38. 徳之島でなく東濃か?

 農林水産省が元核再処理工場予定地に、巨大なダムを建造したことから、それが NUMOがテレビで公募する核のゴミ捨て場ではないかと、闘牛と長寿の南の島ではウワサ百出。すでに地下工場が密かに造られているとか、補償金でマンションを買った人がいるとか。
 「MAT計画後遺症」ともいうべきこの過剰反応は、実は私にもあって、「高レベル放射性廃棄物最終処分場」のイメージは、ついに原爆製造工場にまでぶっ飛んだ。それがバカ化た妄想であり、「麻声民語37」は虚言妄語であることを自覚させてくれたのは、友人たちからの2通の手紙だった。1通は奄美・徳之島から、もう1通は東濃・瑞浪から。
 徳之島の友人は80年代初頭、MAT計画に対する予防闘争として、私たちがキビ刈り援農団を組織した頃からの仲間であり、彼はそのまま島に住みついたのだ。
 私の質問は、「もしMAT計画当時から奴らの真の狙いが高レベル処分場だったとすれば、すでに全島に基盤整備が仕上がっているはずであり、地下300メートルの地層調査も済んでいるはずだがいかが?」というもの。答えは、
 「現在的な道路、橋の構造では重量物の運送には耐えられないと思います。又、地下の掘削は本体工事を見る限り、50〜60メートルが限界であり、三京地区の地盤では大規模な掘削は保たないと考えています」とのこと、彼は土木関係に詳しい男なので、ホッと安心した。しかし「問題は徳之島程度の島に、600億近い金をつぎ込んで、3500町歩程の畑を整備するだけが目的なのか? 疑問あり、農水省の説明通りに受け取ることができない」とある。
 彼は島の若手の経営者や有力者たちと島興こしのNPOを立上げて活動中であり、手紙のラストは「まだまだ頭は動いており、奴らの思い通りにはさせません。俺は徳之島が大好きな人種です」と結んであった。
 私の不安と妄想は、高レベル処分場が秘密裏に建造されるのではないかということだった。だが、まがりなりにも非核三原則がある以上、そのような陰謀は不可能だということを、東濃の住民運動は証明してみせた。
 前回の麻声民語では書き忘れていたが、六ヶ所村に再処理工場が決定した後、高レベル放射性廃棄物の最終処分場として最初に白羽の矢が立ったのは北海道の幌延だった。80年代後半の反原発ブームの中で、幌延は立ち消え、次に浮上したのが東濃鉱山跡地の瑞浪である。
 東濃・瑞浪の運動を最初から担ってきた陶芸家であり、平和運動家である友人からは、大量の資料が送られてきた。私が同じ岐阜県下の高山にいた頃は、瑞浪との交流も盛んだったのだが、関東へ移住してからは、高レベル処分場の情報とも疎遠になっていたので、最新情報を見て愕然とした。
 80年代後半、核燃が瑞浪市の元東濃鉱山の地下坑道を利用して、超深地層研究所を設置したのに対して、これを高レベル処分場と見なした住民の反対運動が起きた。核燃側は「これはあくまでも研究所で、処分場ではない」と弁解、98年には旧科学技術庁長官から岐阜県知事に「確約書」が渡された。しかし後日これは政策文書であり、法的効力はなく、変更もありうることが判明した。
 05年、旧動燃により86年以降、処分候補地の地下調査が秘密裏に行われ、瑞浪市、恵那市、中津川市など東濃4ヶ所が選ばれていた資料が、裁判によって情報開示された。これによって処分場選定に対する不信感が高まり、透明性と住民の自主性を尊重する公募方式が開始されたのである。
 しかし公募方式は東洋町や宇検村の敗北を受けて、9月経済産業省は現行の「公募方式」に加え、応募がなくても国が市町村に対して初期調査(文献調査)を行う「申し入れ方式」を導入する方針を明らかにした。この方式は国の押しつけになる可能性があり、特に東濃の場合は瑞浪超深地層研究所を容認し電源交付金を受け取り、なおかつ土岐市には核融合科学研究所が立地する弱みもあって、調査の申し入れを拒否できるかどうかが問題。
 核のゴミ捨て場をめぐる住民の不安と疑惑、恐怖と怒り、分裂と対立、不信と憎悪、絶望と混乱などのネガティーヴな情念が、20年近くも渦巻く中で、友人の手紙は語る。
 「いろんな面で東濃は、金ビンタを皆ではり合ってやってます。小中学生の自殺も増えるでしょう。人心のみだれは彼らにとって好都合と思います。文化面にもどんどんお金が出て、みんなやられて行きます」
 そしてチラシの余白には荒々しい肉筆で「2007年12月18日 東京都で 第1回説明会が行われる」と、追記されていた。
(運動紹介「放射能のゴミはいらない! 市民ネット・岐阜のホームページ」
http://www5b.biglobe.ne.jp/~renge/
 原子力立国の核サイクル計画によれば、新春2月から六ヶ所村の再処理工場を本格稼動させ、原発の使用済み燃料からプルトニウム等を抽出した後の液体廃棄物は、ステンレス製容器の中でガラスと混ぜて固化し、六ヶ所村の中間貯蔵庫で30〜50年間冷却安置した後、最終処分場の地下300メートルに処分するという。そこで最終処分場の確保はここ1、2年が正念場だとか。
 しかし最終処分場へガラス固化体の廃棄物が運び込まれるまでのこれから30年の間に、巨大な東海地震が発生する確率は87%。最近の研究ではマグニチュード9クラスの超巨大地震も予測されている。それなのに「10.26原子力の日」静岡地裁は、浜岡原発運転差止め訴訟を却下した。住民の不安を無視し、現実に背を向けた不当判決である。かくて東海大震災による被害想定は死者1000万人、首都壊滅もありうるとか。最終処分場より先に、原子力立国そのものが処分されるだろう。
                                  (12.25)


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