12. [詩・車椅子2題]

     車椅子咆哮

車椅子のゆう太くんはお祭り本部のレストランにいた
崖下の会場からロックが響いてくるが
本部と駐車場のスタッフは終日場外の雑用ばかり
おまけにキャンプインの3日間とも梅雨前線が停滞するとか

会話も歩行もできない大きな頭と小さな体
水頭症のゆう太くんは幼くして母を失い
ミュージシャンの父と3人の姉と兄に育てられ
12歳にして体重50キロを超え自己顕示欲も一人前

奇形児をとりまく家族愛が核になって
多くのサポーターの愛を結集した星まつりが
雨の中で無事スケジュールをこなした最終日の夕方
会場に現れたゆう太くんは奇声を発して吠えまくった

プチブル的マイホーム主義を断固拒否して生涯放浪
最長老の詩人ナナオは星まつりのスペシャル・ゲスト
「ぼくはまだ家族の世話になるような堕落はしていないよ」
などと豪語して薄れゆく記憶の旅路を歩いている

(第3回「半造星まつり」7.15〜17 気仙沼市唐桑半島にて)

     車椅子初見参

車と電車とバスを使って動物園に着くと
久々に出会った娘たち3姉妹は3人の孫娘のうち
ヨチヨチ歩きの2人のためベビーカーを2台と
酸素ボンベ付きの親父のために車椅子をリースした

梅雨明け前のくもり空のもと
大観覧車そびえる人工空間の非日常性の中を
はじけるような笑い声の娘たちは車椅子を押し歩き
かき氷を食らいながら親父は幸福を吟味する

動物園というところは動物を見ると同時に
人の子や孫の反応を見るところでもある
だからそこに表現されるファンタスティックな幸福を
日常的リアリズムで侵してはならない

最高のネタと最高の料理人たち
幸福度はピークに達しているのに
親父が決してぶっ飛ばないのは薬味がないから
人目を忍ぶ一服のガンジャを切らしているのだ

(7.28 東武動物公園)


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