46. よど号ハイジャッカーの帰国問題

 昨年来、朝米対話が開始され、米国が朝鮮の非核化への対応措置として「テロ支援国家指定解除」に合意した。そしてこれまで「解除の条件」としてきた「よど号関係者の追放」問題は、不問に付されるようになった。
 ところが米国は「テロ支援国家指定解除」を、核問題を理由にいまだに時期尚早としている。しかしこの引き延ばし策の裏には、日本側の圧力があるようだ。
 拉致事件を振りかざして、朝鮮への憎悪と恐怖心を煽りたて、巨費を投じてイージス艦やパトリオット・ミサイルなどを買いまくり、戦争のできる国にするため改憲を強要する日本のネオコン右翼にとって、朝鮮と米国が親しくなっては困るのだ。それは嫉妬であり、孤立であり、身の破滅なのだから。
 そこで彼らはピョンヤンに匿われているよど号ハイジャッカーに、「北朝鮮テロ工作員」「日本人拉致工作員」のレッテルを貼って、米国の産軍共同体とテロ対策を練る。もし、朝鮮が「テロ支援国家指定」を解除され、よど号のハイジャッカーたちが帰国したら、軍需産業は巨大な儲けを失うことになるからだ。
 この問題は国際的な警戒心を招き、3月末、英国労働党系のEU議会議員一行3名が、朝鮮を訪れ、ピョンヤン市内のホテルでよど号ハイジャッカーたちと会見し、帰国問題について質問したという。
 ハイジャッカーたちの帰国要求の基本は、日本政府が「北朝鮮のテロ工作関与犯」「日本人拉致犯」としての引き渡し要求を撤回することであり、日本政府がその対朝鮮敵視姿勢を改めるならば、「よど号ハイジャック事件」についての逮捕、裁判を受け入れる用意があることを明らかにした。
 グリン・フォード団長ら一行は、理解と賛同を示し、これをEU議会に公開し、また日本政府にも話してみると積極的だったという。
 
 以上の情報はマスメディアによるものではない。これはよど号ハイジャッカーの「帰国支援センター」が発行する機関誌『かりはゆく』(No.74 08.4.10)に掲載されたハイジャッカー若林盛亮氏の「ピョンヤン便り」によるものである。
 1970年3月31日、「オレたちは明日のジョーである」というセリフを残し、世界革命を志してハイジャックで北朝鮮へ渡った全共闘新サヨクの発想は、マリファナやLSDによる意識革命をめざしていたヒッピーには、劇画チックなパフォーマンスにしか見えなかった。連続企業爆破事件の「狼」「さそり」「大地の牙」という東アジア反日武装戦線の三部隊にしても「本当に本気なの?」という感じだった。勿論サヨクの方もヒッピーというのはふざけた連中だと思っていたに違いない。
 運動の挫折と権力の弾圧が、サヨクとヒッピーを近づけた。「救援連絡センター」の事務局長、山中幸男氏の紹介で80年代末期から、ピョンヤンのよど号ハイジャッカー(その後彼らは「かりの会」を名のった)と交信するようになり、月1回の通信を受取り、たまにはこちらからも通信や私信を送った。「かりの会」の機関誌『アジア新時代と日本』は、今年になって編集、発行をピョンヤンから大阪に移したが、朝鮮という世界で唯一インターネットのない国からの発信は、実にユニークで尖鋭的である。
 彼らが大麻に興味あるかどうかは問うていないが、日本にいた頃はロックバンドをやっていたという若林氏の私信に「今秋も大麻が豊作です」と書かれていたことがあったから、ヘンプ産業は盛んなのだろう。朝鮮や中国は国連WHO(世界保健機構)の「麻薬に関する単一条約」に批准していないから、大麻取締法などという悪法は存在しない。
 3月31日、ピョンヤンの「かりの会」は「渡朝38年に際して」という声明を発表した。国交のない日朝の架け橋にならねばと願いながら、その願いとは裏腹に、不本意にも朝鮮敵視、九条改憲ーー「戦争のできる国」づくりの利用物にされてしまった苦悩が、胸に迫る声明文である。
 帰国事業は既に大人6名と子供19名の計25名が、念願の帰国を果たし、残るは「よど号」本体の男性4名と、「拉致容疑」で逮捕状が出されている女性2名、そして最年少の子供1名の計7名のみとなった。
 彼らの帰国が国際社会の関心事となり、日本政府の朝鮮敵視政策が批判されているのに国際的に孤立してしまった日本外交にはそれが読めず、マスコミは肝心なことは何も伝えない。ひょっとしたら、世界の趨勢にとり残されているのは、朝鮮ではなく、日本ではないのか?
                                    (4.17)
 [月刊機関誌 紹介]
『アジア新時代と日本』
536-8799 大阪市城東郵便局私書箱43
http://www16.ocn.ne.jp/~sinjidai/

『かりはゆく』
東京中央郵便局私書箱597 かりの会・帰国支援センター
http://www.karihayuku.ecnet.jp/


| HP表紙 | 麻声民語目次 |