14. アナナイ通信2号と桂川君の近況

 『アナナイ通信』創刊号を発行して数カ月、確かな手応えを感じながら、編集部はこれから第2号の制作にかかるところである。
 このミニコミを制作した第一の目的は、懲役5年の長きに渡って獄中生活を送ることになる桂川直文君との交流を図るためだったので、年2回の発行を目指していた。ところが彼の下獄と時を同じくして、刑法改正が施行され、身元引受人以外でも獄中者と手紙の交信ができるようになり、年2回の発行は必要がなくなった。しかし桂川事件を縁に繋がった全国勝手連の機関誌として、年1回程度は発行してゆきたいと思っている。

 [桂川君の近況]
 桂川君は京都刑務所で一年の服役後、今年8月から富山刑務所に移監された。これは木工の職業訓練生に応募して採用されたためである。京刑は仮釈放などありえないヤクザ屋さんばかりだったのに、富山刑に全国から集まった職訓の仲間は受刑者としてもとても優秀な面々だったため、しばらくはつき合いモードに混乱が生じたとか。職場は木工場の一角で、70本余りのノミを貸与され、厚板に植物を彫ることを学んでいる。「毎日彫るのが楽しく作業を夜も続けたいと思うことがある」「葉っぱを彫りたくて仕方なく、いつもどのように彫るか考えている」とか。
 富山といえば立山、その立山の向う側は安曇野、彼の故郷なのだ。水が美味いと言う。
 「昼は彫刻、夜は読書と、とても充実した日々です。これで無為に懲役生活を送らずにすみます」と書いてあった。桂川君の文章は相変らず理路整然としていてムダがなく、惑いがない。獄中では文章を練ったり、推敲を重ねる時間もないはず、その上ガンジャも無いのに良くここまで書けるものだと感心する。ガンジャが無くてもガンジャ・スピリットに生きるガンジャ道。桂川君の手紙は2号に紹介します。

 [古き良きインド]
 創刊号で私は「大麻文化の最後進国」として、日本の大麻事情を語ったので、2号では「最先進国」としてインドを語っておきたい。もっとも、大麻を非合法化してしまったインドよりも、ヘンプブームのEU、なかでも「カンナビス・カップ」のオランダの方が先進国だという見方もできるが、大麻文化の起源であるインドは、その根づきから大衆性までヨーロッパの比ではない。
 そのインドは「近代化」に最後まで抵抗してきたが、ソ連崩壊後アメリカの接近によって、1991年ついに市場自由化に踏み切り、IT革命とタイアップして一気にグローバリゼーションの大波に乗り、中国と共に急激な経済成長を遂げている。そしてこのどさくさまぎれに、ヒンズー教が儀式や瞑想に使用してきた大麻を非合法化し、ヒンズー教が禁止してきたアルコールを解禁するという大転倒が行われた。政治が宗教を支配したのだ。それは百年前にヴィヴェーカーナンダが警告した「滅亡の道」ではないのか。
 現今インドを訪れ、ガンジャやチャラスを求めても、そこで出会うのは旅人の懐を狙うプッシャーたちの卑俗な心ばかり。かつて大麻道のグルだったサドゥたちが携帯を持ってプッシャーをやっているのだから、モノはあっても心は無いのだ。
 しかしほんの2、30年前まではガンジャやチャラスの背後には、それを産み出す豊かな文化的風土があり、愉快なガンジャ吸いたちの世界があったのだ。今では「古き良きインド」などと過去の幻想のように言われている大麻文化の時代を旅した者が、それを記録しておかなければ、それは無かったことになってしまう。
 グローバリズムの進展の陰で、インドは何を切り捨て、何を見失ってきたのか、大麻を通じて賢者の国の変貌を語っておきたい。(06.10.31)



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