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『無農薬で庭づくり〜
オーガニック・ガーデン・ハンドブック』

曳地トシ・曳地義治著 築地書館 1,890円(税込み)


 ガーデニング好きの人なら、植物に興味がわくのは自然のことだろう。私も植木屋になってから今まで、たくさんの植物を育て(・・・少なからず枯らし)、本を読みあさり、園芸好きの友だちに育て方を教えてもらった。けれども、「きれいに花を咲かせたい、農薬なしで庭木を管理したい」とやっていくうちに、私の興味はだんだんと植物以外の生きものたちへもひろがっていった。
 なぜ花は美しく咲くのだろう?と考えると、人間を喜ばせるためではなく、いろいろな虫や鳥などを呼び寄せるためだということに気づく。つまり花は、虫たちがいなかったらこんなに進化してこなかったとも言える。人間はそのおこぼれにあずかって、美しい花々を楽しめるということなのだろう。
 植物や人間に害を及ぼす虫、それらを食べてくれる「天敵」、害にも益にもならない「ただの虫」。便利さに慣れてしまった私たちは、あまりにも自然のしくみを知らない。むやみに虫を怖がり、「益虫」と「害虫」の見分けもつかず、虫を見ただけで殺虫剤をまいてしまう。しかし、自然の中では不要なものなどひとつもいない。たとえばウドンコ病の菌はキイロテントウやシロホシテントウの主食だし、ガの幼虫(イモムシやケムシ)は1000匹生まれても成虫になれるのは2〜3匹。ほとんどが寄生バチや鳥のエサになったり、病気で死んでしまう。庭の一番の嫌われ者、あのアブラムシだって、テントウムシ、アリ※、ヒラタアブ、クサカゲロウ、寄生バチのエサになる。人間が「害虫」だと嫌っているものたちが、自然のしくみの中では、実に多くの命を支えている存在なのだ。この地球の上では、たくさんの生きものたちが有機的につながることで、豊かな環境を支えている。庭はその縮図ともいえる場所であり、小さな生態系を紡いでいるところなのだ。
 前著『オーガニック・ガーデン・ブック』(築地書館)が発行されて、ちょうど3年がたった。この本を出版してわかったことは、庭を無農薬で管理したいという人が想像以上に多かったことだ。書店に並ぶ色とりどりのガーデン雑誌や園芸書など、きれいな花で埋め尽くされた庭に疑問を持っていた人たちから?にたくさんのお便りをいただいた。「読むたびにホッとする」「食べものには気をつけていたけれど、庭もオーガニックに管理できるなんて!」「オーガニックな方法での庭のお手入れをもっと詳しく知りたい」「庭のことでわからないことがあるので教えてほしい」。これらの読者の声にこたえて、よりハウツーを充実させたものが、今回出版された『無農薬で庭づくり』である。
 これまで、プロ・アマを問わず「農薬を上手に使いこなす人」が園芸の達人と言われてきた。だがこの本では、化学農薬をいっさい使わず、剪定で日当たりや風通しをよくしたり、オーガニック・スプレー(自然農薬)や、植物と虫たちの生態を知ることでオーガニックに庭を管理する方法を紹介している。
 また、本書では生態系のことだけでなく、「使いやすい庭」をキーワードに、「農のある庭」「ベランダ・ガーデン」「キッズ・ガーデン」「ペットと暮らす庭」など、目的別に庭のデザインを取りあげている。庭が使いやすくなればますます庭に出たくなり、庭に出ればいろいろな生きものたちのつながりや自然の営みにも気がつくようになる。それは、庭の楽しい循環を積極的に作っていこうという試みだ。庭づくりを計画中の人、今の庭をなんとかしたい人、また、庭のリフォームの予定がない人や庭のない人でも、イラストを見ているだけで夢がひろがるよう、いろいろなアイデアを盛り込んでみた。
 庭に関するいろんな疑問に答えるQ&Aのコーナーも充実させ、案外知られていない庭道具の使い方や、素朴な疑問にもていねいに答えた。前著とあわせて読んでいたければ、オーガニック・ガーデナーを目指す人の強力な助っ人となるだろう。

 何気なく庭で時間を過ごすとき、日常がちょっと変わって見えてくる。いつもと違う味わいのコーヒー、風が運ぶ音や色や香り、ふだんは気づかない小鳥のさえずり。季節ごとの実りが食卓にのぼり、星空の下でグラスをかたむける。そして目を凝らせば、さまざまな生きものたちが見えてくる。そう、庭は生きものたちの宝庫(ワンダーランド)。日常にありながら、庭は私たちの五感(第六感も)をすべて満たしてくれる場所なのだ。そんな庭のおもしろさを、この本を読んで再発見してほしい。

※アリはアブラムシとの共生が有名だが、単なる共生ではなく、アブラムシの数が増えすぎると食べてしまい、数をコントロールしている。  (文・曳地トシ)




No.131=2005年7・8月号

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