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島日記

1997年9月

ドビンムシ

少し古い話題になるが、この春、島の生態系に異変がおこった。山がいっせいに茶色く枯れ始めたのだ。八丈島は照葉樹林帯に入るので、山はいつも青々としているのだが、この春は、三原山の東南麓、末吉の集落の上あたりから隣の中之郷にかけて、大規模な範囲で緑の山が茶色に変わり、まるで山がアトピーになったようで痛々しかった。

●その原因は大型の尺取虫の一種が異常発生したことによる。(10B弱くらいの大型の虫が、多いところで1Fあたり70〜80匹にもなった。想像しただけでゾ〜ッとするでしょ?)正式名はトビモンオオエダシャクというが、島の人はこの虫のことをドビンムシとかドビンワリと呼んでいる。というのは、この虫は木の枝に似ていて、人が近づくと木の幹からちょうど枯れ枝が突き出たような形をしてフリーズしてしまうので、近寄って見ても枝か虫かわからないのだそうだ。擬態の一種で、虫が生き延びていくための自然の知恵だ。

●そこで山仕事にきた人が、水が入った土瓶を、ちょうどいい枝だと思ってそこにかけると、虫は重みに耐えられずに落ちるので、土瓶も割れてしまう。きっとそんなふうに土瓶を割った人が多かったので、こんなおかしい名前が付いたんだろう。

●このドビンムシ、八丈では初めてのようだが、伊豆諸島の他の島では何度か異常発生したことがあるらしい。主に椎の木の、それも上の方の葉を食べるそうなので、農薬をまくとしても地上からかけても届かない。大島では7年前に大発生して以来、農薬の空中散布を続けているという。しかし八丈の場合、発生場所が水源林なので水を汚染する心配があるし、又生態系に悪影響を及ぼす危険性がある、とナオエ町長は農薬散布を行わないことを決めた。

●専門家によると、こういった虫の大発生には病気が出て自然消滅する例が多いそうだ。一時は島中の木が茶色くなってしまうのでは、と思うくらいの勢いだったが、季節がめぐるにつれ、落ちつきを取り戻している。食害された椎の木も枯れてしまう心配はないらしく、又さいわい農業への被害はほとんどなかった。こういった「非常事態」が起こるとあわててしまい、かえって二次災害が大きくなる例もよくあるが、そんな時の対応のしかたで本領が発揮されるものだと思った。           〈ア〉

    ドビンムシの蛾

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