わたしのおっぱいは、けっこう柔らかくて、気に入っている。
去年の秋、おっぱいにしこりを見つけた。こりこりこり。硬くて動くしこり。わたしの体、どうしちゃったのかなあ、と思った。
インターネットで検索する。最新の検査、治療法、おすすめの医者など、たくさんの情報がみつかった。インターネットは必要のない情報も多いけれど、乳がんになった女性たちのサポートサイトの温かさや深さは感動的だった。本も探す。『乳腺外来』の著者は乳腺専門クリニックを開業している女性。この本は今もわたしの心を助けてくれる。
おっぱいのトラブル=乳腺外科は、とても残念なことに、専門の科や医者がまだ少ないから、一般的には外科が診察する。その上、厚生労働省は病院の看板などに「乳腺科(乳腺外科)」という名称の使用を認めていないから、病院を探すのにわかりにくい。へんなの。でも地球の北側では乳がん発生率が確実に増え、いま日本で乳がんになる人は年間約35000人いて、乳がん患者の3人に1人が亡くなっている。これってすごい数だ。
わたしは病院へ行くことにした。しこりが何者なのかをはっきりさせて、その先のことを考えるんだ。
乳がんの疑いがある場合、まず問診、視触診。次に、乳房エコー(超音波)検査とマンモグラフィ(乳房エックス線撮影)検査。これが今一番ベーシックな検査。
ということで、市内で一番大きな病院の市立病院の外科へ行った。医者は同世代の男性。触診ではわたしよりも緊張していて、わたしが疲れた。とほほほほ。ここは施設や検査の機械だけは充実している。いい評判は聞かないけれど。
どこの病院で検査を受けるかって難しい。でもセカンドオピニオンを考えていたので、ひとつは市立病院でいいかと思ったのだ。だけどこの選択は安易すぎた。マンモグラフィにエコー検査、組織検査も受けたが、不快なことばかりだった。
結果が出るまでにセカンドオピニオンを探しまくる。東京はよさそうな病院が多かった。ホリスティック医学を生かした新しい病院も出来てきている。でも私は気軽に通える範囲にある県内の大学医学部付属病院にした。乳腺外科があったし、日本乳癌学会承認の医者がいて、病院全体の評判がよかったから。
市立病院の検査結果は99、9%線維腺腫とのこと。乳腺のトラブルは乳がんだけじゃない。良性腫瘍だからそのうち無くなるだろうと言われた。でも、もっと毎日いろんなおっぱいを診ている医者にかかりたかったので、その場で「セカンドオピニオンとしてY大学病院付属病院の乳腺外科に行きたいので資料を借りたい」と相談。紹介状も書いてくれた。紹介状の有無で料金が違うのでうれしかった。これまたヘンな話だけれど。
年が明けてY大学病院付属病院の乳腺外科へ。中年男性の医者。白衣の胸に乳ガン撲滅キャンペーンのピンクリボン。問診や視触診をする。先生のおっぱいの触り方は自然だった。わたしのおっぱいは乳腺のトラブルが起きやすいタイプであり、月経直後に検査しないと意味がないとも言われる。
またエコー検査を受けた。30代のおっぱいはマンモグラフィよりエコーの検査の方が乳腺をはっきり見ることができる。念のために細胞採取もした。
結果は市立病院と同じ線維腺腫。でも葉状腫瘍や葉状肉腫に発展する可能性があるから、定期的に検査が必要だし、月経後の自己検診がなによりの予防だと、はっきりした口調で先生から話しがあった。
そして私は、マクロビオティックを基本にした食事をしながら、特に卵と乳製品をさけつつも、ごはんをおいしくもりもり食べ、毎月の自己検診を続け、しこりをふくめたわたしのおっぱいを、大事に思っている。
毎日のくらしの中で、おっぱいを鏡で見たり、触ったり、大事にしている人って、あんまりいないと思う。女同士でおっぱいを触り合ってもいいかもしれない。だって、おっぱいはひとりひとり形も柔らかさも違って、とっても素敵だから。
そこに存在していることが当たり前で、いつまでもあるとたいていの人は思ってるおっぱい。だけどそうじゃないかもしれない。やわらかいおっぱい、おちちの出るおっぱい、人を温かく包み込めるおっぱい。やっぱり大事にしたいよね。
カット:asako
*『乳腺外来』(高木博美著/マキノ出版発行/2003年10月刊/本体価格1,300円)
*セカンドオピニオンとは、診断や治療方針を主治医以外の意志の意見を聞くこと
*ホリスティック医学を生かした新しい病院とは、西洋医学の利点を生かしながら、各国の伝統医学、心理療法、自然療法などの療法を総合的、体系的に組み合わせて診断・治療する。鍼灸、アロマテラピー、整体、漢方、ホメオパシーなどが生かされている。「帯津三敬病院」の院長は、NPO法人日本ホリスティック医学協会の会長もしている。