スターファイア(星の火)の謎 (その一)

 太古、地球に到来した“神々”―シュメールではアヌンナキと呼ぶ異星文明人―地球外知的生命体は、遺伝子工学を駆使して類人猿から人類を創り上げたという説がある。
 その時、選ばれた者にのみ、アヌンナキの遺伝子が授けられ、かくして王統の血族が誕生したという。だが、神々からもたらされたものは、もう一つあった。錬金術師らが求め続けた「賢者の石」がそれだ。しかし、その正体は「石」ではなかった。白く輝く黄金の粉だったのである。それは古代エジプトではシェッファ、シェマンナ、マナと呼ばれ、神々への聖なる供え物であり、ファラオが特別に食したものだった。
 実はその物質は、現代においてもアメリカの片田舎で偶然、発見されていた。
 ある農場経営者のひょんな発見から始まって、一つの謎の物質が、世界のトップ科学研究所、一流企業の研究者、政府科学者などの熱い注目を集めるところとなる。そして今現在も、我々一般大衆の与かり知らぬところで、その正体の研究と、実用開発が進められようとしている。それは究極物質―エキゾチック・マターとも呼ばれている。

ヒトと霊長類の決定的な違い

 あらためて言うまでもないが、今もアカデミズムの主流であり、教科書に載っている私たち人類が類人猿を祖先とする、という基本的なダーウィン理論には、どんなに想像力を働かせても私は同意できないでいる。生物学的に見て、極端に洗練化された私たち人類は、どう考えても猿から自然に派生、進化していったとは思えない。猿とヒトとのミッシング・リンクは存在しない。霊長類―猿は何万年経っても言葉を喋り出したり、宇宙船やコンピューターを作ったりすることは絶対にないし、芸術を創造したりはしないだろう。映画の『猿の惑星』のようなわけにはいかないのだ。私たち人類のような進化は猿にはない。ただ、異なるだけである。

 ある遺伝学者のグループが、彼らが仮定していた共通の祖先から、人類とチンパンジーの二つに分かれる時点を正確に決めようとした。旧人類学者は、その分岐点が500〜800万年前に起きたことを示すタイムランを、化石化した骨から示した。そこで遺伝学者たちは、人体の細胞の核の外にある小さなDNAのかけらであるミトコンドリアに起きた突然変異を図にすることによって、分岐点の時点を見極めようと試みた。
 彼らは世界中からサンプルを集めながら、その研究を急いだ。ところが、その結論は、彼らの誰一人として予想もしていないものだった。驚いた彼らは何度もサンプルを調査したが、その結果は変わらなかった。彼らは発表するのをためらった。発表すれば、旧人類学者をはじめとして、他のあらゆる専門家から論争の火花が飛ぶことを、彼らは知っていたからだ。新しく導入されたデータとは、現生人類が出現したのはおよそ20万年前にすぎないという発見であった。予想したように、轟々たる抗議と批判は耳をつんざくように起きたという。
 時が経過するにつれて、ミトコンドリアと男のY染色体に関する多くのDNA調査から、現在ではその遺伝学者たちが正しかったことが認められつつある。抗議をした旧人類学者たちもそれを受け入れるようになったのは、遺伝学者たちが「人類は類人猿から進化した」という「前提」だけは崩していないからである。
 その後、旧人類学者たちは、500万年前のアフリカで直立に歩く人類の原始祖先が誕生し、10〜20万年前に「何か」が起きて人類はほとんど消滅し、その少ない生き残りが今のような人類になっていったという説を主張し続けている。

 私たち人類が種として始まったその時期や、その時代の情況についての論争は別においても、人類には多くの不可解な問題が残っている。人為的に作られた植物や家畜などと同じように、人間というのは古典的なダーウィン論が描くパラダイムからはるか外れたところに属しているものに思える。
 実際に霊長類と人類の性質ははるかにかけ離れていて、人間には地球で発達したようには思えない性質が沢山ある。にもかかわらず、あらゆる科学的見解によって、人間が他の全ての霊長類や、特にチンパンジーやゴリラと非常に密接に関連する霊長類であると、我々は教えられてきた。この定説は私たちの精神に深く巣食っていて、二つの違いを比較すること自体がナンセンスとされている現状である。

 染色体には最も不可解な違いがある。霊長類には48個の染色体があり、人間には46個の染色体がある。人間は霊長類よりももっと広い領域において優れていると考えられているが、それならばなぜ人間の方が、霊長類の染色体よりも少ないのか? 霊長類から進化したのであれば、なぜ、その途上で人間は二つの(一対の)染色体を失くしたのかという疑問が生じる。
 一般に知られているダーウィン論的な統計として、人間の総ゲノム(全てのDNA)1%だけゴリラと違い、チンパンジーとは2%異なるという結果が出ている。
 この事実が、人間が霊長類から進化したという説の強力な裏付けとなってきた。しかし、その1〜2%のヒトゲノムには、30億の塩基対があるということは強調されていない。
 これが非常に大きな違いを遺伝子的に生じさせることは言うまでもない。

「ヒトゲノム・プロジェクト」によって、最近、人間の遺伝情報の解明が進んできた。
 それによると、人間の10万から14万の遺伝子を発見する見込みがあったが、実は3万ほどしかないことが分かった。人間とチンパンジーの遺伝子は、93〜98%までが全く同じだと解明された。しかし、人間の中にそれまでの進化の過程にはなかった223個の遺伝子が発見された。科学者が首を傾げた理由は、これらの遺伝子はどこから来たのか、ということだ。説明としては、バクテリアの影響によるものだという仮説があるが、検証されていない。223個とは、人間の遺伝子のほぼ1%に当たり、それは人間のチンパンジーの違いが1%から4%であるのと同じレベルの量と言える。従って、人間が猿から進化したという仮説は、この223個の遺伝子によって覆される。
 その1%の大部分は、言語と同様に論理的・抽象的な考えや創造性といった脳機能に集結されているように考えられている。
 現代科学の最大の謎の一つは、人間の進化であり、ここで述べた情報ではダーウィン理論は全く通用しないことになる。

 誰でも知っているように、コンピューターをプログラムするには、プログラマーを必要とする。世界で一般的に使われている「ウインドウズ」が、ある日突然現れたとは誰も言わないくせに、人類の起源に関して科学者たちは、誰もそのプログラマーの存在について触れないできた。地球の歴史において、石器時代から現代までのほんの一瞬に過ぎない短い期間に、宇宙船を飛ばすようになった我々は、偶然が重なって遺伝子的にユニークな種としてこの惑星に誕生したのだろうか。進化のタイムスケールからすると、現代科学を利用しない限り、新種を進化させるには数百万年という気の遠くなるほどの時間を要するものだからだ。ここで私が言いたいことは、人類の原点と歴史を明確に理解する上で、プログラマーの存在を考慮に入れなければ、人類発祥の真実には近づけないということである。
 私たちはなぜこれほど高度な脳を有しているのだろうか。地球で生きていくのに、これほど高度な脳は必要ないはずである。霊長類の脳で十分生きていけるのだから。
 その一つの答えとして、ロシアの科学者が検証した、私たちヒトの脳の90%以上は活性化されていないという研究報告が挙げられる。分かりやすい例として、宇宙はインターネットのようなものと考えてみよう。そして脳は、様々な情報を受け取るコンピューターのようなものである。未だ90%が活性化されていない脳は、一応電源は入っているものの、インターネットへの繋ぎ方も知らないコンピューターであり、私たちは何の情報にもアクセスできないでいる。
 しかし本来の脳は、宇宙に偏在する情報に直接、アクセスするために存在していると私は考えている。

“神々”の遺伝子

「有力な大統領候補は皆、高貴の血筋!」
 次期大統領選を翌年に控えた1998年10月28日。全米の各紙がそんな時代離れした感じの見出しをつけて、AP通信社から配信された記事をいっせいに掲載した。
 ヨーロッパ王侯貴族の血統・家系の権威ある調査機関「パークス・ビアレージ」の情報データに基づいたというその内容によれば、初代ワシントンから当時の現役大統領であるクリントンに至るまで、アメリカの歴代大統領は全員、祖先を辿れば必ずいずれかの王族の血を引いており、複数の候補者が立った場合、常に例外なく最も高貴な遺伝子の継承者が勝者となってきたというのだ。しかも、この高貴な遺伝子の系譜をどこまでも辿れば、行き着く先は世界最古のシュメール、エジプト、イスラエルなどの古代文明に君臨した王族の血筋につながるという。
 真実かどうかはともかく、この傾向は現代ヨーロッパの民主制・共和制諸国の元首や首長でも同様だとしている。「世界は太古の時代から、特定の遺伝子プールに属する血族によってひそかに支配されてきた」とするこの世界史観は、いわゆる全地球的陰謀史観のバリエーションの一つだが、その主張者はけっして少なくない。
 この仮説を昔ながらの“王権神授”説の現代的な遺伝子DNAバージョンと見なせば、我々日本人も、古代から天皇制の国柄を続けてきただけに、それなりの理解はできそうだ。
 ところが、高貴遺伝子プール説を唱える論者に言わせると、彼らの説には立派な生物学的根拠があるという。まず王権神授説の最重要ポイントは、一神教で言う神、多神教なら神々に王権が由来するという主張だが、この神とか神々は、けっしてただの神話的・宗教的な抽象概念ではなく、あくまで具体的な実体を持つ存在だったというのだ。
 とりわけサー・ローレンス・ガードナーやニコラス・デヴィアら近年の代表的な全地球的陰謀史論者は、神や神々の正体は地球外からやってきた異星文明人と確信している。

 神話や古代宗教の“神・神々”が異星人だったという発想は、1980年代に入って、イスラエル出身の考古・言語学者ゼカリア・シッチンがアヌンナキ(天より地に降りし者)神族説でさらに発展させた。中東のほぼ全言語に精通するシッチンは、紀元前4000年前後に誕生した最古のシュメール文明まで遡るメソポタミアの粘土板楔型文字をはじめ、古代世界の神話伝説に関する大量の文献を、天文学から人類学にまで及ぶ最新の科学知識と照合分析し、その解読結果に基づいて「太古の地球に飛来したアヌンナキ神族が、類人猿を改変して人類を創造し、文明を開花させたという壮大で体系的な“地球年代記”理論を構築した。

 西洋の王侯貴族と中世の騎士伝説に精通する歴史家で系譜学者のガードナーとデヴィアも、シッチン学派に数えるべき研究家で、その高貴遺伝子プール説も“アヌンナキ神族”が起点となった王統に属する血族がひそかに地球を支配してきたと主張するものだ。
 シッチン学派の研究家たちは異口同音に聖書宗教(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)のどの聖典でも唯一神として崇められている神が、その原型である古代エジプトやシュメールの神話体系にまで遡るばかりか、実は対立する兄弟神を一人の神に合成したものであることは明白だと指摘する。
 たとえば“ノアの大洪水”の話では、信心深いノアの一家に箱船を作らせて助ける神(英語でロード―主、ヘブライ語でアドン)も、大洪水をもたらして堕落した人類を罰する神(英語でエホバ、ヘブライ語でヤハウェ)も、同じ一人の神と見なされている。
 同様に、背徳と退廃の街ソドムとゴモラを神が地上から消し去る話でも、街を破壊する神とそれを事前に教えて善良なロト夫婦を逃がしてやる神は、同じ神のように記述されている。
 だが、ガードナー/デヴィアによれば、西暦1世紀末にユダヤ教・キリスト教の幹部たちが、旧約・新約両聖書に含めるべき文書を正典、除外すべき文書を外典・偽典と区別して現在の形に決定するまでは、どの文書でもロード/アドン神は豊穣と叡知の神、エホバ、ヤハウェ神は激怒と復讐の神と、はっきり異なる神として扱われていた。
 とりわけそれが明確なのは、エノク書、ヨベル書、エホバの戦いの書などのいわゆる外典、または偽典の類で、「神は唯一の存在」と教える正典との矛盾がはなはだしいという。 それらの文書が正典から外された真の理由も、キリスト教会にとって、一神教としての布教戦略上、唯一神が複数ではいかにも具合が悪かったからだと、彼らは指摘している。

対立する兄弟神エンキとエンリル

 この対立する2大神という構図は、「旧約聖書」中の多くの物語の原型が登場する紀元前3700年頃の粘土板文書に記されたシュメール神話では、さらにはっきりする。
 ここでは、アヌンナキ神族の二人のリーダー、長子だが年下のエンキと次子だが年上のエンリルという複雑な異母兄弟神が対立する。エンキとは、“アーキタイプ”(祖型、原型)という意味で、これは旧約冒頭の「創世記」で、「神言い給えるは、我らに形どりて、我らの像のごとくに、我ら人を造り」とある有名な個所にも通じる。
 エンキはアヌンナキ神族の優れた資質を分け与えて(つまり類人猿のゲノムを自分たちの遺伝子で改造して)、人類の祖先アダバまたはアダマを創造したとされるからだ。
 むろんこれは聖書のアダムの語源だが、本来の意味は「地の子ら」で、男女を含めた人類全体を指す。シュメール神話では男はアタバ、女はアヴァで、合わせてアダマとしていた。
 さらに、エンキは弟のエンリルが激怒するのもかまわず、アダバの子孫であるシュメール人が“知識の樹”と“生命の樹”に自由に近づくことを許す。これは無知蒙昧な状態だった人類に文化を授けるという意味だろう。これに対してエンリルは、人類の教化・啓蒙に終始反対し、ついには二つの街ウルとバビロンを破壊する。

 そしてガードナー/デヴィアの主張では、古代文明の諸王国を統治した王統の血族は、エンキ神によって特別に“選ばれた一握りの者たち”で、人類のリーダーにふさわしいようにと、アヌンナキ神族の中でも最高の資質を誇る至高神アヌ(エンキとエンリルの父親)一族の遺伝子を授けられたおかげで、統治能力を発揮することができた―王権神授説の真の意味はそこにあるというのだ。
 旧約・「創世記」では、人類の祖アダムからノアまでの系譜が、名前を挙げて延々と記されている。妻エヴァ(イヴ)との間に生まれた長男のカインは、次男のアベルを妬んで殺したため、永遠に呪われた者としてエデンから追放され、アダムの正統的な血は、次に生まれた第3子のセツからノアまで受け継がれていく。弟殺しのカインは、原罪を背負いながらも主の恩寵の下に生き続け、その末裔はメソポタミアとエジプトの王たちとなったことが「創世記」中でさり気なく記されている。

 だが、ガードナー/デヴィアは、ロード(エンキ)とエホバ(エンリル)は別々の神という観点に立って、「カインは実はアダムの実子ではなく、エンキ神の子だった」と主張する。「創世記」自体にさえ、エヴァがアダムに「私は主によってカインを授かりました」と告げる場面がある。ユダヤ教文書のタルムード(律法書)やミドラシュ(注釈書)など旧約関連の古文献では、もっと明快に「カインの父親は主なり」と記されているという。結論としてガードナー/デヴィアは、エンキ神の高貴な遺伝子の流れが、中東の古代諸王朝以降、紀元前10世紀のイスラエル王ダビデとソロモン、紀元前5世紀マケドニアのアレクサンダー大王などを経て、救世主イエスを生み、5世紀イギリスの英雄アーサー王やヨーロッパ諸王家に分岐しながら、現代にまで至ったとしている―。


*写真・図版は『ムー』2005年9月号/『太陽の暗号』エハン・デラヴィ(三五館)より転載


 

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