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しなやかに したたかに

本当に市民が主体の社会をつくるために

「自作自演」と「自己責任」
そこから見える「政府」の限界と「市民」の課題

大野 拓夫


 今回のイラク人質事件では、当初から「自作自演」説が流され、途中から「自己責任」という言葉が流布されました。これらの言葉は殆どが首相官邸周辺から出てきたものです。なぜ彼らはそんな「無責任」なことを口にし、しかもそれが広がってしまったのでしょうか?

ヤ「あなたは自衛隊撤退に賛成?反対?」
4月11日渋谷で行われたYes.No投票の様子。



■蚊帳の外だった官邸


 「自作自演」説については人質解放にともなってそれが間違いであったと報道されています。「自己責任」については議論が二分しているのが現状です。これらの出所は首相官邸とその周辺であったことが明らかにされていますが、彼らはどうして根拠が無く無責任とも言える「自作自演」や「自己責任」を強調したのでしょうか。
 私が思い当たったのは、官邸や外務省の情報収集能力の問題です。実は人質事件が起きて以降、官邸に入る情報は後手後手の状態でした。私は日本のNGOに入る情報と、政府に入る情報の時間差を注意深く見ていたのですが、NGOに情報が入る早さは政府のそれより早く、短いもので数時間、人質解放の未確認情報に至っては半日もの開きがありました。政府はその間「蚊帳の外」状態だった訳です。3人の人質解放当日も官邸の対策本部は「長期戦になる」として午後7時に解散。川口外務大臣が人質解放を知ったのも「テレビを見て」(本人)という状態でした。
 一方で、NGO側は情報を得るばかりでなく、人質救出につながる情報を現地の関係団体やメディアに流し続けました。政府から見れば、どうして政府である自分たちに情報がなくNGOにあるのか「これは、やつらがグルでヤラセなんじゃないか」という気持ちになったとしても不思議はありません。
 しかし、その本当の理由は大使館など外務省が情報網を失っていることにあります。これら諸機関は、現地の人々との付き合いをまともにしていないからです。それに対しNGOは現地に張り付いて独自の人脈と情報網を持っているため、量・質ともに優位な状況にあるのです。これは以前から指摘されてきたことでもありました。
 「自作自演」説は情報戦で蚊帳の外に置かれた官邸内の焦りを象徴しているようです。


■「自己責任」は単なる話題そらし


 では「自己責任」論はどうしてでてきたのでしょうか?これにも官邸内部の焦りが感じられます。当時の官邸が恐れた事。もし人質が殺された場合、また政府の対応能力の無さが暴露された場合、小泉政権の自衛隊派遣責任や危機管理能力が問われることは必至の状況でした。特に初動の段階で、小泉総理は事件を聞いた後赤坂プリンスで2時間以上もフランス料理を食べ、そのまま酔っぱらって帰ってしまうという致命的ミスを犯しています。つまり彼らが恐れたことこそが「内閣の自己責任」を問われることだったのです。
 それに対して先手打ち、「人質の自己責任」を世論にしようとしたのが、「自己責任」論の発端です。まさに政府の責任転嫁で政治的無能を曝け出すような行為と言えます。自国の政府として全く恥ずかしく情けない限りです。


■権力に対して無力化したメディア 


 問題は、その程度の言動がどうして世論にまで広がってしまったかです。以前の日本では、政府がそのような無責任なことを言えば「内閣総辞職」ものだったでしょう。
 ところが現在のマスメディアは記者クラブ制度に代表されるように「お上」からの情報は無批判に垂れ流すようになっています。しかも今回は、赤坂プリンスで小泉氏と飲んでいたのが読売と朝日の論説委員だったため余計に腰が引けてしまった。これが無批判に情報が流れた真相でしよう。こうしたメディアの姿勢は今後大きく問われるのではないでしょうか。


■市民に負わされた課題

 このように、責任能力が無いのに、メディアの無批判に守られて生き延びているのが小泉政権だとすると、私たちにはこの先どのような未来が待っているのでしょうか。今回はたまたま、市民の力がイラクの人々に届き、人質の解放に結びつきました。しかし、この国の問題はあまりに多く、全ての方面で今回のような力を発揮することはできません。
 一つの方法は、私たち市民が直接政府を担ったらどのような対応ができるかを、普段からシミュレートすることではないでしょうか。つまり、政府の対応や出してくる法案に次々対処するのではなく、自分たちが政権を担っていたらどのような解決を行うのかを具体的に考えるのです。そのことで、現政権や既成政党の問題もより具体的に見えて来ます。もう一つは、「名前のない新聞」のような市民メディアをもっと大切に育てることです。
 盗聴法、周辺事態法、イラク特措法ができ、進行中の有事法案、憲法改悪も既にタイムテーブルにのりました。座して待っていては、何れ私たち自身が銃を取って、イラクの市民を撃ちに行かなければならなくなるかもしれません。自民党では既に徴兵制と日本の核武装を視野に置いた議論も始まっているといいます。
 そんな未来を選ばないで済むように、憲法の平和主義、そして民主主義、言論と精神の自由をもう一度考え、現状を批判しながら、もう一度選び取ってゆく必用があるのではないでしょうか。
 今まで当たり前だったものが失われる時、生命(いのち)の危機がやって来ます。
 
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No.124=2004年5・6月号

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