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WPPD(せかいへいわといのりの日)レポート

「またムーン・サークルで会いましょう!」

 (取材・文:ほった さとこ)

 北米先住民の指導者の一人、チーフ・アーボル・ルッキングホース(ラコタ族。ホワイト・バッファロー・カーフ・パイプ19代目の守り人)が提唱して続けられてきたWorld Peace & Prayer Day・せかいへいわと祈りの日(以下、WPPD)。
 世界の 4 つの方角を巡る旅の最後として、今年、富士山の麓・朝霧でWPPDが行われた(公式サイトhttp://www.wppd2004.org/)。
 そして、夏至の日には3,600人!が大きな輪を作り、WPPDのメインセレモニーであるパイプセレモニーが行われた。同時に「ムーン・タイム」と呼ばれる月経の女性は別の場所で輪を作り、祈りを捧げた。月経中は浄化のエネルギーが強く、癒しや祈りに使われる重要な場所に行ったり、道具に触れたりすることはならないとラコタや多くの先住民の間では考えられており、尊敬をもってこう呼ばれている。アーボルのパートナーであるポーラ(Paula-Black Hills Woman)が先導者として、特別な祈りの輪「ムーン・サークル」を作った。

 ムーン・タイムのおんなばっかりが体育館に集まり、ひとつの大きな輪を作っている。200人はいるだろうか。外は台風。豪雨と強風の吹く朝霧アリーナでパイプセレモニーは行われようとしている。ムーン・サークルの先導者であるポーラ(Paula-Black Hills Woman)は体育館にまだこない。ムーン・タイムのおんなたちの顔は、うれしそうだったり、とまどっていたり。でもとてもなごやかだ。顔のいろもいろいろ。きれいな色の布を腰に巻いている人が多い。お気に入りの布なんだろうな。
 わたしは取材だからって理由で輪に入っていなかった。全体を見回していたら、ひとりのおんなが話を始めた。「わたしはオーストラリアから来たキャサリンです。ポーラを待っている間、何かしませんか。みんなで一緒に考えましょう。ダンスをしたり、小さなグループに分かれていろんな話をしてもいいよね。もっとみんなのパワーを高めましょう」って英語でいう。梶原こずえが日本語に訳す。拍手が起こる。キャサリンは歌をうたいはじめた。「We are a circle/Within a circle/With no begining/And never ending」(スター・ホークという女性が作った歌だそうです)。おんなたちも、くりかえしくりかえしうたい出す。歌が体育館に広がってくると、彼女は、手を繋げてひとつになっている輪をゆっくりとひっぱって館内を歩き出し、自然とハーモニーになっていく。途中から来た人たちも自然に輪に入る。歌のメロディーはシンプルで心に響く音。普通の体育館が豊潤な秘密の場所に変わった瞬間。 
 しばらくしてポーラたちが着いた。おんなたち一人一人に、焚いたホワイトセージでスピリットを浄化する。わたしはムーンじゃないしって遠慮していたけれど、ここに来たのに参加しないのは違うしもったいない!って思い、輪に入り、浄化もしてもらった。体育館の真ん中には蜜蝋ろうそくの火と焚いたホワイトセージ。
 ポーラの言葉がはじまる。「ここにいるおんなたちは聖なる時間を与えられた。この時期はパワフルなエネルギーに満ちあふれ、パイプのエネルギーとぶつかる。ムーン・タイムは母なる大地と直接コミュニケーションできる。だから自分自身をコントロールすることを学ばなくてはならない。おとこたちのようにセレモニーの道具は必要ない。わたしたちのエネルギーは外の全員のエネルギーと同じくらいの力を持つ。女として世界を変えることができる。なぜなら命を生むことができるから。今ここにいることでわたしたちは浄化されている。世界のひとびとに祈りを届けてください」。ポーラがこう話し出すと、台風の勢いが増し、窓に当たる風の音が響く。ポーラは続けて話す。「わたしはムーン・タイムの時は儀式に近付かない。遠いところへ移り、至れり尽くせりの時間を過ごす。ごはんも持って来てくれる。私が悪いのではなく敬意を示してくれている。そしてこの時期、“怒り”をコントロールしなければならない。怒りを、自分の力を、ひとりで見る必要がある」。う〜む、そうか。わたしは過去を振り返り、数々の月経中の“怒り”を思い出した。たわいもないことが簡単に怒りに変わる。だから余計に月経がうざったいものに感じていた。なおかつ、いまだに“怒り”という感情が一番コントロールできないことも気づく。“怒り”とは浄化すること。“怒り”のエネルギーをけんかやトラブルに使うのではなくて、平和に使いたいものだ。
 ポーラは、以前に聞いたことのある日本語の歌についてだれか知らないかといい、ムーン・サークルをまとめてくれている山口薫子が心をこめてうたってくれる。「毎日毎日ありがとう/毎日毎日ありがとう/今日も生きててうれしい/ありがとう」。かわいい振り付き。あたたかいこころが広がっていく歌。みんなで4回うたう。泣いている人がいた。わたしもじわっと涙。ポーラの言葉が続く。「今日のムーン・サークルはスペシャル。今までのWPPDではムーン・タイムについて話はしたが、ムーン・サークルを作ることはできなかった。ここにいる人たちには女である意味を伝えられた。ここにいるひとりひとりの顔を覚えておいて」。ポーラは続けて、高い声で歌を歌う。外の輪に祈りが届くように祈る。
 おんなのちから。おんなであること。おとことのちがい。ここ数年もやもやしていた私の心の一部が落ち着いた。今度の月経からわたしはもっと自分を味わおうと決めた。出血の多い日、なるべく力仕事や忙しいことは辞めて、布ナプキンを洗った水を土に還したりと、私なりに過ごしてきたけど、これからは自分の中の“怒り”を見つめてみよう。ひとりで。でも一緒に生活している人の理解とサポートが必要なので、まずはつれあいに話して、お互いを認め合うような時間にすることが、私の場合は大事。こういう関係を作っていくことが世界を変えることにつながるんだと思う。
 歌が終わると、ポーラの娘が、ひとりづつ握手をして輪の中を歩く。続いてポーラが、ひとりひとりに向き合って、手を取り、HUGをして、わかちあう。それに続いて、隣の人も次の人も、ここにいるおんなたちと出会うため、わかちあうため、祈るため、いろんな意味をもって、200人の以上のおんなたちによるHUGがはじまった!
 ほとんどがお互いに知らない人たち。HUGにとまどった人もいただろうし、月経で体がきつい人も多かっただろう。だけどすご〜く気持ちがいいのだ。ぎゅーっとHUGしていると、愛が伝わって、体があたたかくなる。夢みたいな体験で、いまでも思い出すと涙が出そうだ。わたしはポーラとHUGをして、深いところでのお母さんのような感じがした。ポーラの頬がやわらかくて、笑顔がやさしくて。たくさんのおんなたちとの出会いもうれしかった!
 そうこうして2時間以上たった。途中、ポーラから、外のパイプセレモニーへの参加について、聖なるパイプはもう仕舞われているはずだから輪に入ってもいいが、風下に立つこと。この輪のエネルギーをもって入ること。と話があった。そして、HUGの時間は終わったが、わたしはよろこびの気持ちでいっぱいだった。
 ポーラが帰った後、ムーン・サークルをまとめてくれていた薫子からみんなに話。外の輪は太陽のエネルギー。だから月のエネルギーが必要で、バランスをとらないとセレモニーがうまくいかないこと。WPPD事務局は5人だけれど意志統一に1年かかったこと。自然の目に見えない力が増えていきここまでこれたこと。だけどおわりではなくて始まりなこと。ほんとはムーンのタイミングじゃないのに昨日ムーンになって、ムーンの人とおんなじ気持ちになれたこと。これもギフトなこと。日本ではムーンの常識がないけれど、ひとりひとりに今日の体験を伝えてつなげていってほしいこと。自分がおんなであることを感じさせてくれた貴重な体験であったこと。みんなしーんと聞いていて、最後に大きな拍手が起こった。
 私にとっても忘れない体験。一生の宝物。その晩、私はここ数年なかった高熱を出し、朝までにたくさんの汗をかき、私の体もすっかりきれいになりました。あたらしい私、こんにちは。そして、WPPD 2004 JAPAN 事務局、実行委員会、関わった全ての人、ムーン・サークルにいたおんなたち、どうもありがとう!

*ここに挙げた名前のみなさんに尊敬の念を込めて敬称をつけるべきですが、1文字でも多くの言葉を伝えることを優先し省きました。申し訳ありません。 (イラスト:asako)



No.125=2004年7・8月号

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