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東海地震と浜岡原発(4)

地球の営みである東海地震を、
原発震災にしないために

河本和朗(長野県大鹿村)


 近い将来必ず来ると学者もお墨付きの東海地震。それは自然の営みであるとしても、一番怖いのが震源域の真ん中にある老朽化した浜岡原発の大事故だ。幸い今のところ事故等で4基のうち3基までが停止中だが、残りの1基でも事故が起これば大変なことになりかねない。
 連載最終回の今回は実際に地震がきっかけで原発事故が起こった際の具体的な対処法をおさらいしてみよう。


1、東海地震の短期予知はできない。

 数10年以内に起こることが確実という長期予知はされている。震源断層面の位置や
大きさも推定されている。おおまかな揺れの強さも推定されている。建物に筋交いを
入れられるならば急いだ方がよい。家具の固定がまだの人は、すぐにやるべき。阪神
大震災では建物が無事でも20%の人が家具の下敷きになったり倒れた家具で逃げ道を
ふさがれている。地震で傷ついてしまうと、放射能から逃げることもできない。
 30日前とか7日前といった日付を示した短期予知はできない。微小地震や地殻変動
・電磁波・動物の行動などに異常な変化があらわれることがある。これらは地震がせ
まっている兆候かもしれないと受け取るべきだ。

2、警戒宣言発令まで

 国による“直前予知”は、震源断層面の一部がすべり始め加速していく過程をとら
えようというもので“発生認知”と言うべきもの。本震の始まりと判断されると警戒
宣言が出る。東海地震でのみ可能性があるとされる。しかし、本震の始まり(前兆す
べり)をとらえられる保証はない。もし成功しても、大揺れの数時間前の発令が限
界。

 気象庁から次の順で、より警戒度が高い情報が発信される。
(1)解説情報:重要な現象だが本震の始まりではない。たとえば2001年4月3日の静岡の
地震のときに出された。
(2)観測情報:岩盤の変形を直接とらえる体積ひずみ計に異常な動きが見られるなど。
続報に注意!ニュースから目をはなさないこと。
(3)判定会招集:15ヶ所の体積ひずみ計のうち3ヶ所以上で、基準以上の岩盤の変形が
観測されると招集される。新幹線の運転は“こだま”だけになる。
(4)警戒宣言:判定会委員が、岩盤の変形が加速し本震の始まりと判断すると、気象庁
長官に報告され、総理大臣から発令される。

判定会が招集されたら、数時間以内に本震発生の確率は5分5分だと思う。危険な場
所から離れ、大揺れの不意打ちに注意。天気と風向きを確かめておこう。

3、警戒宣言が出されたら

 震源は浜名湖から赤石山脈にかけての地下30kmのどこかと考えられている。本震の
始まり(前兆すべり)が検知できるのは、震源が浜名湖下の場合は大揺れの0〜36時
間前、観測機器がない赤石山脈下の場合は0〜3時間前。時間の余裕はほとんどゼロ。
警戒宣言が出たらどうするか、ふだんからイメージしておこう。
 神奈川西部・山梨全県・諏訪〜伊那谷・中津川・名古屋を結ぶ線の内側は、地盤の
悪い場所は震度6以上になる。この範囲(対策強化地域)では電車・バスはすべて止
まる。スーパーや銀行も閉まる。津波と崖崩れ危険区域からはただちに避難。火を消
し、ガスの元栓を閉め、灯油など危険物を安全な場所に移し、電気器具のコンセント
を抜いてブレーカーを切る。脱出口を開けておく。
 電気はテレビの情報を得たいところだが、神戸では再通電で火災が発生したので判
断がむずかしい。建物から離れるならば必ずブレーカーを落とす。危険な建物の場合
は外に出る。ただし都会地では落下物に注意。
 静岡県と中部電力は、警戒宣言が出されたら「浜岡原発は電力の需給を勘案して停
止」と言っている。ただちに止めたとしても、原子炉を傷めずに止めるには半日ほど
かかるから、間にあわないかも。停止後も、原子炉や使用済み燃料貯蔵プールの水が
抜ければ事故になりうる。

4、とつぜんの本震(大揺れ)発生で原発は?

警戒宣言どころか判定会招集もないまま、本震発生という可能性は高い。
浜岡原発では、地下2階の強震計が150ガルの加速度を感じると自動的に緊急停止す
ることになっている。急激な停止は原発にかなりのダメージを与えるので、老朽原発
では緊急停止により破損するおそれがあるが、止まらないよりはまし。
 地下では地表より加速度が小さいので、周辺地域で大きな被害が生じるような大地
震でないと緊急停止しない。原発も揺さぶられている最中ということになる。緊急停
止のために制御棒が一斉挿入されるが、そのときは、配管の破断や停電も起こってい
るかもしれない。
 中部電力は、大口径配管が破断→緊急停止に成功→ただしECCS(非常炉心冷却装
置)のうち最初に動くべき高圧注入系が働かないというモデルの計算結果を公表して
いる。原子炉は停止するが冷却水が失われていき、配管破断330秒後に炉心の一部が
空中に露出。崩壊熱により燃料表面の温度は100秒間に240℃から500℃まで一気に上
昇。そこでECCSの残りの機能が働き燃料は再び水につかるというもの。国と電力会社
はECCSは絶対に働き、メルトダウンは絶対に起こらないという。
 しかし地震時には、同時に多数の破損個所が出ることが考えられる。もしECCSの残
りの機能も働かなければ、事故発生10分後には温度は1200℃を超え、メルトダウンへ
向かって進んでいくことになる。1979年3月28日にはアメリカのスリーマイルアイラ
ンド原発でメルトダウンが起こっているし、11月7日の浜岡1号機の配管破断はECCS高
圧注入系を駆動する蒸気配管が試運転中に爆発したものだった。

5、大揺れとともに、情報と交通は途絶する

 東海地震では、三島から浜名湖にかけての地盤の弱い所で、阪神で最も被害が大き
かったところと同じ震度7になる。浜岡原発の近くでは、清水〜静岡の邑川ぞい、焼
津の朝比奈川、吉田・榛原・相良の小河川ぞいの低地、小笠町の菊川ぞい、浅羽町か
ら袋井にかけての太田川と原野谷川ぞいの広大な低地、浜名湖北岸の気賀など、昔は
湿地や潟湖の底だったところだ。原発西側の浜岡町池新田から浜名湖岸の舞阪・弁天
島にかけての遠州灘ぞいも、もともと砂丘だったところで、かなりの被害になる。国
道150号線は津波と液状化で寸断されるだろう。
それぞれの被災地では、何が起こっているか、しばらくは知ることができないだろ
う。おそらく停電のためテレビは使えなくなり、電池式のラジオだけが情報源とな
る。
 中部電力は「東海地震で浜岡原発は壊れない」と主張し、静岡県も「もし壊れても
被害は軽微で放射能は漏れない」という前提で、地震が引き金で放射能が放出される
可能性を考えない。これでは仮に放射能放出に至るような事故が進行中でも「事故は
起こっていない」という誤った判断がされるだろう。東海地震発生時には、安全が確
認されるまでは「事故が起こっているかもしれない」と疑ってかかるべきだ。

6、まず風向きを確かめよう

 浜岡原発サイトは風が強い。上空100mの年間の風向きは、北15%:東25%:南15%
:西45%の割合で西風が多い。平均風速は約7m/毎秒。時速に直すと25km/毎時であ
る。この速さで放射能が運ばれると、放出1時間後に島田〜掛川〜袋井、2時間後に静
岡〜浜松、4時間後に熱海〜飯田〜岡崎、5時間後に甲府〜名古屋、7時間後に東京〜
松本〜彦根〜尾鷲に達する。ただし夏は風が弱く冬は強い。
放出された放射能は、晴れの日には吹き上げられて広がる。曇りの日には低くたな
びく。雨天では雨水に洗われて狭い範囲に降り注ぐ。雨に濡れることは絶対に禁物。

まず、自分の方向が原発の風下かどうか確かめよう。風向きの変化にも注意しよ
う。低気圧が接近中のときは東風が吹いているが、やがて風向きは変わる。低気圧が
山側を通るときは、東→南→西に変わり、低気圧が海側を通るときは東→北→西に変
わる。西風のときは風向きは安定している。いざというときには風の向きと直角に避
難しなければならないから、そのルートを思い描く。

7、被ばくは4つの経路から。

(1)放射能雲(放射能の塵を含んだ大気)が通過中の被ばく。一時的。
(2)体内からの被ばく。通過中の放射能雲や、地面から巻き上がった放射能の塵を吸い
込んで、体の中に入った放射能から被ばくするもの。放射能が体の外に排出されない
かぎり、放射能が減衰し消滅するまで被ばくはつづく。
(3)地面からの被ばく。放射能雲から地面に降下した放射能は、洗い流されないかぎり
放射線を浴びせつづける。その場所にとどまるかぎり被ばくを受けつづけ、総被ばく
線量は時間に比例して増えていく。短寿命の放射能は減衰していくが、セシウム137
は土壌粒子と結合して数10年以上とどまり、被ばくを与えつづける。
(4)飲み水や食品を通じて放射能を取り込むことによる被ばく。

瀬尾健『原発事故そのときあなたは』(風媒社1995年発行)によれば、メルトダウ
ンから格納容器破壊にいたる大事故の場合、(1)の通過中の放射能雲からの総被ばく線
量は、(3)の地面に降下した放射能からの時間あたり被ばく線量の2〜3時間分になり、
(2)の体内にとりこんだ放射能からの総被ばく線量はBの20〜50時間分になる。
そこで身を守るためには、(1)については放射能雲通過中は地震で壊れなかった密閉
された建物に避難し、できるだけ窓から離れる。(2)については放射能雲通過中は、口
と鼻を濡れタオルでおおって放射能を吸い込まない。(3)については、できるだけ早く
汚染地区から離れる。(4)については、できるかぎり体内に取り入れないということに
なる。

8、遠方では、避難は放射能雲の通過後?

東海地震時には電車は止まるし、道路も渋滞で動けなくなる。原発から30km以遠で
は、歩いて1〜2時間移動しても風道からそんなに離れられない。避難中に放射能雲に
巻かれるのは危険だから、避難は放射能雲の通過後に、地面に降下した放射能からの
被ばくを減らすために行うと考えた方がよさそうだ。
 逆に原発から15kmより近いところの風下では、地震直後に避難を始め、安全が確認
されるまで避難し続けた方がよいかもしれない。海岸は津波にやられているから小笠
山丘陵〜牧ノ原の稜線へ向かうことになるが、南風の場合はこの方向へは行けない。

9、避難のめやす

現実に放射能が自分の方へ飛来しているかどうかは、手元の放射線検知機で知るし
かない。放射能雲の本体が来る前に、さきがけ的に飛来する放射能の一部を捕らえら
れるかもしれない。
 放射能雲通過後は、地面に降下した放射能からの被ばくが、外部被ばくのおもな原
因になる。日本政府による避難基準は、外部被ばくが0.1シーベルト(一般人にたい
する年間規制値の100倍!)と決められている。放射能雲通過直後の1時間あたり被ば
く線量が600マイクロシーベルト/時間(通常の5000倍)のとき、そこに7日間とどま
ると外部被ばく線量が0.1シーベルトを超える。このような場所からは、できるだけ
早く避難した方がよい。
 上記の大事故の場合、曇り風速2mのとき、風下130kmでこのレベルの汚染になる。
ただし、事故の規模や気象条件で汚染の様子はまったくことなる。
 いま私たちが手ごろな価格で簡単に買うことができる放射線(ガンマ線)測定器で
は、測定範囲を最大に切り替えても999マイクロシーベルトまでしか測定できない。
測定値は時間とともに0.5〜1.5倍ていどの範囲で変動するから、平均600マイクロ
シーベルト/時間でも最大値を示すときは振り切れるかもしれない

10、数100マイクロシーベルト/時間の被ばくでも小児甲状腺ガン

図は、チェルノブイリ原発事故当時の放射性ヨウ素131によるベラルーシ国内の汚
染地図(ベラルーシ水理気象局1994年作製、原子力資料情報室通信No.249に掲載)
に、同じ縮尺の日本地図を重ねたものだ。チェルノブイリ近くのブラーギンのほか、
北北東180kmのチェチェルスク〜ゴメリ付近にも、大量のヨウ素131が降下している。
両地区ともゴメリ州に属する。
ゴメリ州では、事故5年後から事故前の100倍の小児甲状腺ガンが発生し、事故10年
後にピークに達した(チェルノブイリ医療基金ニュースレター1998年)。
事故時の空間線量率の最大値はブラーギン市で48ミリレントゲン/毎時、チェチェ
ルスク市では10ミリレントゲン/毎時だった。1レントゲンの照射が1レム(=0.01
シーベルト)の被曝線量を与えるとすると、ブラーギンで480マイクロシーベルト/毎
時、チェチェルスクで100マイクロシーベルト/毎時の被ばく線量になる。チェルノブ
イリ原発事故では10日近くも放射能放出が続いたので最大値だけでは比較できないけ
れど、数100マイクロシーベルト/毎時ていどの被ばくでも将来の甲状腺ガンの発症の
可能性がある。

11、ヨウ素剤

放射性ヨウ素により甲状腺が傷つくことは、放射性ヨウ素が体内に取り込まれる前
にヨウ素剤(ヨウ化カリウム剤)を飲むことで、かなり防げるとされる。
浜岡原発周辺8km以内の住民のヨウ素剤は公共施設にまとめて備えられているが、
原発震災時に被ばく前に配ることは、やろうとしてもできないだろう。また、チェル
ノブイリの風下180kmで甲状腺ガンが多発していることを考えれば、遠方の者も、そ
れぞれがヨウ素剤を用意しておくしかない。
ヨウ素剤を飲むことによって甲状腺被ばくを阻止できる率は、服用が被ばくの12時
間前=90%、服用が直前=97%、服用が1時間後=85%、服用が3時間後=50%。
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/kanpo/3W/ki.html
ヨウ素剤の購入には処方箋は要らず、通信販売で購入できる(上記ホームページ最
下段の薬局名をクリック)。
ヨウ素剤は被ばくの前に飲まなくては効果が激減する。めやすは通常の40倍を超え
る5マイクロシーベルト/毎時の線量になったら、放射能雲本体の飛来にそなえて飲
む。

12、長期汚染による居住地放棄

ここまで、短寿命放射能による急性放射線障害と、放射性ヨウ素による甲状腺ガン
を、少しでも減らす手だてを考えてきた。この後は、放射能汚染された水や食品をで
きるだけ長い間、体に入れないこと。そして、計測器を使って自分のまわりの汚染状
況をしらみつぶしに調べていく長期戦になる。
 放射能を浴びた以上、将来のガン発生率が多少上がることはしかたがない。しか
し、土壌汚染が強いところでは、とどまればとどまるほど、将来のガン発生率が高ま
る。ある基準以上の汚染地域では、数10年間立ち退くしかない。チェルノブイリ原発
事故による長期立退き地域と日本地図を重ねた図は、連載第2回に載せたので見直し
てみてください。


前号の終わりの方で、ミスがありました。「自然放射線レベルの2倍の放射線量
(平均0.3ミリシーベルト/毎時)」は、0.3マイクロシーベルト/毎時の誤り。また
「許容量」は規制値という言葉に代えてください。



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