2001年12月23日   山の人にしかわからないこと


きのう、オーストラリアに住む、イスラエル人の女性tamiが山の我が家に一泊して次
ぎなる旅へと帰っていった。彼女を迎えに行くのも、送りに行くのも山の隣人に車を
出してもらい、協力しあって二日がかりのアドベンチャーとなった。というのは山に
雪が積もったから。わたしたちの住んでいるところは、一番ちかくの町まで車で一時
間弱。その間人家はないから、もちろん除雪車はこないし、雪が積もったら、とにか
く溶けるまで動かないにこしたことはない。下手をすると道の途中で車が動かなくな
ったり、町に出れてもその間に雪が降れば、(町ではたいてい雨なのだが)山の家に
戻れなくなったり。そういうことは、わたしたちは何度か経験済み。したがって、冬
はなるべく食料を買いだめして天気のわるい時は動かない。また、コンサートの約束
があれば天気しだいでは早めに山を脱出する。今、わたしたちの車は四輪に切り替わ
らなくなってしまい山道、特に雪道は厳しい。でも、今回、わたしたちだけではtami
を迎えられなかったところを隣人、けいこ&tomasに助けてもらい、彼らとまたひと
つの流れを共有してる感じがなんだか嬉しい。tamiはまた、この山へ戻ってくるよう
な気がする。そしてわたしたち家族は来年彼女の住むオーストラリアのコミュニテイ
ーを訪ねることになった。
 
tamiとは10月、福岡で初めて出会った。その時、tamiは、沖縄に住む障害者の画家
、木村浩子さんの介護者をしていて、浩子さんとわたしたちがコンサート&シンポジ
ウムを福岡でジョイントで行った2日間、宿を同じくしたので親しくなった。彼女は
日本語がわからないにもかかわらず落ち着いてみんなの中に溶け込み、直感を働かせ
てできる範囲の中で浩子さんの介護をしていた。彼女とわたしを結び付けるものがい
くつかあった。ひとつは、彼女の少ない旅の荷物の中にかわいらしく包まれた布ナプ
キンがあったこと。わたしも、環境や自分自身の身体のために布ナプキンを使いたか
ったが、子ずれのコンサートツアーに布ナプキンを洗い、干す作業は難しく思えてい
た。でも、tamiが嬉しそうに自分のナプキンを見せてくれた時、わたしもできること
を知った。彼女だって、旅をしながら24時間の介護者をこなしている。また、彼女
は早朝、冥想する習慣を持っていた。彼女はオーストラリアで浩子さんに会い、思い
がけず介護者として初めて日本にくることになったというが、彼女にはオーストラリ
アのコミュニティーに12才と22才の息子がいるということで、彼女の家族が今、
どんな状況なのかわたしは知りたかった。彼女は彼女なりの悩みを克服しながら旅し
、人を助けながら自分の人生を整理する時間を持っていることが今回、話してわかっ
た。わたしは来年の5月tamiの息子さんたち、彼らのお父さんにも会うことなるだろ
う。

tamiを迎えに、けいこ&tomasの車に乗せてもらった時、まだ誰も車を走らせていな
い真っ白な山を喜びとともに走った。雪にお日さまが反射して眩しいばかりで、わた
したちの視界には分厚い雲が大地のように広がり、いつもとは別世界。美しかった。
ピリカは道のりの半分は車についてきた。ムクも最初はついてきて、雪の中を転がっ
て、けいこちゃんの娘、4歳になるももちゃんを笑わせた。犬たちの足は野山を駆け
巡っているので野生の動物のようにしなやかだ。途中で車から降りてピリカに家に帰
るように言って聞かせると途中で姿を消し、家にもどったようだ。わたしたちは分厚
い雲を通り抜けて、町へとおりた。町からでは想像もつかない光景が山の上には広が
っている。