amanakuni Home Page | なまえのない新聞ハーブ&アロマテラピー | 八丈島の部屋

商店街でデポジット

     ガラス張りの見晴らしのよい書斎で      熱弁をふるう安井さん      

早稲田商店会長の

安井さんに聞く


「いままで環境問題だとか街づくりって、正直言ってオレたち町場の商人にとっては一番遠い存在だと思っていた。冗談じゃない、こっちは忙しいんだ。そんなものは役所とか市民団体がやりゃあいいんだってね」と笑うのは早稲田商店会の会長さんで、スーパーの社長さんでもある安井潤一郎さん。「ところが、環境っていうのは身の回りのことで、街づくりというのはご近所づきあいっていう意味だって気づいた時に初めて、じゃあな〜んだオレたちの役じゃないか、なんでそれを人にまかせるんだってことになった。」

 早稲田大学周辺の商店街では、1昨年の夏に開いた「エコサマーフェスティバル」というイベントや同年秋の「ゴミゼロ平常時実験」等を手始めに、環境問題をはじめとする様々な視点と商店街の活性化をリンクさせた「いのちのまちづくり」という試みをはじめ、注目を集めている。市民運動や行政とは違う「商人」という立場で町を考える安井さんたちの動きには人を巻き込む魅力とエネルギーが感じられる。


何か利口そうに見えるイベントは?

「私自身、もともと環境問題に興味無かったんです。学生がいなくなる夏枯れの街は淋しいので何かイベントをやろうという時に、ただの商店会の夏まつりじゃあ今いちだから、もうちょっと利口そうに見えるのはないかってことで、今「環境」ってつけるとなんでもひっかかってくるよっていう話しから第1回エコサマーフェスティバルをやった。で、環境ってつけてるのにゴミ出したらみっともないなーって話から、じゃあゴミの出ないイベントをやろうと。そこから発展して、イベントやって町中のゴミをゼロにしようっていう事になった。で、やってみたら現実にすごい勢いで再資源化できた。でもそれは一日だからできたんだって言われたから、今度は1ヶ月のロングランでやろうってことになって、平常時実験をやったんです」

ゴミゼロ平常時実験というのは、事業系ゴミの有料化を目前に控えて早稲田大学周辺の約420店の商店が取り組んだ実験だ。「ふだんの生活の中で、どこまで楽しみをもってゴミを減らせるのかに重点を置いた」という試みで、様々な装置を活用して、商店街をリサイクルの地域実験場にした。対象となったのは、飲料容器や生ゴミ、発泡スチロール、古紙など‥‥大学の周辺にリサイクル機器(飲料容器の自動回収機や生ゴミ処理機などなど)やステーションを設置して、商店や住民、学生など、みんなでゴミを減らそうというものだった。

中でもラッキーデポジットという飲料容器の回収方法は面白い。ペットボトルや空き缶を自動回収機に入れると、商店会協賛のラッキーチケットが当たるというゲーム感覚の楽しみも盛り込まれている。60種類以上あったというチケットは商店会に参加している様々なお店が出しているものだ。

たとえば歯医者さんから出されたのは虫歯の無料相談券だ。

「それは何かっていうと、口をあーんと開けるところまでは無料だけど、虫歯を見つけたら患者になるんだから(笑)。『もうすぐ痛くなりますよ〜、どうします?』って話しになると、ふつうは『じゃあお願いします』ってことになる。つまり歯医者にとっては無料相談券が客よせになる。まー、頭のいいヤツがいるもんだってみんながにっこり笑う、つまりそれは遊び心を入れた知恵なんですよ。」

このように商店会が中心となってリサイクルに取り組むのは全国的にも新しい試みで、実験には早稲田の学生もボランティアで参加。アンケート調査などを行った。

点滴のいらない町づくり

 

「でもやっていくうちに、ゴミのことだけやったって終わんねーなってことになり、それで“いのちのまちづくり”っていう組織が出来てきて、やっていくうちにいろんなことが絡んだ方が簡単なんだねーていう話になった。環境問題だけやろうとするから環境問題が出来ないんですよ。」と安井さん。

いま、早稲田いのちのまちづくり実行委員会ていうのは6つの分科会に分かれているんです。リサイクル、バリアフリー、震災対策、インターネットを使った情報の共有化、それから結局は子供の教育だねってことから地域教育、6つめは元気なお店、つまり地元商店会の活性化。

私にとってみたら零細小売り業の活性化となるんだけど、こんなの難しくてやってられない。日本中の役人が小売業の活性化活性化って言っててもできない。大手のストアが出てくれば一発でお終いでしょ。ところが、やっていくうちに活性化ってなんだっていう話しになってきた。活性化の活って、お客さんがいっぱいきて儲かるっていう字じゃないよねって。活きてるっていう字なんだ。活きてるっていうのは何だっていうと、自分が行く方向を自分で決めることなんだよねって。

役所の補助金で点滴受けて寝たまんまっていうのは活きてるって言わないね。活きてるうちは点滴いらないんなら、補助金のいらない街づくりをしなきゃ。自分たちがやるという意識が一番大切なんだと思います。

この町で生業をたてて、この町で子供を育ててもらったということに感謝する気持ちがあるならば、この町を次の世代に胸をはってバトンタッチできるような町にする使命があるって、その使命感を忘れてたんじゃないのか‥‥という安井さん。

ローカル・デポジット

これまでやってきたラッキーデポジットは正確に言えばデポジットではない。売値が変わってないからだ。今、そのアイデアを活かしながら、安井さんはさらに本格的なローカル・デポジットをやろうとしている。

それは、メーカーが店に20円高く卸し、店は客に20円高く売る。客が空き缶回収機に持っていくと、回収機はバーコードで読みとってビンゴゲームが始まる。あたると5缶に1枚の割合で100円のサービスチケットが出てくるというもの。すべての人に20円づつ返るわけではないが、当たらない人にもまた商店会のサービスチケットが出るという。

そして店は客がもってきた100円のチケットを商店会のリサイクルステーションに持っていき、商店会はそれを103円で買う。バーコードで処理するから、コカコーラが何本、伊藤園が何本というデータが出て蓄積される。すると商店会はメーカーに対し、1缶につき24円の処理費用を請求する。これまでやってきた実験では回収率は80%いかないので、メーカーは2割上乗せしても全然痛まないことになる。商店会は1缶24円だから5缶で120円。それを103円で買うわけだから、17円浮き、1缶あたり3円40銭が利ざやになる。それで運営コストをまかなおうというやり方だ。

「こう考えてみると、お客さんが20円高く買うというのは散乱ゴミをなくすことにもなるから環境問題です。店の方は、お客さんが来てくれるから販売促進になる。それに、お客さんがお店に100円のチケットを持ってきても買いたいものがないと言われると困るから、客の欲しいものを置くように考えて店が強くなる。するとこれは商業の発展なんです。環境と店、それは町づくりの根幹になる。なおかつ、何台もの回収機に入るデータを電話回線でつないで処理するのが地元の身障者がやっている在宅ビジネスなので福祉にもなる。しかも電話回線でパソコンでしょ。PHSのアンテナをたてることで震災時の情報発信ステーションにもなる。すると、商業、環境、福祉、防災にもなる。それを役所は縦割りで別々にやろうとするからうまく出来ないんですよ。」

広がる時に元気が出てくる

「デポジットをやろうというと、最初はいろんなこと心配する人もいましたよ。でも、できないという結論があってもいいから、まずやってみようじゃないかと。役所の仕事とか運動とはちがって、商店会は生活なんだから、無理なことはしないんです。無駄なことはしてもできることしかやらない。でも自分たちで動いてみると、できることがどんどんどんどん広がることを実感する。そしてものごとが広がる時に実は元気が出てくる。

もし20円値上げしてお客さんが増えたら、こりゃあ面白いぞって。それに回収率が70%だったらメーカーも大喜びしますよ。儲かっちゃうんだから。そしてチケットを出しても使わない客がいたら店は喜んじゃう。それに100円チケットといっても原価じゃないですから。それを103円で買ってもらえるから3%も純利が上乗せできる。こ〜れはでかいですよ。

こうやって町が喜ぶ事って言ったら、楽しいことと儲かること、この二つがキーワードだってわかってたら何だってできます。だって、一缶ガチャーンってやるたんびに商店会に3円40銭入ってくると思っただけで、たまんねーなって思いますよ(笑)。だからといって山ほど儲かるワケではないけど、損は絶対しないでしょ。」

★(まとめ)

いま早稲田商店会では、これまでの経験も生かしてリサイクル事業会社をスタートさせようとしているそうだ。商店会で出た生ゴミを処理して堆肥にして、提携している福島の町に送ってハーブや大豆を育ててもらい、そこからつくったお味噌をまた商店会で売る。それがまた客の来店頻度を上げることになるんです‥‥と話す安井さんの目は輝いていた。

「商店会長としては、自分の店さえ良けりゃあいいっていう気持ちを町の商人は忘れちゃいかんよ」といつも言ってるんですよ。「でもそれを、もっと良くしようというときには、まわり近所と手を組んだ方がもっと良くなる。」

商人のアイデアとエネルギーとプライドに満ちあふれる安井さんのお話を聞いて、そこにこそ21世紀の社会をつくる原点があるのではないかと感じた。

★RE−NET(早稲田商店会ホームページ):http://renet.vcom.or.jp

★早稲田いのちのまちづくり実行委員会: 

 FAX.03-3203-2908/E-mail:yasui@mps.or.jp

★早稲田の商店街を元気の素とする循環型まちづくりのドキュメントが、つい最近1冊の本になった。

 『早稲田いのちのまちづくり』¥2000(日報)

90=1998年7・8月号

なまえのない新聞のHome Page