのものである。
 70年代にカーター米大統領は「個人の薬物所持に対する刑罰は、個人がその薬物を使うことによってこうむる損害を超えるものであってはならない」という名言をのこした。
 「大麻は麻薬である」というのが、取締りの理由とされるが、麻薬の条件である依存性については、逮捕された違反者を観察すれば、ヘロインやシャブなどのハード・ドラッグの禁断症状のすさまじさと比べて、大麻には禁断症状がないことを、当局は目の当たりにしてきたはずである。
 まして科学的にはとうの昔に否定された「踏み石理論」(大麻はハード・ドラッグへの踏み石になるという説)を今だにふりかざし、科学的根拠の全くない「大麻精神病」をでっち上げるなど、大麻後進国の遅れはひどいものだ。
 大麻取締法の改悪とは、文明化とは逆コースをたどることであり、欧米先進国との協調を拒み、閉ざされた島国の警察国家へと、日本を追いつめてゆくだろう。
                                   (12.2)           


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