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オーガニック・ガーデン・ブック
---庭からひろがる暮らし・仕事・自然---

曳 地 ト シ


 私の人生に「植木屋」になるという予定は全くなかった。それどころか、「高いとこ、泥汚れ、虫」は私の三大苦。その私が、何の因果か「植木屋」を職業とする男性と結婚し、無謀にも現場に出ることになったのは、今から8年前。庭のあるような家庭に育っていないので、植木屋の仕事がどういうものか皆目見当がつかず、最初はそうじ一つがまともにできなくて「早くやめたい、こんな仕事」と泣きを入れてばかりいたものだ。それから8年・・・今では三大苦を克服し、天敵「犬」とも和解した私が、夫のハルさんと共著で本を書くことになった。
 かつて市民団体の専従職員として働いていた私は、平和・人権・環境など社会の矛盾を、自分なりに理解していたつもりだった。だが、実際には土に触れたり植物を愛でることもない生活と、都会でのハードな仕事で、頭痛・肩こり・めまい・低血圧に悩まされる日々・・・・行き詰まりを感じていたことも事実だ。そんな私が植木屋の端くれとしていろいろな庭に出てみると、そこは農薬と化学肥料漬けに慣らされた場所。なんとか、そういう状況を少しでも変えていきたいと、ニンニク、ごま油、トウガラシ、木酢液、ドクダミなどで試行錯誤して作ったのが手作りの自然農薬だ。それさえも、使うのは最後の手段。枝抜きなどをして、風通しや日当たりをよくし、木が本来持つ生命力に任せるという方法にたどりついた。それとともに、私の体力も回復し、気がつくと頭痛・肩こり・めまい・低血圧はすっかり治っていたのだから、植物や土の持つ力ってスゴイ!
 植物と接しているうちに、だんだん虫たちにも目がいくようになる。最初は、植物の病害虫を防ぐためには、「敵」のことを知らないといけない、というわけで昆虫図鑑などを眺めていた。気になり始めると、虫の方から私たちの目に飛び込んでくるようにさえ感じる。この世界には、実に不思議な生態をした虫たちがいるものだ。
 サクラやリンゴの葉を食害するセモンジンガサハムシの模様の素晴らしさは、図鑑のイラストや写真がどんなに良くできていても、本物を見た者にしか分からない。本物を見たからこそ、なぜこの名前が付いたかが分かるのだ。この名前を付けた人は、虫をよく観察していたのだろうし、生活をきちんとしていたからこそ、この名前が浮かんだとしか思えない。また、カキなどによくついているイラガのまゆは、人間の指紋と同じように、同じ模様はふたつとこの世に存在しないと言う。
 ある時、お客さんの家でマサキがウドンコ病にかかっていた。これは、小麦粉をまぶしたように葉が白くなる病気だ。農薬を使わないで対処するには、ウドンコ病にかかった1枚1枚の葉を、菌が飛び散らないようにハサミで静かに切り取るしかない。さて、その夜、頭からポトッと小さな固まりが落ちた。よく見ると、渋い白みがかったえんじ色に白い星がいくつかついている体長5ミリぐらいのテントウムシだった。昆虫図鑑で調べてみると、「ムーアシロホシテントウ」。なんとこのテントウムシはウドンコ病の菌を食べて生きている。病気だ、害虫だといわれているものも、生態系の中ではどれも必要なもので、自然界にはいらないものなどひとつもない。それぞれが上手にバランスを取って生きている。そう思うと、1枚残らず取ってしまったウドンコ病の葉のことが悔やまれる。2〜3枚、残しておけばよかったかなぁ・・・。(ウドンコ病の菌を食べるテントウムシは、他に黄色テントウムシがある) 仕事が植木屋だというと、多くの人から「自然相手のいいお仕事ですねぇ」と言われるが、木から見れば植木屋ほどいやな存在はいないだろう。多分ハムシなどより強力な天敵にちがいない。
 植木屋になって、このギョーカイについても、いろいろと驚かされた。とにかく植木屋の評判は悪い。お客さんのところに行くと、今までの植木屋がいかにひどかったかということを延々と聞かされ、さながら私は「お庭のセラピスト」。植木屋には、どうも「草花は木より格下だ」と思っている人が多いらしく、「大事にしている山野草を引っこ抜かれる、ぐちゃぐちゃに踏み荒らされる」という苦情はもとより、木をブツ切りにしてしまったり、花芽を無視して切ってしまうので花が咲かない。造園工事に関しては、見積もりが あまりにおおざっぱで「一式いくら」だけで、内容がさっぱりわからない・・・などなど。あまりにもお客さんとコミュニケーションできない植木屋が多いらしい。植木屋業界もインフォームドコンセントが必要なのかもしれない。そういうわけで、私たちはお庭の手入れ方法などを、「竹ぼうき通信」というささやかな通信で、お客さんに年2回お届けしている。また、お客さんの庭の様子や仕事内容を毎回「お庭のカルテ」に書き込んで、適切なアドバイスをできるよう心がけている。今回の本にはそういった「植木屋は見た!」シリーズも書いてみた。
 この本は、今までのお花いっぱい、キレイキレイのガーデニングブックとは全く違うし、「ガーデンデザイナー」や「作庭家」などが書いた敷居の高いものとも違う。あくまでも「まちの植木屋」から見た使いやすい庭の提案であり、実際の庭仕事に必要なこと、庭を切り口に夫婦別姓から地域通貨、庭の生態系、循環型の庭、園芸療法まで、本当に知りたい庭との関わり方が書いてある。
 庭は一番身近な自然。どんなに小さくとも庭はワンダーランド。伝統に縛られるのでもなく、流行に流されるのでもない、楽しい庭を造っていこう!


「 オーガニック・ガーデン・ブック---庭からひろがる暮らし・仕事・自然---」
定価1800円、176ページ。6月中旬頃発売予定

ひきちガーデンサービスのHP



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