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新宿中央公園で野宿者に炊き出しをしている

津 田  政 明 さん


 日本の失業率が昨年はじめてアメリカを追い抜いた。以前はホームレスなんてアメリカの話で日本では見られないはずだった。ところがバブルがはじけてからここ数年、都会の駅や公園には段ボールやブルーシートが建ち並び、まるで被災地か難民キャンプのような光景が繁華街と同居するようになっている。
 新宿西口に住んでいるため、身近にホームレスの人達を見ている津田さんは、これはおかしいと個人で炊き出しなどの行動をはじめた。若い頃から世界各地を放浪してきた津田さんは、その延長で内戦のあったルワンダ難民キャンプに入ってNGO活動にも従事し、現在にいたるまでルワンダの人達を支援するプロジェクトを続けている人だ。



知らんぷりしてる日本人てものすごく病んでますね

━━ ホームレスの人たちに関わるようになったきっかけは?

 ルワンダの人たちに日本の様子をビデオで見せた時に、たまたま段ボールで寝ている人たちが映ってたんです。そしたら、ルワンダのおじさんたちは「なんなんだあれは?」って一気に総立ち。で、何回も巻き戻しして見て。周りはきれいなショーウインドウなんかがあるのにさ、結構年のおじさんが段ボールにいるわけじゃないですか。それから質問責めですよ。みんなが言うには、白人のところにホームレスがいるのは当たり前だと、彼らは薄情だからね。でも、日本にもいるのかー、みたいなね。彼らは日本は夢の国みたいに考えている。欧米を抜くくらいの力を持っていて、お金もあって。アフリカではお年寄りが大切にされているんです。人々の財産な訳ですよ。アフリカの家庭に招かれると、まず年長者に紹介されるくらいです。日本でも昔は大切にされていたのに。
 で、とどめの言葉が「おまえはもうルワンダに来なくていい。日本でこのおじさんたちのために何かしなくちゃしょうがないじゃないか」って言われちゃいましたよ。「こんなに段ボールで寝ている人がいるのに、おまえは平気なのか?」 ‥‥ズキーンと刺されましてねえ。僕はルワンダルワンダってやってきたのに。でも、ほんと考えてみたら、まずは足元から変えていかないと。それから日本に帰って状況を調べて、なんかやっていこうというのが、スタートラインです。非常に重たい言葉だった。もう来るなっていうんだもん、ルワンダに。
 日本人て麻痺しちゃってるじゃないですか。自分と同じ人間が公園や道ばたに寝て、こんな生活をしているっていうのは、とんでもないことですよ。そのことが我々にとってはものすごい大きな問題だと思うけれども、みんな知らんぷりしてますよね。無関心を決め込むか無視するか。ものすごく病んでいるなあと思うんです。同じ人間として考えることを放棄しちゃってるじゃないですか。隣には高級ホテルがあるのに。これはやっぱりなんとかしないとさー、まずいですよ。
 そういうおじさんたちを殺してしまう、襲ってしまう事件もありますけれども、無視している人たちも共犯者なんですよね。こういう状態を放置しているのは僕らの責任じゃないですか。憲法でも、何人も最低限の衣食住は保障されるっていうのは明記されているのにね。
 それで今は、毎週火曜・木曜に炊き出しをしてます。「ワン・ファミリー」というのを僕がでっちあげましてね、そこでいろんな人の寄付を集めたり、動けるだけ動いてね、あとは炊き出しとか調理は全部おじさんたちがやっている訳です。僕はその材料を提供するだけで、材料の買い出しとかは僕がするけれども、忙しいときは3000円くらい渡して、これで買ってこいって。

━━ 最近ホームレスになる人が増えてるそうですね。

 最近は普通の人が増えましたね。以前はそれっぽい人が多かったけれども。いまは普通の人がいきなりぼーんとここにきちゃうんですよ。
 アメリカでは、こういうところに来るまでにいくつかのネットが張られているんです。寝るところと食い物は何人にも供給するみたいなシェルターが必ずあるわけです。そこに行けば最低限、夜ごはんをたべてシャワーをあびて寝るくらいのことは常にできるんです。
 日本はそういうのがないです。職がなくなって金が尽きたらいきなりここですよ。だから、欧米のメディアがきて、ここを取材するとみんな驚くわけ。やっぱり、アメリカでもヨーロッパでも、このレベルになるっていうのはさ、シェルターにもいかないはみだしもんとか、ひねくれもんとかさ、もっと押し出された人間なわけですよ。 日本てやっぱり金もあるしさ、それなりの文明を誇ってきたわけじゃないですか、バブル頃まではさー。でもあの頃にそういうシステムに何ひとつ手をつけなかったわけでしょ。箱物はつくったけど、ほんとの意味での弱者への投資は全くしてこなかった。で、バブルがはじけて、一気にぼーんとでてきちゃった。日本って薄情なところがあるよね。弱い人に対しては。

━━ そういったシステムづくりも考えてるんですか?

 僕はねえ、行政に要求するとか、そういうレベルでの動きはしたくないんですよ。それより普通の人が当たり前にこういう問題に関われるような場を作っていきたいなって思ってるんです。みんな見ないふりして素通りしているようだけど、なんかひっかかっているものがあるわけですよ。でも何したらいいかわかんない。僕の場合はまったくニュートラルな色がついてないところで、少しでも食べる物ができればとやっているんです。すると炊き出しをやっていてもさ、天ぷら屋のおばさんが天かすがあるから持ってきてあげるわよとか、気になる人は何やってんですかって話しかけてきて、じゃあ資金カンパだって千円くれたりね。そういう面でも、ここでやっているっていうのはメリットがあってね。どっかで作って持ってくるのと違うじゃないですか。だいたい6時半から8時半まで2時間かけて作りますから。


互いに助け合うのを見てると ほのぼのします

━━ 中の人間関係はどうですか?

 今ここにいるのは250〜300人弱ですね。人は変わりますけど、卒業していく人もいますしね。卒業してった人が年末にカンパカンパって来たりね。それはうれしいですよ。世話になった奴に一本持ってきたりね。だからね、ファミリーというか、ひとつのコミュニティというかね。
 最初の頃はけっこうトラブルもありましたよ。「うちの方には挨拶がねえ」みたいな、ささいなことでいちゃもんをつけてきたりね。酒を飲むと別人になっちゃうオヤジもいるし、いろんなドラマがありましたけど、やっぱり助け合いはすごいものがあります。ちょっと一日二日仕事にでると必ずみんなになんか振る舞うもんね。牛丼食いにいこうとかね。そういうのは見ていてほのぼのしますよね。
 仕事がなくてもね、「えさとり」っていうものがあるんですよ。要するに残飯漁りです。コンビニとかハンバーガー屋の捨てたやつとかね。餌場っていうなわばりみたいなのがあってね、誰でもが行って取れないわけですよ。で、いっぱい出るところは、みんなに配ったりね。たまに僕ももらいますけどね(笑)。
 冷えたマックの肉なんて、人間の食いもんじゃないですよ。でも生きてる人はそれで生きてますからね。要するに冷たいもんばっかでしょ。だから温かい炊き出しっていうのをみんな喜ぶわけです。今年は風邪をひく奴も少ないしね。凍死する奴もいないしね。この炊き出しのお陰ですって、みんな言ってますよ。だから、火・木・金って炊き出しをやって、そしてお茶は常に出してるんです。ちゃんと当番が決まっていてね、そいつが朝練炭を起こして、でかいやかんがあるから沸かしてね。そういうシステムを作っていってるんです。
 彼らが使命感に燃えてやるんですよ。炊き出しの調理係もね、味に自信をもってさ。で、みんながうめえうめえっていって食べてる姿を見るだけで彼らはすごく充足感があるわけじゃないですか。

━━ 炊き出しっていうと、ただ作って配ってるのかと思ってましたけど、自分たちで作るっていうのはいいですね。

 そうなんです。僕もねえ、慈善事業みたいにあげるだけでいいかって思っていたけれども、おじさんたちの態度なんかをみていてもやっぱりちょっと違うんですよね。朝炊き出しでやってるでしょ。みんなすごくいい雰囲気だねって言いますよ。他のところのただもらうだけの炊き出しはね、気が淀んでね、おじさんたちの顔も違うんですよ。こっちは対等な関係な訳じゃないですか。また、僕んとこの炊き出しは自分で食器はもってこいっていう、マイボールとマイハシなんですよ。終わった後いちいち食器を洗う必要もないしね。もうルールが徹底しているから、ほぼ100%持ってきますよ。他んところは食器を出すでしょ。こんどはそれが街を汚す原因となるんですよ。だから終わった後、ゴミ一つないですよ。

━━ 今後の活動はどう考えてるんですか?

 ただ飯を作っているだけじゃその先には行かないので、これから毎月1回、街の清掃をすることにしたんです。昨日もおじさんたちを50人くらい集めて。駅くらいまでのエリアを4ブロックくらいにわけて、朝9時から11時くらいまでやったんです。
  そのかわり僕が用意したのは銭湯の券。それを僕が50枚買って、掃除をやった人にあげる。それも結構な出費だけれども、そこでみんながほんとに真剣に掃除をやってんですよね。おじさんたちえらいよね、昨日、ぼくも感動しました。
 そういうことをニューヨークでもっとシステマティックにやってるんですよ。ホームレスが掃除することを事業にしているんです。いろんな会社から基金を集めて、掃除する人の住まいと食べ物とそこそこの報酬も保障してね。要するに街の掃除を請け負うっていうね、そういうことをマンハッタンでやっているんですよ。
 その辺が次のステップかなと思ってね。掃除なんて非常にベーシックなことだし、みんな喜ぶしね。周りを味方につけられるじゃないですか。なんにもしないでおいて、行政に対していきなり収容施設を作れっていったところで、向こうは態度を閉じちゃうしね。民間である程度の金を集めて、その実績をふまえて行政とタイアップしていくっていうのもできるかもしれないしね。で、はやりのNPOにしていくっていうように発展していけばさあ、すごくおじさんたちの存在価値みたいなのが認められるわけじゃないですか。この前も、大工仕事が得意なのがいるからね、なんでも屋をやろうかみたいな話になってさあ。棚付けたりとかさ、水道がつまったとかさ、けっこう今高いじゃないですか。この中にプロフェッショナルが沢山いるわけだから、得意な分野のリストを作ってさ。特に老人家庭を専門に、将棋の相手とかさ、ニーズはあるだろうし。そういうので一つの窓口をつくれば、いろんなことが発展していくわけですよ。



ここは最後の修行道場だなって思いますね

━━ こういうこと、なぜやってるんですかとよく聞かれるでしょうね?

 やっぱ楽しいからやってんですね。根本的に楽しくなくっちゃなんにもしない方ですから。ルワンダっていうと、えー大変でしょーって言われるけどさ、その大変さが楽しいわけじゃないですか。新宿のおじさんたちの問題も一人でやってんの?とか言われるけどね、一人でできるだけのことをやってるだけだし、無理してやってるわけじゃないから。それにここの乗りはアフリカっぽいね。みんなストレートだし、すべてを捨て去った裸のおっちゃんたちじゃないですか。すごくね、アフリカっぽい。
 ここにいる人たちって抜けちゃってますね。すごく魂の高い人だなあ、最後の修行道場みたいだなって思います。テントに寝るっていうのが、完全に一線を越えちゃっているわけですよ。いま中高年の自殺って増えているじゃないですか。自殺する人たちのかなりの部分は、ここに来れなかった人たちなんですよ。こういうところに入って行けるかっていうと、ちょっと考えちゃうじゃないですか、やっぱり。だからある人は中央線に飛び込むかもしれない。東京でホームレスは5800人という数字を都は発表していますけど、プラスアルファがいるんじゃないかって僕はいつも言うわけですよ。そこで自殺をしてった人たちもカウントしなくちゃいけないわけです。状況は同じで選択肢は二つしかないわけですよ。自分で飛び込むか、ここでゼロで、餌取りと称する残飯で暮らしていけるか。そこであえてここにいる人たちは、中央線ではなくくてこっちを選んだんですよ。ほんとに生と死のぎりぎりのところなんです。ぼくらが普通に生活していたら気にもしないし、考えもしないし。のんべんだらりと死んだら終わりだって気でいるけれども、ここにいる人たちはそこを通ってきているわけですよ。

【インタビューを終えて】

 自分自身、アメリカを放浪中にはシェルターでただメシを食べさせてもらったこともあるという津田さん。その一方ではハリウッドの映画関係者の専属指圧師になったりニューヨークでは証券関係者と仲良くしたりと、スケールの大きな旅をしてきたようだ。そんな体験によって、アフリカの難民や東京のホームレスの人達のことを我がこととして感じる広いハートや、おかしいと思ったら1人でも行動にたちあがるガッツが養われたのかもしれない。一人一人違う以上、津田さんと同じ人生を歩むことは誰にもできないが、彼の話を聞いたことで元気をもらい、自分なりにできることをやってみたいと感じる人がいればインタビューのかいがある。
 なお津田さんは数年前にルワンダ名曲集というCDを自主制作したのにつづき、今はルワンダにアフリカ一の設備を誇るスタジオをつくり、アフリカ音楽専門のレーベルをたちあげるというプロジェクトにも力を入れていて、実現に近づきつつあるそうだ。 (浜田)



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【協力してください】

*朝の暖かいすいとん300食が約5000円で作れます。今年こそ空腹による路上死者を出さないよう、あなたの協力をお願いします。また冬物男性衣料、下着類、タオル、洗面用品、毛布、寝袋、シーツ、携帯ラジオ、乾電池、缶詰や乾麺、小麦粉などの食材(賞味期限切れでも可)等の提供もお願いします。

★ワンファミリー連絡先:

〒160-0023 新宿区西新宿6-13-21 
Tel.&Fax.03-3345-3519
E-mail:amahoro@fh.freeserve.ne.jp
振替:00180-7-134492 口座名「ワン・ファミリー」 
 
*ルワンダ関係も連絡先は同じです

あふりか精霊達との対話展のHP



あふりか精霊達との対話展

No.99=2000年3・4月号

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