2002年11月5日 
長野




 ここ芝平の家では2日前に初雪。今朝もこどもたちを学校へ送って行く時あたり一面は凍っていた。このところは寒さのためか際限もなく家に入ってくる亀虫を退治している。ほっておいたらすごいにおいの亀虫の家になりそう。それにしても芝平の山は豊かな山だ。きのこもおいしかった。帰宅が遅くなった夜道はさまざまな動物が道を横切り、車のライトに照らされる。きつね、たぬき、いのしし、鹿。鹿はカリフォルニアでは鳴き声を覚えなかったが、ここの鹿は女の人の悲鳴みたいな高い声で、毎晩聞こえる。夜空を見に外にでると、すぐ真近で鳴くので、こちらが観察されてるような気がして、そそくさと家に入ったりしてる。
 この数日、カリフォルニアの山の家を暖かくした時と同じように、和生がすきま風のはいるところは全て布やビニールでおおいつくしだいぶ家の中が暖かくなった。それでも1日、薪ストーブを焚き、あんかコタツを使いはじめた。
 
わたしは久しぶりにこの一ヶ月、家にいることが多かった。アメリカの山の家では自分の自由になる車を持ってなかったが、ここではまず最優先させて自分の車を手に入れた。和生がツアーにでた2週間、自宅での静かな時間も友人の家にこどもたちと出かける時もなんだか新鮮。誰にも気を使わなくていい空間というのは時として自分を深いところまで連れて行く。一度こどもたちを学校へ送り一人になった数日、わけもなく重苦しい気分に見まわれ、その気分を歌にしたら霧が晴れるようにして北海道でできて胸にしまっていた歌、「天使の歌」を歌う気になった。この2つの歌と共に、なにかが開かれて、風景が以前より体に入ってくるようになった。山道を車で走りながら「なんて素晴らしい風景だろう!」と改めて幸せを味わってる自分に気がついた。きょうはそのふたつの歌の歌詩を後で紹介しようかな。
 
人の心って精妙にできていると思う。誰にも気がねしなくていい自由な空間にたどり着いた時、まず浮上してくるのは心の痛み。それは、こどもの頃から擦り減らしてきたデリケートな部分。その自分をありのままに自分で理解して表現して開放されてゆくんだな。心を擦り減らして鬱を抱えてるのはわたしだけではない。その苦しさは学校や会社、あるいはさまざまな日常でまわりに自分を合わせ心を擦り減らしている全ての人と繋がる痛みだ。だからこそ、歌にしてみた。歌詞などまた変わるかもしれない。まだまだ充分に言葉にできないでいる。
 心の痛みが浮上してきた頃、共時性が働き、妹が電話で「コ カウンセリングをしよう。」と誘ってくれた。わたしはなにも言ってなかったのに。とってもシンプルなやりかたでお勧めです。お互いの話を10分ずつ、意見や自分の話をさしはさまず、ただ聞きあう。それなりに忙しい毎日だから、電話をかけあう時間を大体決めておいてお互いの話を聞きあって少し話したら「じゃあ、また明日ね〜」と切る。4〜5日くらい続けたかな。これが実に効果的だった。日頃の会話では、途中で話題が変わったり、意見をさしはさまれたりで言いたかったことの真意が伝わらないことが多い。ところが、相手が自分の話をしっかり受け取ってくれるという安心のもとに話ができ、また聞き役にもまわると、それだけでソレゾレに自分で自分を理解する機会になるのだ。不思議。そして、自分をいつもより理解しはじめると、そこに偶然が重なり、久しぶりに母から電話がかかってきたりしてゆっくりとくつろいで感じたままを話しあうことになった。こどもの頃の日常風景を母子で思いだしお互いに気がつくことがあった。  さら
に偶然が重なり、ふと顔が意識にのぼった友人に電話してみたら彼女も数日前にわたしを思いだし、なにか伝えたいことがあると感じたと言う。話してる内に、彼女はアーノルド、ミンデルという心理学者をわたしに紹介したかったということを思いだし、本を送ってくれることになった。
 
その本にわたしの重苦しい気分のことも解説されていた。ミンデル曰く、現代人は鬱を抱えながら、それを見ないようにしてるがその気分を充分知る事によって開かれた未来を受け取ることができる、と。(これは、わたしの省略した紹介の仕方。彼の文章はわりと難解)本の帯びに書いてあることをそのまま書くと、時空を超えたドリーミングの世界にいかにアクセスし、自覚を保ちつづけるか。癒しを超えて生死の全体性をめざす、とある。それでね、この本を読んで、わたしは自分の歌の傾向を少し理解した。わたしの場合、日常に隠されてる本来の自分の気分をとらえ歌にする傾向がある。その気分はさまざまであるがよしあしは判断しない。普通は歌の題材にするようなものではないかもしれない。ようするに隠されてるものを公にして全体性を回復するっていうのかな、アーノルド・ミンデルはプロセス指向心理学という名前で紹介されているけれど、もしかして、わたしの歌にも、そんな傾向はあるかもしれないなと思った。コンサートを聞かれたみなさんはどう思われますか?

朝がきて

1日が重くのしかかるようで、わたしはただひたすら眠りたい
思い返せば、まだ中学生の頃、休みの朝にはそんな気分でいた
今日という1日は わたしだけの宝物
決めごとのない まどろみが わたしの心 緩ませる
 傷ついた心が痛みだす ほんとの言葉で語り合いたい
 愛だけが 愛だけが 語らぬ言葉 ひろいだす
傷ついた心が痛みだす ほんとの言葉で語り合いたい
誠だけが 誠だけが 傷ついた心 休ませる
 1日が重くのしかかるようでわたしは ただひたすら眠りたい

天使

自分で決めた時 天使は降りてきて 共に歩きはじめる
さまざまな姿で 働きはじめる
迷いの中から 中心を定めて 自分で決めた時 
天使は共に立つ あなたの後ろに
制限のない愛の仕事を 
制限のあるこの体で ひきうける時 扉は開くよ

「24時間の明晰夢」 アーノルド・ミンデル 春秋社