2003年7月3日 長野 高遠町 山室 自宅レコーディングな日々




6月28日、新宿で下村誠さんと待ち合わせて、高速バスで伊那へ。下村さんは自らもシンガーソングライターであるとともに、数々のイベントや何人かのミュージシャンのアルバムプロデュースをしている。数年前、福島は獏原人村の満月祭で出会って以来の友人で、イベントやお祭りで会うと、わたしは彼の歌に数曲バイオリンのバッキングをするし、彼もわたしの歌のギターを弾いてくれる。
 今回は、わたしの次のアルバムプロデュースを快く引き受けてくれたので、自宅レコーディングのため、我が家にレコーディング機材とギターを抱えて来てくれた。

27日は東京は武蔵小金井のユニークな歯医者さんのスペース、リバースでコンサート。実はこのコンサートは28日から千葉の友人ミュージシャンと下村さん計4名でわたしのCDレコーディングを取り組もうと、千葉の友人の家に行く予定だったので、どうせ東京を通るのだから道中にと急遽、友人が企画してくれた。

けれど、出会ったばかりだった千葉のミュージシャンは、忙しい中6月、数ヶ所のライブの演奏を手伝ってくれた上でやり方の違い、スケジュールの無理を実感して、今回のレコーディングには関わらない意思を伝えてきた。そんなわけで、予定外に下村さんと二人でレコーディングをはじめることになり、まるで、下村さんを迎えに行ったかのような単発コンサート。
 武蔵小金井はリバースにも来てくれた下村さん、飛びいりで演奏し歌も歌って、打ち上げまで残った。この夜は、ベース&ウクレレで参加してくれた館田くん、歯医者のひろさん、コンサート主催者の森川さん、聞きにきてくれた数名のかたがた、下村さん、みな終電まで腰を上げなかった。いろんな条件がそろうとしっくりと心なごむ小人数の打ち上げが偶然成立する。施設出身のふたりが語ってくれた言葉、彼らの存在感は、わたしの胸に。この夜、コンサートの中で、わたしは見たばかりの夢の話をしたのだけれど、「殺す、殺されるすらも長い輪廻の中では善悪を越えた、縁のつながりによって生じてくる愛を学ぶプロセスかも?」と夢の中で殺されようとしていた私としての感想を加えた。野性動物のように死を受容し、殺そうとしていた男性の魂が救われるよう一身に祈り、愛していたわたし、あれはわたしも知らないわたし。わたしも知らない愛。いったいどこから来るのだろう。

♪愛はどこから やってくるの わたしも知らない わたしの心♪(瑠璃色の涙)

 けれど、実生活の中で、苦しみ抜いてこられたTさんは「無力な子どもが、繰り返し繰り返し、おぞましい虐待を受けつづけた場合、自分を守るためには、自分を苦しめた相手を愛するなんて考えられない。相手の存在も、起きた出来事も、自分の感じたことも忘れることが唯一の救いです。」といった内容を話された。無抵抗な子どもが、無条件の愛を経験することなく虐待から身を守りつつ、必死で生き延びていく。想像もつかない苦しい道のり。胸がしんとした。里親を進めるネットワーク作りに関わってる森川さんとは、これからもきっと繋がってゆくだろう。

さて、下村さんと二人で、どんなレコーディングが成立するのか、想像もできてなかったけれど、とにかくレコーディングしたい歌を全部、把握してもらい、アレンジするということで28日の夜から作業が始まった。面白かった。大雑把に歌を掴んだ上でアレンジの必要な歌からアレンジしていく。ギターからさっさとレコーディングが始まり、その上に別の音と歌を重ねていく。打ち合わせ以外は、ほとんど下村さん一人の仕事が続く。
 我が家は部屋がたくさんあるので、レコーディングに二部屋使い、一番奥の間に下村さんは宿泊。(下村さんは2〜3時間の仮眠。限られた時間で10曲、アレンジしベーシックレコーディングを終えました)わたしは必要な時にレコーディングに参加し、畑や村の作業や仕事を別の部屋や屋外で進めていた。
 その日、村で交替にまわってくる動物よけの柵の点検のため、いつも歩かない道を歩いた時、流れてきたデジュリドゥーの音に惹かれた。そうだ、ひとりミュージシャンがこの村に住んでいたんだった。下村さんと相談して、Hさんに参加をお願いしに彼の家を訪ねた。初めて個人的に話をし、我が家まで来ていただいた。デジュリドゥーの原初的な空気の振動に押しだされるように不思議な「天使の歌」の世界がレコーディングできました。
 自分の住んでるその場所でレコーディングするって素晴らしいな。朝、コーヒーを飲みながら下村さんが「生きてるそれだけで素晴らしい」のギターワークを自然に思いついた。「この村の空気、川の流れる音のイメージ」と言いながら。
 
そして、地元のミュージシャンたちには、村や地域のイベントの手伝いに出た時、流れの中でレコーディングの手伝いをお願いしたくなった。まるで畑に出た時、実っているおいしそうな旬の野菜をみつけ収穫するみたい。

1日、下村さんは東京へ。睡眠不足状態で体力の限界まで一緒に仕事したので、すっかりうちとけて、ほとんど小学校の同級生気分。ほら、暗くなるのも気がつかないで砂場で遊んでた友達とかいたでしょ。

5日には岩手から、このレコーディングのためにベースのでんちゃんが来てくれます。でんちゃんと、山室の部落の集会所で無料コンサート。6日には下村さんが再び来てくれて、隣のたかこさんの家でコンサート。これには地域のミュージシャン3人が手伝ってくれる予定。6日の夜から、レコーディング再開です。