39. 大麻とプルトニウム

 奄美のことから核の話に及び「麻声民語」のテーマを逸脱したまま年が明けた。そこで軌道修正に当たって、改めて大麻と核について論じてみたい。
 今春、六ヶ所村の再処理工場が予定通りに本格稼動すれば、いよいよプルトニウムの大量生産が開始される。冥界の魔王プルトーンの名に由来するプルトニウムは、自然界には存在しなかったものを人間が造り出した物質であり、その凄まじい爆発力と猛毒性は自然界の放射性物質の比ではない。それは大麻吸いの意識をラヴ&ピースに拡大する物質THCの対極にある破壊物質であり、内なる神のテロルである。
 再処理工場が稼動すれば毎年800トンの使用済核燃料から、猛烈な放射性汚染を伴って7〜8トンのプルトニウムが分離・抽出される。だが高速増殖炉もんじゅの頓挫により使用目的を失ったプルトニウムは、プルサーマル計画にシフトされ、ウランと混合してMOX燃料として、再びウラン用原発で燃やされることになる。かくて大量のプルトニウムが頻繁に陸上運搬されるに従って、核ジャックを警戒する管理体制が強化されるだろう。
 テロの手段としてのプルトニウムは、ジャックして核爆弾を造らなくても、粉末状の酸化プルトニウムは簡単な容器に閉じこめて運ぶことができるというから、「自爆テロ」なら角砂糖一個分で2000万人を殺すという猛毒物質を、群衆の中へふり撒くことは簡単である。そこでプルトニウム警察国家という監視カメラと盗聴マイクと密告者たちに包囲された息詰まるようなウルトラ管理社会が現出するだろう。大麻吸いは息をひそめて生きるしかない。
 プルトニウムを分離・抽出した後の高レベル放射性廃棄物は、キャニスターの中でガラス固化体にされるが、この段階でも30秒そばに立っていたらショック死するという。中間貯蔵場で30〜50年間貯蔵され、放射能が弱まり、熱も半分くらいになってから最終処分場の地下に葬られることになる。この「中間貯蔵」は地層に埋設することなく、地上の建屋内に保存できるとか。そこで六ヶ所村に中間貯蔵しても、使用済核燃料は全国の原発からすでに9000トンも運び込まれており、たちまち満タンになるだろう。かくて第2、第3の中間貯蔵場が必要となる。現在むつ市が候補に上がっているほか、珠洲、人形峠、馬毛島などに噂がある。徳之島も中間貯蔵場の可能性がある。
 「わたしの疑問は、高レベル放射性廃棄物が、さまざまな高濃度の放射性物質を内包してまだ生々しい時期に地上に置かれ、50年ほどたって、いくつかの物質の半減期が過ぎたあとになって、ようやく地中にふかぶかと葬られるという点にある。それだったら、すでに深層処分する意味がない。いかにも欺瞞的だ。「中間処分場」ですまされてしまわないかどうか」                               鎌田慧『原発列島を行く』
                 
 「原発の時代は終った」と言われて久しい。廃棄物と廃炉の処分など経済的なメリットはないはずなのに、国をバックにつけた原子力産業は、現在55基の原発を更に新設、増設する気なのだ。最近では山口県の上の関に中国電力が新設を計画し、瀬戸内海の攻防戦が展開中である。
 地球温暖化の原因が、なぜかCO2一本に絞られ、ラブロック博士の裏切りなどもあって、原子力があたかも「エコ・エネルギー」であるかのように宣伝され、再び原発ブームとなり、アジアで新設を計画中の原発は実に150基という。これでは温暖化より放射能汚染の方が脅威である。
 たった5キロで長崎型原爆一個を製造できるという悪魔の物質プルトニウムを、わが国がどのくらい所有しているかというと、再処理以前の未分離のものや、ヨーロッパに委託してあるものなどを合計すると約150トン。
 世界的には軍事用が250トン(アメリカとロシアで90%)、民生用では分離されたもの273トン、未分離のもの1125トン、合計1375トン。これに毎年100トン近くが増加している。(2003年現在)
 「プルトニウム・プレッシャー」と呼ばれるプルトニウムの大洪水と、その百倍もの高レベル廃棄物、更に何百倍もの中、低レベル廃棄物まで莫大な放射性毒物の遺産を、未来に押しつけて現代人は去ってゆく。大量消費文明の果ての地球丸ごと使い捨て文明である。
 はたして巨大な「負の遺産」を前に、未来世代が人生に夢や希望を抱けるだろうか。温暖化には拍車がかかり、天変地異や食料危機が襲い、戦争と内乱が世界を覆う時、大麻吸いは何を祈るのか。それを今から考えておこう。
 もし世界が滅亡しても「ボン!」と一服、心はいつも「ラヴ&ピース」なら、ほとんどキ印、悟りの境地。
                                    (08.1.8)


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