2002年11月28日 
屋久島 白川山



 屋久島は、昨年の夏癌で亡くなられた詩人の山尾三省さんしか直接の知りあいはなく、実は少し心もとなく鹿児島から船に乗った。縁あってコンサートの主催をしてくださることになった初対面の手塚さんたちに港で迎えてもらうと、屋久島での濃い物語が始まったみたい。昨夜は手塚さんのお宅の囲炉裏を囲んで夕食をいただいた後、歌を披露してると、旅人に自炊の宿として開放されている平和道場に泊まっている若者たちもやってきて、ちょっとした集まりに。

白川山は屋久島の北端にある。一時は廃村になったというが、山尾三省さんたちを含めて2家族から再スタートして今は30人程が暮らす森つつまれ、澄んだ川の流れる美しい部落になっている。家を建てたり、さまざまなことをみんなで集まって助け合うことで再生したこの村は、旅人を受け入れ、暮らす人々どうし気心の知れた仲の良さがある。手塚さんのお宅にも、今夜のわたしの宿を提供してくれている平和小館白河の宿主、吉田さんの家にも三省さんの著書や写真、ビデオやCDなどがあり、しきりと三省さんの世界を紹介してくださった。

家族に残した3つの遺言、3つの願いに(1)産まれ故郷の神田川の水を、もう一度飲める川の水に(2)原発がすっかりなくなるように(3)日本国憲法第9条が世界の国の憲法となるように、という普遍的な願いを残された山尾三省さんは彼の住む白川でも大切な存在として慕われ、亡くなった後も彼の遺志を次ごうと村の仲間が心に火を灯しているのがわかって、わたしの心にもまた明かりが灯った。

今日は、吉田さんに案内されて山の中に静かに眠っている三省さんのお墓まいり。三省さんの晩年の話や納骨した時、雨がやんで虹がでた話など山を歩きながら聞く。
 そして、白川では一番奥まったところの禅寺、芙蓉寺を訪ねた。住職さんが自分で材を運び建てられたという禅道場は、山の懐にあり禅を組むのに最高の環境なのに、めったの訪れる方々がいないようで、島では檀家も少なく住職さんはアルバイトをしながら生活されてるとのこと。こんな山深いところに苦労の末、一人で寺を建て素晴らしい禅道場ができているのに利用されていないなんて。で是非とも禅を組みたい方々に紹介したいと感じました。日常座禅の他、一泊座禅会や長期の座禅も受け入れています。費用は座禅して朝食のかゆを食していく一泊一食1000円、三食座禅つき宿坊に泊まっていく場合一泊2000円。電話09974−4−2182 芙蓉寺 守時道林。
 吉田さんのお宅へ戻ると平和道場の若者たちが遊びにきていた。吉田さんの勧めで三省さんの死後、三省さんの思想と暮らしが編集され紹介されたいうテレビ番組のビデオを見せていただく。三省さんが、土を耕し詩を書き、質素であるけれど家族や村人と共に喜ばしい繋がりのある暮らしをしながら、この地球を自分の親として尊重してゆかなければ自分たちには未来はないと静かに訴えられる言葉が、隣に座って同じ映像を見ている若者達の心にしみていってるのを感じながら、わたしも、そのシンプルなメッセージを受け取った。三省さんが自分の遺言の中で「自分の本当の願いを伝えるということは、自分は本当にあなたたちを愛しているよと伝えることでもあるのです。」と書かれているけれど、わたしも自分の本当の願いに添って話し、暮らしたいと改めて思いました。

夕方、三省さんのお連れ合いの晴美さんにはじめてお会いしに一人で夕方の川沿いを歩いて訪ねる。2年程前まだカリフォルニアにいる頃、三省さんとは、わたし達のCDと三省さんの著書とのやり取りをしていて、晴美さんもそのCDを気に入って何度も聞いてくださったようで、お互いに少し照れながらの対面をした。わたしは三省さんとは学生の頃東京は国分寺のほら貝という飲みやさんで偶然出会っていて、一緒に俳句を読むという貴重な体験をしたり、その後三省さんが出版された「聖老人」を読んだ時、「この文脈や言葉の流れはよく知ってるという」不思議な感覚が生じたりして、まだ会ったことのないお連れ会いの晴美さんはどんな人だろうと想像をめぐらしたりしていた。

晴美さんはまだ小学校と中学生のかわいらしいこどもたち3人を育てている。「まだ一人で歩くことにはなれてなくて。」と少しつらそうに微笑みながらいう晴美さんに、歌が歌いたくなって新しい歌を3曲歌った。目をつぶって体をゆすりながら吸い込むように聞いてくれる。 「わたしのために作ってくれた歌みたい」と晴美さん。「コンサートには来てくれる?」 「もちろん。」夕食前だったし、少しいておいとましたけれど、三省さんが晴美さんにひき合わせてくれて、これからゆっくりおつき合いしてゆくんだな、と思う。

明日は、吉田さん(別名シチュウー)に屋久島の森を案内してもらう。また、明日、ピアニストのらけんどらが島に来てくれる。あさってがコンサート。

シチュウーの平和小館白河はとても素敵な宿です。是非利用してくださいね。白川の仲間に手伝ってもらって建てたきれいな木造2階建てのペンション風の宿で3部屋、ダイニングキッチン、洗濯機、お風呂があり自炊ができて仲間どうしや家族なら予約すれば貸しきりにしてくれます。素どまり一泊3000円。子どもは小学校低学年以下は宿泊費はとらないとのこと。注文すればシチュウーさんのおいしい料理も食べれる。シチューさんは心で動いてる人なので、きっと屋久島にはじめて来られる方にとってはいい宿になると思います。

平和小館白河 吉田明夫(通称シチュウー) 09974−4−2660

  1日暮らし 山尾三省

海に行って
海の久遠を眺め
お弁当を 食べる

少しの貝と 少しのノリを採り
薪にする流木を拾い集めて 1日を暮らす

山に行って
山の静けさにひたり
お弁当を 食べる

ツワブキの新芽と 少しのヨモギ
薪にする枯木を拾い集めて 1日を暮らす

一生を暮らす のではない
ただ1日1日
1日1日と 暮らしてゆくのだ