スターファイア(星の火)の謎(その三)

謎の石、ムフクズティ

 謎めいた物質といえば、古代エジプトの碑文や文書には、シェッファとは別にもう一つ、“ムフクズティ”という正体不明の物質がしばしば出てきて、長い間、エジプト学者たちを悩ませてきた。何人ものヒエログリフ専門家たちが解明に挑戦して、どうやら何らかの“石”らしいということまではつきとめた。それもただの金属や鉱物ではなく、宝石以上に重要で貴重な石のようだが、記述から見る限り、なぜか石にしては妙に不安定な物質とも見なされているように見えた。こうして19世紀以来、最初の疑問から100 年以上経った1955年、長年論争してきたエジプト学者たちがようやく出せた結論は、「ムフクズティは貴重な鉱産物だ」というものだったのである。

 ムフクズティとは、ずばりシェッファ、シェマンナ―ホワイトパウダーゴールドを製造するための石―貴重な鉱産物だったのだ。これはつまり、その物質は宇宙由来の物ではなく、この地球上に存在する特殊な物質であるということだ。
 それは実は古代エジプトの近縁の地だけに存在していたものではなかった。20世紀の後半になって、アメリカの片田舎で、それも錬金術とは縁もゆかりもないある農場主の全くひょんな発見から始まって、一つの怪物質が世界のトップ科学研究所、政府科学者などの熱い注目を集めることになる。

究極物質エキゾチックマター

 1970年代半ば、アメリカ・アリゾナ州フェニックス郊外の農場主デビッド・ハドソンは、所有する広大な土地の地味が悪いのを改良するために、2年がかりの土壌改良計画に着手した。ところが、ナトリウム成分過多で水分が浸透しない土壌に、濃硫酸を何トンも大量にぶち込むなどして手を打ち、変質し始めた土壌のサンプルをあちこちから採取してテストするうちに、説明のつかない特異な性質を示す謎の物質に出くわしたのだ。
 抽出されたその成分はビーズ状物質で、太陽光線にさらしてセ氏100度以上に加熱乾燥させたとたん、ものすごい白光を放って無音の爆発を起こし、完全に消滅した。
 とても不思議な爆発で、試しに側に鉛筆を立ててもう一度やってみたところ、鉛筆は倒れもせずに片側だけ焼け焦げていた。るつぼで溶かして比重を比べると、金か銀くらいだが、特有の延展性がなく、ハンマーで叩くとガラスみたいに砕けてしまった。

 驚いたハドソンは、この怪物質をニューヨーク州のコーネル大学の化学教授、ドイツの分光分析研究所の専門家、さらにイギリスのハーウェル原子力公社技術研究所へ送って調べてもらったが、どこの分析機も歯が立たず、とんちんかんな結果を出しただけだった。
 ようやくロシア科学アカデミーの協力が実現して、世界最高性能を誇る分光分析機で調べた結果、問題の白いビーズ状物質は、驚いたことに加熱時間の長さに応じて金属の種類がどんどん変わっていくという、これまで科学上知られていなかった不可思議な反応を示すことが確認された。加熱時間が長くなり、融点がどんどん上がるにつれて、金のほかにパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウムと、白金族の貴金属が次々に探知されたのだ。
 さらに、加熱と冷却を規則正しく続けると、サンプルの重量がそれにつれて変動した。
 いつも特定の温度に達したとたん、白いビーズ状物質は光り出して、量子力学でいうハイスピンで単原子のパウダー(粉末)状態に分解したことが分かった。“ハイスピン”とは、粒子が静止していても内在する特殊な角運動量の増大状態をいう。“単原子”とは、そのハイスピンのために、原子間の結合が破れて、原子がばらばらな単独状態をいう。
 常温では不活性の希ガス(ネオン、アルゴンなど)に見られる。

 金がこのハイスピン単原子状態になって普通の金に戻れなくなると、電子が純白光を発するため白く見える極微細なホワイトパウダー状態になるものと推測された。そして何度やってもテスト開始時のサンプルの重さが、ホワイトパウダーゴールド化すると、常に劇的に56%まで低下した。あとの44%の重さはどこへ消えたのか? だが、さらに加熱を続けると、ちょうどセ氏160度で、この物質は透明なガラス状になり、同時に重さも最初の100%に戻った。そんなことはありえないはずだが、何度繰り返しても同じ現象が起きた。ある冷却プロセスの時には、最初の重さが400%(4倍)に増えたが、再加熱すると今度は重さが無くなって、はるかゼロ以下になった。ハドソンの証言では、この時、サンプルは視界から完全に消えたという。
 その後サンプルを計量皿から取り除いた時、実験者たちは本来の空っぽの皿の方が、ホワイトパウダーゴールドが載っていた時より重いことに気づいた。これはホワイトパウダーゴールドに、その無重力・反重力を皿に転嫁する能力があるからだと思われた。つまり、計量皿まで一緒に“空中浮揚”したわけだ。

 物体の空中浮揚は、現代科学では超伝導状態で発生することが知られている。超伝導(超電導)は電気抵抗がゼロになり、磁場を閉め出し、はねつける完全反磁性の状態をいう。確かにホワイトパウダーゴールドも、冷却中でも加熱中でも超伝導体になっていることが分かった。だが、超伝導現象は目下のところ、人為的に冷却した極低温下でしか起こらないとされている。ホワイトパウダーゴールドが加熱と冷却によって超伝導体になったとすれば、これは新タイプの天然型超伝導現象ということになる。

ゼロポイント・エネルギー理論による解明

 ここまで事態が進展した段階で、ハドソンはテキサスの高等科学研究所所長、ハロルド・パソフ博士を紹介された。博士はスタンフォード研究所時代にリモート・ビューイング(遠隔透視)に理解を示した高名な物理学者で、近年はゼロポイント・エネルギー理論の第一人者として知られている。ゼロポイント・エネルギーとは、量子力学が正しい限り、真空に無限に存在する仮想エネルギーをいう。(=フリーエネルギー)
 パソフ博士は重力をゼロポイント・エネルギー波動の力と見なし、物質がこの三次元世界と別次元の両方にまたがって反応し始めると、理論上その引力重量(重さ)が9分の4を失うはずと予測していた。これは約44%で、実験中にホワイトパウダーゴールドの主さが、56%にまで減少した事実とぴたりと合致する。
 またパソフ博士は、加熱されたホワイトパウダーゴールドの重さがゼロ以下(反重力状態)になった時の計量皿より空っぽの計量皿が重かったのは、重力が時空の性質を決定するからで、この時点のホワイトパウダーゴールドは時空を曲げる“エキゾチックマター”(異状物質)だった可能性が高いとした。

 エキゾチックマターとは、ブラックマター(暗黒物質)と共に現代物理学で論争を呼んでいる仮想物質だ。重力とは逆の働きをする斥力(反重力)を持つ虚質量物質とされるが、ホワイトパウダーゴールドの重さがゼロ以下―マイナスになったのは、ゼロを境に重力ではなく斥力の作用を受けるようになったからだという。
 ただし、そのような物質はその時点では別の次元と共振しているので、こちらの次元では完全に見えなくなるはず、と博士は推測した。これもハドソンは、「確かに私のサンプルは、重さが無くなると視界から消滅した」と確認した。
 これは文字通り、並行存在する別宇宙―SFで言うパラレルワールド、時空の第五次元(この世界を三次元プラス時間次元として)に転移したことを意味している。とすれば、ファラオが死後に復活するとされた“光の軌道”とか、“ムフクズティの地”というのは、その第五の異次元時空を指しているのかもしれない。

 ガードナー/デヴィアの追加報告によると、ハドソンに発見されたこの不思議な物質が確かに単原子状態であることは、後にデンマークのコペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所、アメリカ・シカゴのエネルギー省アーゴン国立研究所、テネシーの同省オークリッジ国立研究所の3カ所でも確認された。金だけでなく、次々に変成するどの白金族の金属も単原子状態だったという。
 このハイスピン単原子パウダー、つまりホワイトパウダーゴールドこそが、太古の王たちを超人たらしめたスターファイアの代替薬―高進する火の石、シェマンナ、マナ、シェッファ、ムフクズティの正体であり、また真のラピス・エリキシル、賢者の石であり、現代のエキゾチックマターである。とすれば、これまで文明の謎とされ、人類の夢とされてきた様々な分野にまたがるスーパーテクノロジーが、いっぺんに達成可能な未来の現実に近づくことになるかもしれない。

 たとえば古代文明最大の謎、巨大ピラミッドの建設は、ホワイトパウダーゴールドの無重力・反重力作用を巨石の運搬と積み上げ作業に応用すれば、難なく達成できることになる。また、シュメールやエジプトの王たちがその“光の体”に必要としたスターファイア代替薬のように、ガンやエイズの特効薬、回春剤、老化防止薬などを含め、心身を改善する万能薬としての可能性も期待されるだろう。
 現実に「サイエンティフィック・アメリカン」誌1995年5月号に、白金族のルテニウムの単原子を短い鎖状のヒトDNAの両端にくっつけたところ、伝導性が1万倍も増加して、事実上の超伝導体になったと報告された。これは傷ついたDNAの修復の道を開く発見という。専門誌「プラチナ・メタル・レビュー」も最近、白金・イリジウム・ルテニウムのガン治療効果に関する論文を頻繁に掲載し、ブリストル・マイヤーズ・スキップ社という製薬メーカーも、「ルテニウム原子のDNA修復能力の抗ガン作用を研究する」と発表した。ハドソン自身も、獣医も見放したダニ熱、コクシ病、悪性腫瘍に苦しむゴールデン・リトリーバーに、ホワイトパウダーゴールドの溶液を1ccずつ注射し、3週間で完治させたと報告している。

 一つだけ最後に指摘したいのは、“時空を曲げるエキゾチックマター”としてのホワイトパウダーゴールドの可能性である。物理学専門誌「クラシカル&クォンタム・グラビティ」1994年5月号で、メキシコの物理学者ミゲル・アルクビエルがこう述べている。「今やこれは周知の事実となった。宇宙船が途方もない超スピードで飛行できるように、時空の形を変えることが可能になったのだ。それには宇宙船の後方の空間を局所的に拡大し、前方の空間を局所的に収縮させればよい―これはSFでおなじみのワープ推進を想起させる超光速飛行法である」
 続いて「アメリカ・サイエンティスト」誌1994年10月号で、マイケル・スズビアという物理学者が、いかなる物体も光速度は超えられないとするアインシュタインの相対性理論に、この“アルクビエル式ワープ推進”のアイデアがいかに違反しないかを証明してみせた。見かけの速度はとてつもなく大きいが、実際の加速度はゼロに等しいのだ。
 必要なのは収縮と拡大を繰り返して、見かけ上前方のひと塊の空間を後方に移転させることだけなのだ。それを可能にするのに必要な仕組みとは何なのか? アルクビエルはこう説明した―「時空に歪みを発生させるには、どうしてもエキゾチックマターが必要だ」

 アメリカのNASAは現在、恒星間飛行を実現するための革命的推進手段の開発を目的に、“ブレイクスルー推進物理学プロジェクト”を強力に押し進めている。この計画を1996年に立ち上げた動機の一つは、ハドソンのホワイトパウダーゴールドというエキゾチック・マター発見にあると、私は推測している―。




 

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