日本では最大の亜熱帯生態系をもつ沖縄県の西表島にある月が浜という美しいビーチで、ユニマット不動産による大規模リゾートホテル建設がはじまっている。地元竹富町は住民の了解を得ないまま県に開発許可の申請を出し、そのため建設反対の声が高まって全国的な署名運動や不買運動が起きている。町と事業者はそれを無視して工事を進めているが、西表島の自然環境に大きな悪影響を及ぼしかねないと心配されている。
西表と大阪を拠点に音楽活動をしている南ぬ風人まーちゃんは今回の建設地となる隣の集落出身のミュージシャンだ。その彼に、西表島への想いと、リゾート開発計画への疑問を語ってもらった。
--- 今、西表島で大規模なリゾート開発が始まっているそうですね。
まーちゃん● 西表島はこれまでも開発問題が起きた島です。私は28才なんですが、その28年間に起こった開発の勢いはすごいものでした。沖縄が日本に復帰してから開発がはじまり、最初のうちは沖縄本島でしたが、だんだんと宮古島、石垣島と進んできました。石垣島には空港があるけれど、そこから先は実際人が行くのも困難だし、開発するのも困難というわけで、西表島まではなかなか手がまわらなかったんです。地形的にも西表島はほとんど山しかなく、海辺ぞいのわずかな土地に人が住んでいるという島なんです。今でも道路が島の半周しか通じてなくて、そのおかげで自然が守られてきました。
しかし私が育っていく過程でどんどん開発が加速化していきました。たとえば昔は舗装された道路は一本しかなくて、他の道路は砂だったけれど、中学生になった頃には各村の中まで舗装されていき、それに家もコンクリートになっていきました。
--- 全国的にはリゾート開発ブームというのは過ぎてしまい、バブルもはじけてリゾートでは儲からないということがはっきりしてきてると思うんですが、なぜ今、西表で大規模リゾート開発をするんでしょうね。
まーちゃん● ここにきて、開発する側からみると西表島には何もないというのが魅力だと思うんです。石垣島にはリゾートホテルもたくさんあります。でも西表島にはあれだけすばらしい自然がありながら大規模なホテルがないから、魅力的ですよね。今まで誰も手をつけてこなかったという意味では。でも今までにも10年前、20年前と開発をやってきて失敗して廃墟になってる施設があるんです。僕は子供の頃から、そういう開発を見てきました。
道路を造るにしろ、防波堤を作るにしろ、それらは公共事業ですから行政主導で開発が行われてきたわけです。これまでの流れでは自然のことは置いておいて、そういう開発が島のためになるという考え方だったんです。そのながれは(いまだ)根本的には変わってなくて、まだ公共事業をやってばんばん開発していこうという流れなんです。
--- 今回は公共事業じゃなくて民間がお金を出して開発してくれるんだから大歓迎ということでしょうか。
まーちゃん● それで島での雇用が増えて活性化し、しかも税金をいっぱい払ってくれるなら万々歳という考えです。でも雇用を促進するというのもウソなんです。石垣島にはたくさんリゾートホテルがありますが、実際に雇用される、島の人はかなり少ないです。実際にある石垣島のリゾートホテルで働いてた友達に聞いた話だと、本当に地元の人で働いてるのは数割程度で、しかも表にたつ従業員だと、1割もいないらしいです。地元の人はそういうところで働くのがうまくないんですよ。
僕は開発すること自体には賛成も反対も全くないんです。その内容によっては島の生活がよくなるかもしれないし、場合によったら悪くなるかもしれない。でもこのリゾートホテルというのは沖縄県で最大規模(*注)というくらいで、かなり大規模なものなんです。それが引き起こす環境問題を解決できているのかというのが僕にとっては一番大きな疑問です。それからもう一つ納得できないのは、竹富町が住民の賛成・反対を含めて話し合いができていない。純粋に納得のいくまでの話し合いをしていない。(*住民の同意を得た上で県に開発許可申請を出すと言っていた竹富町は約束をやぶって同意のないまま、説明会を開く2ヶ月も前に県に申請した。その後、約束違反を指摘された町長は「同意を出す気がないような住民の意見は取り上げるに値しない」と居直る=日本TV系ドキュメンタリー番組より)
住民に開発計画を知らせるのも遅かったし、説明会も何度かやってますが、計画を進めることを前提にしたもので、だから建前で住民に説明したぞというようなものだったんです。
で、たとえ住民が賛成多数で納得して始めたとしても、環境問題に対しての根拠がないんです。水の問題にしてもゴミ処理問題にしても、大丈夫だって言ってますけど、本当に大丈夫なのかという根拠がない。だいたい竹富町にも西表島にもゴミ処理施設がなくて、崖からゴミを谷に落としてるんです。これって今の先進国の中ではすごいことですよ。
--- それは日本の法律に違反してるでしょうね。
まーちゃん● そういうことがきちんとできていない竹富町自体がおかしいんです。僕たち住民もおかしいんですけど、そこから確実に環境汚染がはじまっています。その問題が解決できていないのに、さらに県最大規模のリゾートホテルが建ったら、確実にもっと大規模な環境汚染が出ます。また実際にホテルが建つ場所が自然のたくさん残っている場所ですから、そこの自然とか動物に与える影響への配慮も見えないですしね。そういう住民が納得のいかないままの状態で工事をすることが僕はもっともおかしいと思います。
--- ここは沖縄県で最大規模の施設だそうですが、それなのに環境アセスをやる規模に達していないからしなくていいと。ということは、沖縄にある全ての施設でアセスをやる必要がないということになるわけで、そういう法律というか基準自体がおかしいですね。
まーちゃん● やっぱり根本的にシステムを変えないとだめだと思います。沖縄県の条例だとか竹富町の条例だとか。そういうところがまず全然だめなんで、ユニマット反対という前にゴミの処分をどうするのかという問題、竹富町としての環境に対する考え方・方針ができていない。そういう段階でユニマットが入ってきても、竹富町は対応ができないです。まず竹富町や沖縄県を変えないと。だって法律的にはこの開発はOKなんですからね。
--- ところで西表島では自然を壊さないエコツアーをやってるそうですね。
まーちゃん● ここ数年、そういう動きが強いですね。西表ではそれがメジャーになってきています。そういうツアーは人数制限もするわけで、環境破壊の影響も少なく抑えられる。島の自然治癒力が対応できるような規模にしているんです。大規模なものが入ってくると自然を壊してしまいます。星砂の浜では団体ツアー客が押し寄せて、歩き回って踏み固めてしまうということもあるようです。その砂浜が受け入れる力を超えてしまうくらい人が多すぎるわけですね。
やっぱり西表島には西表に合った開発をしてほしいです。島の未来を考えて欲しい。それでも町長は島を開発することが第一の優先課題だと思ってるようです。あの町長の話を聞いてもわかると思うんですが、彼の価値観はいくら説得しても変えられないと思うんですよ。だから僕達は今の若い世代や子ども達がこれから価値観を変えていけるような動きを作っていきたいんです。ただ地元の若者はなかなか声を出せない状況があるんです。でも外の人は言えるじゃないですか。僕はだからどんどん言って欲しいと思ってます。そしたら西表の人もだんだんわかってくる。西表島のこの開発は時代に逆行しているという空気を強く出した方がいいと思うし、それによってメディアが注目してとりあげてくれると思います。
だから僕がテーマとして考えているのは、1つは今後の島の未来、地球の未来を長期的に考えていこうと思ってるんです。こういった問題は今だけではなくこれからもくり返し起こってくる可能性があるので、ずっと続けていく闘いですね。そして同時に、今すでに着工してしまっているけど、どうしても納得がいかないから、みんなの気持を表現していきたいと思っています。
僕はいま大阪と西表を拠点にして全国で活動していて、僕は歌手ですからライブとか歌の中でメッセージを伝えるんです。今回の問題で、西表の島外の人達は、お前ら外の人間が何を言うんだと言われそうに思って最初はびくびくしていたと思うんです。
でも僕は違うよと言いたいんです。西表島は西表島の人たちだけのものではないし、自然て人間だけのものじゃない、みんなの宝物ですから、それは島の人であろうが外の人であろうが、みんなで考えていくべきだと思うんです。僕はそういう考えをもとに、大阪や東京や全国の人を巻き込んで波を起こしていこうと思ってます。大阪では5月、東京では6月に西表の未来を考える会を開きます。ミュージシャンが来て音楽を演奏するだけでなく、会場では子ども達の絵とか写真を展示します。これ以外にもコンサートとかお祭りの形で、一人でも多くの人に伝えるためにやっていこうと思ってます。地元と東京の環境保護団体がやっている署名運動にも協力しています。
--- まーちゃんが考える実際的な解決法というとどんなものになりますか?
まーちゃん● 西表島は島自体が自然を感じられるリゾート、楽園なんです。そんなところに大規模なリゾートホテルをつくることには意味がないと思うんです。島の観光のあり方としては、小規模で、民宿などのおかみさんやおやじさん、家族とふれあいながら自然を感じるのが西表島の最高の観光だと思っています。マスツーリズムは全く西表島に似合わないんです。もしユニマットがつくるとしたら、団地のような大きな建物じゃなく、ほんとに西表の自然を感じられるような雰囲気のある施設をつくってほしい。逆にそういうところにお金を使ってほしいと思います。もう個人ではお金がかかって建てられないような昔ながらの木造で赤瓦の家で、まわりに木をいっぱい植えて‥‥。全体としても100人くらいまでにするとか。そういうところならお金が高くても来たい人はいると思います。そういう施設なら景観も壊れないし、島の人に感謝されると思うんです。
--- 泊まる側から見ても、都会にでもどこにでもあるようなコンクリートの大きな建物よりは、そういった西表ならではの宿に泊まりたくなるでしょうね。
まーちゃん● 竹富町長も推進派の会長も反対派の会長も、みな私の地元の出身なんです。みな一緒に島をつくってきたおじい達なんで、そういう人達がいがみあうって悲しいです。でもおかしいのは開発のしかたであって、島の人達はみな島を愛してるんですよ。賛成派も反対派も島を良くしたい、島を活性化させたい、島のためにという気持は同じなんです。●
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下の写真は海側から見た月が浜(左手のビーチ)と浦内川河口(右手奥) 提供=blackbisi
月が浜は沖縄県最長で最大の流域面積をもつ浦内川の河口にあたる。浦内川流域にはイリオモテヤマネコ、カンムリワシ、セマルハコガメ、キシノウエトカゲをはじめ14種もの絶滅危惧種が生息しており、たくさんの動植物の宝庫として国際的にも有名な土地だ。日本生態学会もつい最近=4.14
工事を一時中止して環境影響評価をするよう沖縄県に申し入れた。
環境への影響ということでは、給水やゴミ処理の他にも、大規模な施設からの排水は、処理をしたとしても海を富栄養化し赤潮の発生やサンゴにダメージを与えることが心配される。
また月が浜は古い名前をトゥドゥマリの浜といって8月の満月の晩に月の神様が降りてきて、神遊びをする神聖な浜と言われているそうだ。そのため決してここを汚すようなことをしてはならないという言い伝えがあるというが、この地ではこれまでに何度も開発計画があり、全部失敗してコンクリートの塊だけが残っている。ユニマットがまたそんな島の歴史や文化を理解しないでやると、バチが当たりますよ、と「西表の未来を創る会」の石垣さんは言う。そして「県が開発を許可しても、まだ神様からの許可はおりていません」と。
昨年秋に全国環境保護連盟から提訴されていた、ヤマネコ等を原告にして開発中止を要求する訴訟は形式上の問題で却下されたが、動物たちの声なき声を無視しつづける限り、神様からの許可はおりないだろう。(あ)
★署名運動
住民とのコンセンサスが得られるまで充分に話し合い、またそれまで工事を中止するこ
とや環境アセスを行うことなどを求めた署名です。ご協力ください。
・西表リゾート開発に懸念を抱く市民の会の電子署名(竹富町長、ユニマット社長あて)
http://fairy.kais.kyoto-u.ac.jp/biriken/ochi/iresort/index.html
mochi@kais.kyoto-u.ac.jp
・西表島の森と海を守る会(県知事及び竹富町長、ユニマット社長、東急建設社長あて)
http://homepage3.nifty.com/blackbisi/
iriomote-forest-sea@group.email.ne.jp
署名送付先:東京都港区芝4-9-8-601 全国環境保護連盟 TEL/FAX. 03-3454-0490
★抗議の宛先
ユニマット不動産=TEL.03-5770-2006 FAX.5772-4825 j-info@unimat-offisco.co.jp
南西楽園ツーリスト=TEL.03-5778-4380 FAX.5778-4381 info@nansei-rakuen.jp
竹富町役場 info@town.taketomi.okinawa.jp
★不買運動
女性が中心となり、全国環境保護連盟がとりまとめる形で、ユニマット社製品や企業の不買運動を呼びかけている。対象となるのは、ユニマットのコーヒーサービス(オフィス内)、南西楽園ツーリスト(旅行代理店)、カフェラミル、メゾンドラミル、アボガドキッチン、ロンディーナ、スカラディ、北海あぶりやき運河倉庫、魚○、他の飲食店など。
★地元での反対運動
・西表の未来を創る会‥‥西表島のエコツーリズム協会や宿泊業者やダイビング事業者、住民らが立ち上げて、訴訟を起こす等これまで反対運動の中心となってきたグループ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/~irimira/ iriomotemirai@hotmail.com
沖縄県八重山郡竹富町西表621 石垣金星方
・西表の自然を愛する会‥‥非暴力直接行動で工事を阻止しようと上記の会から独立したグループ。道路封鎖の座り込みなどを実施しているが、それがきっかけで竹富町長から「反対派住民は町営住宅から出ていけ」と迫られるという新たな問題が派生している。
→iriomote@gaea.ocn.ne.jp
TEL.0980-85-6555
907-1541 沖縄県八重山郡竹富町月ヶ浜750 伊藤方
★南ぬ風オフィス
〒532-0011 大阪市淀川区西中島5-6-16-1202
TEL.06-6889-7730 FAX.06-6889-7731
http://www.painukaji.com/marchan/index.htm
office@painukaji.com
道路封鎖の座り込みをする「西表の自然を愛する会」
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