43. 大麻弾圧40年と救援運動

 昨年12月、関東学院大学ラグビー部の合宿所において、大麻を栽培していた2人の学生が神奈川県警に検挙され、同ラグビー部の学生12人が大麻の吸飲を認めたことから大問題になった。
 結果的にそれは、あらゆる大学のラグビー部のみならず、あらゆる部活が疑惑の目で見られることになった。警視庁の発表によれば、06年の大麻事犯は過去最高の2288人、このうち9割が初犯、3分の2が20代以下の若者だという。
 これはインターネットの発達により、「大麻汚染」などというマスコミのマインドコントロールが暴露され、大麻は麻薬ではないという真実をネット世代が知ったこと、またネット販売によって、大麻の種子や栽培キット、喫煙具など各種の大麻グッズが簡単に手に入ることなどに起因している。
 かてて加えて、10年来の「ヘンプブーム」である。EU、カナダ、オーストラリアなどの大麻先進国では、大麻を重要な植物資源として、食品、繊維、建材、パルプ、オイル、化粧品、プラスチックなどに産業化し、エコ製品として日本でも輸入されたのだ。
 こうした世界の潮流に乗って大麻人口は膨張し、大麻事件は今後も増加の一途をたどるだろう。そこで改めて、「大麻取締法」という天下の悪法について語っておきたい。
 戦後、アメリカ占領軍の要請により、国会で審議もなく、1948年に制定された「大麻取締法」は、向精神薬としての大麻を取り締まる目的で作られたものだが、わが国には大麻を吸飲する文化がないため、実質的には20年間も眠っていたのである。にも関らず何回も改悪の手が加えられ、従来あった罰金刑を廃し、違反者は最高7年以下の懲役刑という殺人罪並みの罰則強化がなされた。
 大麻取締法による最初の検挙は1968年、5人のヒッピーが現行犯逮捕されたが、検察庁にはまだ公判資料がなく、起訴猶予となった。それから40年、数万人の心優しき大麻吸いたちが「麻薬犯人」のレッテルを貼られ、いわれなき社会的制裁を受けてきたのである。
 一方アメリカでは、ヒッピームーブメントの影響により70年代には、カリフォルニアなど11州が個人使用を非犯罪化し、医療大麻を解禁するなど、全面開放へあと一歩に迫った。しかし80年代のレーガン反動政権以降、大麻取締りは強化され、今や民主主義先進国の中では、日本と共に大麻後進国となった。
 では、大麻取締りの理由とは何か。もし大麻が麻薬ならば「麻薬取締法」の対象となるはずだが、麻薬ではない証拠に「大麻取締法」を作ったのだ。そこで取締りは、大麻はあらゆる薬物犯罪の入口であるという「踏み石理論」や、大麻常習者は「大麻精神病」、「大麻白痴症」になるということで、精神障害の状態におちいらせるものとして有害の理由とされてきた。しかし、「踏み石理論」は科学的に否定されており、「大麻精神病」、「大麻白痴症」などは医学上では存在しない病気である。
 このように科学的には何の根拠もない理由で、有益無害な大麻を、有害無益な擬似麻薬にでっち上げているのは、実は経済的な理由なのである。1937年、アメリカはナイロン、ビニールからアスピリンまで、石油ケミカル産業の勃興に際して、ライバルのヘンプ産業を潰すため大麻禁止法を制定したのだ。従って敗戦国の大麻文化を一掃し、石油ケミカル文明で日本をアメリカ化、属国化することは国家戦略だったのである。
 わが国の40年に亘る大麻弾圧史の中には大麻の無害性と「大麻取締法」の違憲性を主張して、法廷で闘った被告たちもいる。しかし、法廷で真実を語れば、反省の色なしとして重刑に処せられる以上、被告は心にもなく大麻の有害性を認め、2度と吸わないことを誓って予定調和的に公判を乗り切り、さっさと監獄を出るのが賢明とされてきた。それは大麻問題に精通する弁護士が希少だという理由もあるが、大麻裁判とは被告のウソを法の権威で塗り固めた茶番劇であり、国家レベルでのペテンであることが常識になってしまったのだ。
 このような風潮の中で、03年「麻の復権をめざす会」の活動家桂川直文氏が、栽培免許再申請中に近畿厚労省麻薬部(通称「麻取」)の家宅捜査を受け、現行犯逮捕された。
 桂川裁判一審は大阪地裁で開かれ、被告を大麻シンジケートの黒幕と決めつけ、懲役5年、罰金150万円という、大麻裁判史上最重刑を下した。控訴審では金井塚康弘主任弁護士に、新たに大麻裁判のベテラン丸井英弘弁護士が加わり、「桂川救援全国勝手連」が組織されて、大阪高裁の傍聴席は公判ごとに満員の活況を呈した。
 桂川被告は、大麻の無害性と有益性を語って一歩も譲らず、「麻取」取調べ官たちの欺瞞を暴露し、検察の言いなりにならない司法の独立と権威を求めた。結果は控訴棄却となったが、桂川裁判こそはそのスケールの大きさ、レベルの高さ、救援運動の盛り上がりなど、あらゆる点で画期的なものとなり、解放運動に大きな活力を与えたのである。
 下獄後、勝手連は獄中との交流誌を発行したが、05年の受刑者処遇法施行により親族以外との交信も可能になった。しかし、07年から勝手連メンバーとの交信は一切遮断され、こと大麻事犯に関する限り法改悪であったことを思い知らされた。そして今夏、「麻の戦士」は5年の刑期を終えて帰還する。
                        桂川救援全国勝手連  山田 塊也
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 以上の文章は「救援連絡センター」の機関誌『救援』(468号、3月10日発行)に寄稿したものである。「ケータイに耳あり、ネットに目あり」、いざという時に備えて、大麻吸いたちに救援連絡センターと、その刊行物を紹介しておきたい。

 「救援連絡センター」
 国家権力の弾圧に対して、犠牲者の思想信条、政治的見解のいかんを問わず、人権擁護を目的として救援する組織である。
 財政はこの目的に賛同する個人、団体の会費、機関誌等の購読料、寄付金などで賄い、東京新橋に事務所を置き、数名の事務局員が、被弾圧者に対する適切な法律的援助、月刊誌『救援』の発行、在監者への援助、情宣、カンパ活動、諸団体との連絡などの業務を行っている。
 私個人としては83年の「バクトリ事件」でお世話になって以来、センターとの関わりは深く、大麻事件でも何人かの友人に紹介したことがある。そして「88いのちの祭り」では、センターの事務局員と獄中体験者たちが共同で寸劇を演じ、好評だった。
 もし大麻で逮捕された場合、罪を認めて一日も早く監獄を出る気なら、国選弁護士(無料)で十分だが、法廷で主張する気なら国選弁護士は大麻取締法のことなど知らないので、センターに弁護士の相談をしてみよう。

 『救援ノート』 逮捕される前に読んどく本
 救援連絡センター発行 122ページ 500円 職務質問、家宅捜索、逮捕、留置場、取調べ、救援など、いざという時に備えて、予備知識を蓄えておこう。

 救援連絡センター
東京都港区新橋2−8−16 石田ビル4F
Tel 03−3591−1301(03.3ゴクイリイミオーイ 獄入り意味多い)
Fax 03−3591−3583
E-mail : kyuen@lime.livedoor.com
http://kyuen.ld.infoseek.co.jp

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「大麻弾圧40年と解放運動」については、このたび「大麻をめぐる40年の闇」と題して、ルポルタージュ大作を執筆したので、『アナナイ通信2号』に掲載し、今春中に発行します。乞御期待!!
                                  (08.3)


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