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平和の集いシンポ
「浜岡原発地元住民を囲んで」より

伊藤実さん

原発から直線で1km弱の至近距離に住んでいる。地元住民による「浜岡町原発問題を考える会」の代表
菊地洋一さん

原発企画工程管理者として東海・福島原発などの現場監督を経験。宮崎大学講師。

伊藤● 浜岡町には原発で働いている人も多いし、浜岡町の予算というか財政も原発からのお金でまかなわれているし、5号機の建設の時までは反対というのはなかなか言えなかった。原発の問題を話をしようとしてもタブーになっていた。原発は安全なんだと。ぼくたちは安全なんだったらなんであんなにお金をばらまくのか、おかしいんじゃないかという思いがありました。それから私は61才になるんですが、原爆の怖さ、放射能の怖さを知っている世代で、中学生の時に焼津港のマグロ漁船が核実験で被曝するという事件もあって、浜岡町に原発をつくるという時からいい気持ちはしてなかったんだけど、その頃の浜岡町の偉い人たちは、原爆と原発は違うんだと、原爆は戦争のために使うんだけど、原発は平和利用だということで、絶対安全だということで作られてしまったんです。でもスリーマイルやチェルノブイリの大事故があると、原発が絶対安全だなんてとても信じられないと思うようになりました。私たちもなかなか声を出せなかったんだけれども、1993年頃から浜岡原発に5号機を新しく作ろうという話が出て、私は大反対だったけども、95年の1月17日に神戸で大地震がありましたね。あの地震の様子を浜岡町民もテレビや新聞で見て、私自身は神戸まで行って来ました。ああいう地震が浜岡原発を襲ったらどうなるんだということで、今まで原発は安全だと信じてきた人たちも、これ以上原発を作っちゃいかんと。しかも浜岡を含めてこの地方一帯は1976年くらいから東海地震が何年か後には起こると言われていて、神戸の地震より規模も大きいし、おそらく浜岡原発の下に震源があるからこれは大事故になるだろううということで、95.96年ころから原発の問題が町民の中でもかなりしゃべられるようになってきました。そういう状況の中で私たちの浜岡町の原発問題を考える会がスタートしたわけです。
 反対運動はかなり盛り上がったんですが、結果的には議会で強行的に採決されてしまって、現在5号機を建設中です。浜岡原発の問題が全国的に知られるようになったというのは、去年の11月7日に起きた配管破断、要するに水素爆発を起こしたという世界でも類のない大きな事故を起こしたんです。原発が安全だということは、国や中電は多重防護という仕組みを説明して安全論を言っていたわけで、それからチェルノブイリ原発と浜岡原発は仕組みが違うんだから、あんな事故は絶対起こらないと言ってたんですけれども、起こる可能性があるということです。つまり配管が破断して原発の中の水が無くなってきたら、燃料棒がどんどん溶け始めて、スリーマイル原発のようになるということと、原発の核反応を止める制御棒が25年も経ってるから亀裂が入っていて、水を漏らしたという事故も起きたわけです。ですから一番大事な原発の生命線というか、あっちゃならん事故が2つとも1号機で起きたたということで、原発の専門家も指摘するような重大な事故だったんです。
 さきほどコンサートのところでもお話したんですが、なぜ日本が原発を推進するんだろうと。つまりプルトニウムを取り出して新しい燃料をつくろうというのが30年も前から日本の原子力政策として進めてきたんですが、これはドイツでもフランスでもアメリカやイギリスでも、それは不可能だということでやめたものを今でも日本が進めているのはどう考えてもおかしいなと思っていたら、最近の有事法制だとかとも関係してますが、要するに日本も核武装したいという勢力があって、今の政治家の中では中曽根康弘だとかが原子力基本法に係わって作ったということがあって、原子力の平和利用という裏側には日本も核兵器を持たないと一等国になれないという昔の反動的な政治家がいる。そういうことをぜひ今日の話し合いの中でも討論してほしいなと思ってやってきたんです。
 とにかく日本の原発というのは、世界の中ではほとんどやめてきたことをなお進めようとしている、なぜそこまでやらなきゃいかんのかという国のありかたを考えるようになりました。広島・長崎で起こった核の問題、人類が扱ってはいけないというものを電力会社は扱っているんですよ。どこにその残骸を埋めるとか、その行き先もまだ全然未解決なままに進めているということは大問題だと思います。

菊地● チェルノブイリの事故が起きた時に、日本の原発は万が一のことがあっても放射能を閉じこめる格納容器というものがあるから安全なんだと、かなりしつこく言われたのをみんな知ってると思います。今でもそう思ってる人はいますか? それがね、格納容器というのは事故の時にはもたないから、穴をあけて外に廃棄するようにされているということを知ってるかな? その外に出す時にフィルターがついてないんです。水フィルターがついてるというんだけど、とんでもない話で(笑)。あれだけ格納容器があるから大丈夫だって言ったんだったら、それに穴をあけて外に出すと決めた時にそのことを教えてくれなきゃいかんけれど、そのことは全然教えないですね。それと多重防護といって、いろんな安全装置が考えられていて、こういう状態になったらこういうシステムが働いてこうなる、だから安全なんだと、これはPR館に行ったらみんなそれを言うわけですけれど、そうそう思うように働いてくれないだろうと思うんです。ちょっとした事故とか日常的なことならそうなるかもしれないけれど、巨大地震に襲われた時にはそうならない可能性が高い。設計の段階ではチェルノブイリのような大変な事故が起きた時にはどうするかということが入っています。想定している事故というのは、この間浜岡で起きた細い配管の爆発とかああいう小さいものじゃないです。ものすごい巨大な爆発や配管の破断があったらどうなるかということを設計では考えています。でも、まずその対策がもたないだろうと思うんです。
 たとえば原発の建設の際に、設計図通り行かないことが多々あります。原子炉格納容器は巨大な円筒形のものですが、同じ定盤の上でコンパスでひいたような円の上で作っていくので、輪切りにしたものがつながるところは直径が合うはずなんですが、現場でクレーンでもっていって乗っけると合わないんです。それは力のかかり方による変形だけでなくて現場での熱による延びがあって、なかなかぴたっと合わない。それでしょうがないからターンバックルで内側にぐいぐい引っ張って溶接する。ものすごく無理をして引っ張って溶接してますから、あとでヒビが入ってくる可能性があります。だから国や電力会社がデモンストレーション用にやって見せているやつと現場では強度が全然ちがうんです。配管から圧力容器から、みんな言ってることがちがうんですよ。
 原発は地震が来たら自動的にシャットダウンするということになってるんです。それだったら僕はなんも心配せんですよ。でもそんな単純なもんじゃないんです。こうなったらこうなってこうなると、多重に防護されてると、でも多重防護システムが巨大な地震で次々とつぶれたらどうなるの、その可能性は十分あるんです。それは原発の設計管理をしてきて中にいていろいろ見てきていますのでわかるんです。
 それで核暴走は日本の原発のようなタイプの炉では起きないと言ってるんですが、これも大きな嘘です。ウエスティングハウス系統の加圧水型という方では原子炉のオーソリティーがそういうことが起こりうると言って会社をやめたし、GEの方では主任技術者たち3人が定年退職を前にしてもうやってられんと、いつどこでとは言えないけれど必ず巨大事故は起こるといういうことでそろってやめました。彼らが言ってるのは核暴走的なでかい事故なんです。そして原研でもシミュレーションで日本の原発で核暴走は起きるということを言ってるんです。
 現場というのは国や電力会社が言う理想とはちがってるんです。あまりにいっぱい違いすぎるので、だから僕は反対するんですよ。それにこれが交通事故のように数人死ぬということじゃないからです。チェルノブイリ事故の死者は公式的には13人とか消防士が死んだくらいになっていますが、1万人以上出ていることはもうロシアも発表してるわけです。でも実際には1万人でもすまないと思います。作業にあたっていた軍隊では箝口令がしかれていますから、追跡調査してもわからんのです。で、今もし浜岡の3号機の110万kwが事故ったら、チェルノブイリなんか比較にならんくらいの放射能が飛び出ますから、世界に対して日本が放射能をばらまくようなことになります。

───チェルノブイリ事故も地震によって引き起こされたんじゃないかという話がNHKスペシャルでも放映されたことがあるんですが。

菊地● ぼくもその可能性が大だと思ってます。地震は直下型とそうじゃない時で全然違うんです。直下型のように下から突き上げる力に対しては原発は無防備です。浜岡は典型的な直下型なんで、だから僕は今回必死なんです。特に古いタイプの原子炉というのは、圧力容器の中に重たい重金属の燃料がぎっしり詰まって、それから水が入って、スチームドライヤセパレーターが入って、おまけに配管がぶら下がってるんですが、その配管には再循環系のポンプモーターがあって、それだけでも100tくらいあるんですからね。それが2つもぶらさがって、それが配管の上に乗っかってるんです。それらの配管も原子炉にみんなぶらさがっていて、大きなハンガーで吊ってるんですけど、地震が来たときにはこれが周期のずれでハンガーがちゃんと働いてくれるかというと、国は働くというけど、僕は働らかんかもしれんと思ってます。とにかくかなりの重量で基礎に乗っかってるんです。そして原子炉の基礎と原子炉をつないでるものは、ちょうど缶詰の缶みたいなものがあって、その輪っかの上に乗っかってるようなものなんです。もちろんそこは溶接してありますけど、乗っかってるスカート部分は圧力容器と同じ厚みがないんです。国がPRしている資料館に行くと、地震の解析のところには原子炉と同じ厚みのスカートの絵が描いてあるんです。ところが別のサンプルを見ると薄いのがいっぱい目に付きます。で、実際には薄いんです。
 関東大震災の時に、テーブルの上に乗っていた皿や食器が天井まで飛んだという話があって、それはガタガタと来た縦揺れが、動きがずれちゃったために、落ちてくる時に下から突き上げるため、バットで打ったような状態になって天井まで飛んでるんです。それを考えた時に、原子炉を2000tくらいのハンマーで上からバーンと叩いたらもつかと考えたら、僕はもたないと思うんです。そんなことは検討もされてない。もちろん地震にはもつということになってるんですよ。でも僕が実感するのは持たないと思ってます。理想通りにはできてないんです。だからこういう地震が来る時は、やっぱり少なくとも原発を止めておかないと。それが30年であろうと40年であろうと。

菊地● 核爆弾が国際法に違法かどうかという裁判が実際に開かれたわけですけど、本来は開かれるはずがない裁判なんです。というのは国際司法裁判所は欧米諸国や日本もそうですけど裁判官を出しています。そういうところで力を持ってる国はみんな核保有国です。ですからまずそういう法廷が開かれるはずがない。ところが開かれて広島・長崎の市長が行って国の圧力にもかかわらずあえて違法だということを言ったんです。そのありえない国際裁判を開かせたのは、オーストラリアの一主婦です。日本の被爆者の写真とかを見て、これはいかんと、何とかして地上から核を無くさなければいけないと思った一主婦が起こした運動で、政治家を動かして、ついにはあの国際裁判を開かせた。だから一人の力はほんとに大きいんです。
 さっきも言ったのは、ちょっと見たらヒッピーに見えるようなピースウォークの男性二人と女性一人の三人が議員会館の前で座っていて、ぼくも一緒に座らせてもらったんですけど、話していたら、座ってることに対するいやがらせがだいぶあったと言ってましたよ。だけどそれを見た議員が、ああいう若い人たちでさえ命がけでがんばってるのに、自分ががんばらないでどうするんだという気持になる。だから少数から始まることって多いんです。
 今日来てたきくちゆみさんの知り合いで小田まゆみさんて方がいるんですけど、その人のだんなさんはカリフォルニアで最初に風車を建てた人です。その時にみんなに笑われたそうですよ。馬鹿みたいなことしてどうするんだって。そんなことで原発が止まるのかって。だけど、カリフォルニアがあれだけ風車の名所になったのは、そのたった一機から始まってるんです。
 だから、誰が何をしてくれるかという以前に、一人でも自分が何ができるのかということが大事だと思います。



No.114=2002年9・10月号

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