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映像交響詩『魂の源境へ』

新世紀のはじまりに――9・11後を問うことから

おおえまさのり・著/出帆新社/2700円+税

 こぶしから桜、そして新緑へと時は八ヶ岳に春を告げてくれているが、心に春はやってきそうにない。そうした時をわたしたちの世界は今共有しているように思われる。
 昨年の9・11直後、神戸で30数年ぶりに、わたしがアメリカで作った『GREAT SOCIETY』という、六台の16ミリ映写機で六面のスクリーンに投射する映画が上映される機会があった。それは、60年代アメリカのニュースフィルムを主体にコラージュしながら、黄金の60年代を告げたアメリカが、ケネディ大統領の暗殺から、ニューエイジの潮流の曙を告げるサイケデリック世代の登場へ、そしてアメリカという正義を振りかざしての泥沼のベトナム戦争へと突入して行く様を追い、その果てにある核による世界の破滅への予感を描いたもの。ダイナミックな映像に揺れるそれらを見ながら、9・11後の世界の事態の前に、この30数年間に世界は何が変わったのか、人類は何も変わってこなかったのではないかという強い思いが込み上げてきた。
 60年代に始まった意識の変容とクロスしながら推し進められてきたニューエイジの潮流。それらは世界をどう変容してきたのか、どう変容してゆけるのか?新世紀を迎えて、そのことが改めて激しく問われているように思われる。
 世界は今、怒りに駆られている。内在する怒りが短絡的に爆発して、怒りの波動に世界が共振して奮い立っている。有事だ、有事だと。有事を招かないための政策は脇に押しやられ、世界を挑発しながら、否が応にも、有事に突き進もうとしている。怒りと力が世界を闊歩している。
 9・11後間もなく出版されたアメリカのPOP心理学者アーノルド・ミンデルの『紛争の心理学』(講談社現代新書)は、怒りに対立する者たちが、激しく論争しながら、次第に意識の深層にまで下降して、どちらが正か悪かではなく、それらを共に包み超えたところで出会うワークを提言している。人は意識の本源的なところで出会えるものであり、そこまで人々を、固定概念や表層的な世界観を剥ぎ取りながら、追い込んでゆく。だがわたしたちは崩壊の向こうへと抜け出ようとするまでの意思と力を持っていようか?
 ならずもの国家と叫べは叫ぶほど、世界の前に、叫ぶもののならずもの性が浮かび上がってくる。グローバリゼーションを強行すればするほど、その破綻が露になってくる。有事を喧伝すればするほど、世界崩壊の加速化に拍車がかかってゆく。怒りに身を任せて、その怒りの故に、世界は壊れようとしている。
 わたしたちは今、世界の崩壊に立会いながら、生命の、心のより本源的なところに立ちたいという衝動的に駆られている。その思いは9・11以後、より顕著になってきているように思われる。いのちの本源を開き見、魂を、霊性を開き見ること、それは人が人であることとして、人類始まって以来の永遠のテーマであってきたし、これからも永遠のテーマであることだろう。そこに人と世界の未来の開示があり、そこから溢れ出してくるヴィジョンがある。



ぐちゃぐちゃ、ぐにゃぐにゃ、何とも奇妙な、
ぐにゅっといった感覚を逆撫でしながら、
大地を、泥を捏ねる足音――。
二十ばかりの素足が泥の中で踊っている。
自然農田の、畦道の土手の丘に緑豊に茂る
大木の櫟(くぬぎ)の幹を大黒柱にし、
その周りにぐるっと円く、石の土台を築き、
櫟の枝木を柱として、
そこに、竹で木舞(こまい)が組まれて、
丸い大きな竹籠の空間が編み出され、
藁が切り込まれた泥が塗り込められ、積み上げられてゆく。
盛り上がる大地、競り上がる大地。

そして、丸く球状に盛り上がった土壁の上に、
栗の木を裂いて割った木片の、先に荒縄を巻いた、屋根板が、
とんとんとんとんと、下の方から上の方へと、輪を描きながら、次々に差し込まれてゆく。

あたかもそれは、巨大な松ぼっくりのよう。
大地がそこにあり、
大地に抱かれた
大地の子宮がそこにある。
羊水のゆれる海が
溢れ出てくる。
新しい何かがはじまっている、
新しい何かが誕生している
一つの誕生。

せせらぎゆく水の流れ込む
草々の繁茂する自然農の稲田。
その稲田の中に誕生した土の蔵
――松ぼっくりハウス。

大地が立ち現れたのだ。
   (詩は『魂の源境へ』より)


魂の源境への30年に渡る旅を綴ったインタビュー、詩、エッセイそして写真(カラー6点、モノクロ150点)の交響する295頁の、楽しいグラフィティ。
おおえさんのホームページはこちら

写真上●昨年夏八ヶ岳の、長坂自然農塾の自然農田の前に立ち現れた野菜蔵「松ぼっくりハウス」



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