19. 詩 新春悪夢抄

ガサに備えて 大麻を断ってるため
私の精神はバランスを崩したらしく
このところ可笑しな夢ばかり見るのだ
ゆうべは富士山が 爆発した夢を見た
休火山の噴火だと思ったが すぐテロップが出た
「アメリカ国防省は本日 北朝鮮の秘密基地から
数発のミサイルが発射されたのを 軍事衛星によって
把えたと発表した」

日本国民は激昂し マスコミは戦争ムード
右翼民族主義者たちはここを先途と跳ね上がり
在日コリアンたちに牙をむいて襲いかかった
反戦平和主義者たちは「非国民」として弾圧され
総理大臣は大金を持ってホワイトハウスに駆け参じ
ジャーン!日韓米の連合艦隊が日本海へ進撃
朝鮮の聖地白頭山に ミサイルをぶちこんで
アメリカ軍は富士山の仇を討った

その夜 全国各地で「日本勝った!」の提灯行列
テレビでは防衛大臣がニートやフリーターに
「自爆テロ隊員募集!」を呼びかけた
美しい国をもっと美しくするために
神風に乗せられ 北朝鮮へ向かって
単発戦闘機が次々と飛んで行った
日の丸印のハチマキに シャブを決めて

「シャブはやめろ!」と私は叫んだが声にならず
無力感とあほらしさから 尿意を催し
目覚めた私はベッドの下のしびん(溲瓶)をとり
寝たままで用を済ませると
人工呼吸器のマスクを整え
再び 眠りの世界へ帰ったのである
しかし私が小便していた束の間に
眠りの世界で いったい何が起きたのか?

どこもかしこも瓦礫と不毛の焼土と化し
死者は黒焦げのロボットばかり
人間はおろか虫ケラ一匹いない死の世界
上空は部厚い雲に覆われて光もなく
テロップに「国破れて山河なし」と出た
冥界の闇路を彷徨い たどり着いたのは
奥の院とも覚しき 微光の洩れる岩戸の前
かたじけなさに涙流るる岩戸は音もなく開いた

薄明に照らされた雛壇には 内裏雛と后雛
従者もなく供物もなく 雛人形には頭がない
頭部はへその前に両手で支えられていて
その顔面には空ろな微笑が張りついている
ああ 平和大国を象徴した その空ろな微笑よ!
伴奏もなく 厳かにテロップは流れる
「日の丸は 白地に白く 真白く
 君が代は 千代に八千代に さようなら」

そこで私は亡国を知り 愛国を悟った
するとチャンネルが変って ブッシュ大統領が出た
楽しそうにキャッチボールしている相手は
小泉首相に替って 何と金正日総書記ではないか
さては富士山の爆発もアメリカの謀略だったのか?
息苦しさに目覚めた私は人工呼吸器を外した
鼻づまりの悪夢を吹き飛ばす一服が欲しかったが
渋いお茶を飲んで悪夢を吟味し 抄を記した
              (07.1.27)


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