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第21回

妊娠がわかる時の、まわりにあるものたち。


(ほった さとこ)


 妊娠検査薬なるものを使った。生まれてはじめて。
 わたしはわりとムーンタイム(月経のこと)は定期的にやってくるんだけど、ここ数回はちょっと乱れ気味。今年の夏は忙しかったからかな。高校受験の時も、プレッシャーのせいか、遅れたことがあった。
 だけれども、今回は56日も出血が始まらず。正確には、途中でほんの少し、出血があったんだけど、ムーンとはほど遠い少なさだったので、カウントしていいのかどうかわからなかった。それにこれまでは遅くとも30日を過ぎたらちゃんとやってきた。妊娠に関しては、呑気に、自然にと考えているわたしをもってしても、あれこれ考えはじめた。ついには、産むときは家で、とか、予定日は夏だなー、とまで頭は突っ走ってしまった。
 妊娠していたら、来年の予定を考え直す必要があるし、お酒はやめた方がいいだろうし、していなかったらその原因が心配なので、じゃあどうしようかと考えたときに、妊娠検査薬のことを思い出した。前から一度使ってみたかったので、病院へ行く前に試すことにした。
 大きめの薬局へ夫と行く。わたしだけのことじゃないもの。お店では検査薬は4種類あった。どのメーカのも1回分だけのと、2回分入ったものがある。全て使い捨て。1回分の方で、安くても500円はしました。

検査薬の写真

 正式名称は「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG/ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)検出用キット」。体温計に近い、ペンのような形をしている。受精卵が着床する(子宮の壁に取り込まれる)と数日間以内に「絨毛」が生えてきて、子宮にいるあかちゃんとお母さんの間にたって栄養を通すものになる。絨毛からhCGが作られておしっこに混り排泄。それがおしっこに入っているかどうかで妊娠が判明する、という仕組みだ。
 妊娠検査薬が一般に普及したのは最近のことで、30年前はウサギを実験台にして調べていた。フリードマン反応と呼ばれる方法で、雌のウサギの耳の静脈におしっこを注入して、48時間後にウサギの卵巣に排卵がおこっているかどうかを見る、というもの。昔はどこの病院でもウサギを飼っていたそうだ。
 現在の妊娠検査薬でも動物が使われている。わたしが実際に使ったものはマウスモノクローナル抗hCG抗体が入っているし、他社の検査薬にはウサギの抗体を使ったものもあった。
 うーん。ということは、わたしの母がわたしを妊娠したかどうかを調べたときは、1匹のうさぎが排卵を起こされてしまったし、さらに今回もネズミのお世話になった。多くの化粧品や薬が作られている背景に動物実験があるのは当たり前なんだろうけれど、命が生まれていることを確認する場にまで、人間のために命を差し出さざるを得ない動物たちがいる。わたしを含めて、人はこんなにも大いなる命の輪から逸脱しちゃってる。わたしは安易に妊娠検査薬を買ってきたし、病院での妊娠検査もこれらの薬は使われている。
 とはいえ、ここまで調べてみたのは検査後のこと。
 検査薬を買ってきてすぐには調べる気になれず、一日経ってから、調べてみた。
 検査はほんとうに簡単で、採尿部と呼ばれるスティックのはじっこにおしっこをかける。あるいは、コップにおしっこをして採尿部をつける。そして静かに置いておいて1〜3分。スティックのボディ部分に、決まった模様が浮き出てくるかどうかが判断の基準。模様が出てくれば陽性(妊娠)、出なかったら陰性(妊娠していない)となる。妊娠検査薬は、メーカーは違えども、同じような方法で調べる。理科の実験みたいだなー。
 でも、そこには命が関わること。検査のあまりの簡単さとは反対に、その結果は重い。わたしもどきどきした。
 結果は陰性。妊娠していなかった。おしっこをするときから陰性とわかるまで、夫の近くになんとなく近くにいた。繰り返すけれど、わたし(おんな)だけのことではないから。彼もあれこれ考えているような顔をしていたし、一緒に人生を歩く者として、同じ経験したい場面でもあった。また、検査薬はメーカーによって90〜99.9%確実とうたっているけど100%ではない。少しほっとしたような、なんともいえない淡い気持ちのまま、少し様子を見ることに。
 笑えるのは、この2日後にムーンがやってきた、ということ。病気じゃなくてよかったんだけど、自分の身体の巡りと久しぶりに向き合った日々だった。それに、妊娠って、自分の感覚、気付きでわかりたいものだなー。



No.145=2007年11・12月号

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