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チベットの涙と私たち

 

梅野 泉(詩人・翻訳家)


「HELP ME!」。4月10日成田での記者会見でダライ・ラマ法王は「助けて下さい!」と声を絞り出された。チベット600万人、50年間の苦しみを集約した声を。
「皆さん、できることならチベットに入り、その現実を見て世界に知らせて下さい」「緊急に国際機関による調査団の派遣を!医療チ−ムの派遣を!」と訴えられた。
聖火リレ−の成り行きにメデイアが目を奪われている間にも、チベットでは虐殺が続いているという事実。
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仏陀の教えを守りたいのです、と小さな声をあげる。ダライ・ラマの写真を胸にしのばせる。ただ、それだけで連れ去られる。拷問の果てに殺される。世界中の目から閉ざされた闇の中で。
チベット亡命から49年、その間に、何が起きていたのか?
一人消え、二人消え、もう百万人を超えるチベット人が殺された。お坊さんも、お母さんも、お父さんも、学生も、子どもいなくなった町。その町に銃をかかえた人々が足踏みならし誇らしげにやってくる。金の仏像は金の灰皿となり、寺は焼き払われた。森はお金に変えられ、大地は核廃棄物で荒らされた。ヒマラヤの山々に響く祈りの声は消された。
罵声や快楽の笑い、お金だけがとび交うきな臭い町。その町はひょっとして、私たちのこころのなかでむっくり顔を出す町ではないか?
大事なものは、こわされてゆく。こわしているのは欲望。
世界はこわれてゆく。こわれてゆくのは私たち自身。

ダライ・ラマを観音菩薩の化身と慕い、自分たちの言葉を遣い、大麦のツァンパを食べ、普通のあたりまえの生活がしたいだけなのに、願いは踏みにじられる。
古代から受け継がれてきたチベット人の生き方と文化は根無し草となった。
いま、お寺は軍で包囲され、水も食べ物も無く、お坊さんたちは次々と餓死する。銃を向けた相手にこう祈ったお坊さん。「あなたの苦しみがなくなりますように、あなたとすべての生きものが幸せでありますように」。これが彼の最後のコトバ。
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いのちを奪われても、国を奪われても、非暴力で人間としての価値を守ろうとする人びとがいる限り、チベットに自由と平和が戻るまで、私の詩は未完のまま続く。
チベットのかなしみの涙、それは自分を嘆くものではない。それは、慈しみの心とともにある、他者を思う涙。
ダライ・ラマ猊下はいつもチベット人にこう言われる。「中国を敵として、憎んではならないよ。本当の敵は私たちのこころの中にある。怒りや憎しみこそ、わたしたちが本当に打ち勝たねばならない相手」
1988年、ことの本質を知りたいと、ダラムサラを訪ねた私にダライ・ラマ法王はこう言われた。「私たちの非暴力による闘いは、地球上のひとつの実験だ。成功すれば世界中のよいモデルとなるだろう。ヒマラヤ全域が平和になれば、そのよいエネルギ−は地球全体によい影響を与えることになるだろう」と。チベットの存続は地球全体の調和に関わる事柄なのだ。
3月の抗議行動以降、世界に浮上した問題は、中国政府にとっては「チベット問題」であっても、地球全体の目から見れば「中国問題」なのだ。中国にとって、チベットは眩しすぎる。広大な土地、豊かな地下資源、軍備強化にもってこいの立地条件、国際世論が支持するダライ・ラマ法王。欲望と憎しみ、嫉妬と陰謀がないまぜとなった心を癒せるのは、愛。複雑に利害が絡み合い刻々と変化する国際情勢のなかにあって、愛の行為だけが、ポジティブな変化をもたらすことができる。ダライ・ラマ法王は、毎晩、中国の苦しみを自分が吸い込み、愛を送る、という瞑想法をやっておられると聞く。
日本でもチベットの平和を願うピ−ス・マ−チ、キャンドル・ライティングが続けられている。どんな小さなことでもできることはないかな、と考えている方はTSNJのサイトをご覧になって下さい。
チベット高原に咲く色とりどりの花々が、いつの世にも薬草となるように、チベットに咲いた智慧と慈悲の大輪の花が、いつの世にもよろこびを与えるように、チベットの流した涙が平和の種となるよう、ここに、祈ります。

デモ写真

*チベット・サポート・ネットワーク・ジャパン(TSNJ)
http://www.geocities.jp/t_s_n_j/
http://tsnj2001.blogspot.com/
(イベント情報が載っているブログ)
ダライラマの成田での記者会見レポート(法王事務所発表)をはじめ、在日チベット人会の声明、イベント情報などたくさんの情報がある。

*ダライ・ラマ法王日本代表部事務所
http://www.tibethouse.jp

梅野泉・プロフィ−ル:海辺で子ども時代を、思春期をエジブト・アレキサンドリアで過ごす。人種・文化・宗教の坩堝で、人の発する音色と砂漠と空に触発され、詩を書きはじめる。 コピ−ライタ−時代にチベットと出会いチベット文化圏への旅を思い立ち、フリ−に。「雪の国からの亡命」(共訳)「チベッタン・ヒ−リング〜古代ボン教・五大元素の教え」等の訳書がある。ダライ・ラマ インタビュ−、高僧の通訳も。声を仲立ちとしたコトバと身体の祝福に満ちた結婚のため、ミュジシャンとの共演のほか、ほびっと村で「よみびとの会」を主宰。自然の息吹に安らぎ、五大元素のバランスに安らぐことがいまのテ−マ。
*ほびっと村
http://www.nabra.co.jp/hobbit/



No.148=2008年5・6月号

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