〜 レポート 〜 9.6 地震の夜


 未明の午前3時8分頃、小刻みに激しく揺れる地震の揺れで目が覚めた。下から突き上げるようなその揺れがどんどん強くなり、20秒を過ぎる頃、ようやく収まっていった。
 我が家は団地アパートの5階だが、ここ数年では感じたことのないほどの強い揺れで、少なくとも震度5弱はあっただろうと直感した。震源はどこか、ニュースの速報を見ようとしたが、直後から停電が始まり、室内のテレビ、ラジオは使えなかった。
 震源地として最初に頭に浮かんだのは、最近、その周期による発生が確実視されている根室沖のプレート境界付近で起きる海溝型巨大地震が起きたのかということだった。M8〜9と予測されるその巨大地震が起きれば、「3,11」の時のような巨大津波が北海道の太平洋沿岸、東北の太平洋岸に到来することも想定されている。もしかして、遂にそれが起きたのかと緊張した。
 見たところ、強い揺れを感じた割には部屋の中では壊れたり、倒れたりしたものもなく、本棚の本が落ちるくらいのことで済んだ。

 下の駐車場に降りて愛車アレックスのエンジンをかけ、カーラジオでニュースを聞いた。―先程起きた強い地震は、震源地は北海道胆振地方厚真町、最大震度は6強、M6.7 。
 震源地をはじめ、鵡川、苫小牧、千歳、江別、岩見沢、札幌などで震度6強から5弱、さらに全道の広い地域で震度4から3の揺れを観測した…といった第一報が流れていた。
 まだ深夜でもあり、被害の状況はほとんど分からなかった。
 この時既に、全道295 万戸の一斉停電―ブラックアウトという前代未聞の事態が始まっていた。

 それは震源の近くにあった北電の苫東厚真火力発電所が、地震によって損傷し、ストップすることで他の発電所が需要電力を供給し切れず、フェイルセーフが働いて一斉に停止することで起こった。苫東火力発電所の損傷し、過熱したボイラーの写真が出ていたが、これが原子炉だったらと想像せずにはいられなかった。もし、苫東発電所が稼働中の原発だったら、ほぼ間違いなく「第二のフクシマ」と言うにふさわしい苛酷事故に至っていただろう。

 朝になっても停電は続いていた。頼りはクルマのカーラジオのみ。ちなみにカーテレビはなく、私はスマホも持っていない。その朝、いつものように届いた新聞の朝刊は、今し方の地震とは全く関係ない前日までの出来事と日常を伝えていた。停電は続いていたが、ここ厚別区のもみじ台団地では水道も都市ガスの供給も支障はなかった。電気は無くても水と火があれば、十分生活できる。

 7時半頃、クルマで一応仕事の現場に向かったものの、道路の信号が全部消えている。
 ほどなくケータイに会社のスタッフから連絡が入り、地震の影響で今日の仕事はキャンセルになったとのことで、自宅へ引き返した。
 道すがら見たコンビニやスーパーの前では、どこも人々が長い行列を作っていた。普段から小食で、冷蔵庫の中はいつもスカスカな私としては、自分も何か食い物を買っておかねばと焦る気持ちは全くなかった。
 自宅へ帰っても、何の情報も取れず、することもあまりなかった。カーラジオで度々確認してみると、震源地の厚真町をはじめとして、各地でがけ崩れ、道路、建物の倒壊が多々発生しているらしいことが分かった。札幌でも震度5強を観測した清田地区では地盤の液状化現象によって多くの家屋が被害を受けたという。

 朝方はろくに寝れなかったので、昼寝をして起きると既に日が暮れ始め、ローソクの灯の下で夕食という次第になった。その夜も依然、停電は続いていた。ラジオもCDも聴けず、ギターを弾いてローソクの灯を見つめる一夜。こんな夜は何年、いや何十年ぶりか。
 北海道全域が停電するなど、まず滅多にないことだった。
 電気のありがたさをあらためて感じたが、それは照明だけでなく、現代社会、都市機能の各種インフラ、公共システム、企業の活動、テレビ、ラジオ、新聞、出版などのメディアを支え、その媒体となっている。つまるところ、電気が止まれば、あるいは使えなくなれば、現代文明のほぼ全て、インターネットからAIに至るまで止まるのだ。そして、あらゆる情報の流通も止まるだろう。

 ネットは機能していたので、スマホがあれば情報にアクセスすることができた。地震発生時からしばらく、どこでも誰もがスマホをお守りのように握りしめ、その画面を食い入るように見つめていた。災害時こそスマホが頼りということだろうが、来る大地震―たとえば南海トラフ地震の災害想定でも、停電はありえても、インターネットそのものがダウンすることまでは想定されていない。今回、北海道全域の停電という未曾有の出来事を体験してみて、大都市圏で震度6強とか7といった直下型地震が起きたら、より深刻なインフラ機能の破壊、喪失が起こり得ることが見えてきた。
 今やテレビよりもスマホが一番の現代日本人は、それが何日もまともに見れず、復旧のめどは立っていないなどと言われたら、パニックに陥り、自分を失ってしまうような気になるのではないか。

 夕方、豊平区月寒に住む弟から「大丈夫?」と、ケータイに連絡が入った。弟は「北方ジャーナル」誌の代表、編集長でもあるが、雑誌の次号の校了直前の大事な時に地震と停電に見舞われ、おかげで雑誌の発行は大幅に遅れ、今後の予定も狂ってしまったとボヤいていた。
 現代日本人にとっては全く不慣れな電気(の明かり)のない夜、その生活だが、私自身は若い頃、自発的にそういう環境での生活を体験した。75キャラバンの旅では、夜のキャンプは電気はないのが当たり前だったし、携帯ラジオさえ持たなかった。奄美の枝手久島では、電気も電話もない日常の生活を計数カ月に渡って過ごした。
 電気はない代わりに、夜は囲炉裏の火やランプやローソクの灯を見つめる時間。ラジオの音声もテレビの画像も入ってこない。外は海鳴りと虫の音が聴こえる無人島の海辺。寝るにはまだ早い。自然と瞑想の時が始まる。

 翌朝、9月7日朝刊の「北海道新聞」の一面大見出しには驚いた。

“厚真震度7 道内全戸停電 北海道胆振東部地震 土砂崩れ、

 住宅倒壊 5人死亡 4人心肺停止 28人安否不明”

 北海道で震度7が観測されたのは、観測以来初めてのことだという。それは震度5弱程度の揺れとは比較にならないほど強烈なものだっただろう。内陸型活断層地震の特徴として、短周期の激しい縦揺れが約20秒ほど続いた。地震学者の解析によると、地震のエネルギーを示す指標の一つである重力加速度は1316ガル。この数値はかなりのものだ。「3.11」の地震の時でも、福島第一原発で観測された重力加速度は540 ガルに過ぎなかった。1316ガルの地震が原発直下で起きたら、仮に原子炉本体は無事でも、配管は到底もたないだろう。
 ちなみに今回、泊原発では外部電源の喪失によって、非常用電源が作動したが、外部電源の回復に9時間を要し、何とか核燃料の冷却を維持できたという一幕があった。ここでは地震の揺れはほとんど伝わってこなかったが、電源を失うだけで危機的状況に陥ることは全ての原発に共通している。

 新聞で今回のような巨大活字を目にするのは久々のことで、2011年の「3.11」の時に匹敵する大見出しである。停電はまだ続いていた。依然としてテレビもネットも見れない私は、地震を伝える新聞の記事を繰り返し読んだ。
 地震と停電の影響で物流輸送もほぼストップしており、明日の土曜日も含め、今週いっぱいは仕事の現場はありそうになかった。午前のうちに開いているスタンドでクルマにガソリンを入れ、当面の食料を少しでも確保しておこうと、近場を回ってみた。
 既に主要道路の信号は回復していた。いつも給油する店は閉店状態で、区役所の近くまで行って営業しているスタンドを見つけ、延々と続く順番待ちに並んで、千円分ほど給油。回ってみると、停電でも開けているコンビニやスーパーの前は、どこも人々の長蛇の列。そうやってやっと買い物ができても、生鮮食品はまず手に入らなかった。

 私もセイコーマートでタバコ「フォルテ・オリジナル」3箱と8袋入りドリップコーヒーを買い、マックス・バリューの青空販売コーナーでアンパンとカップうどん、おでんパック一袋を購入。いつもの買い物とさほど変わらない。タバコとコーヒーだけは一週間近くは切れないよう確保した。
 昼を過ぎ、日が暮れて夜になっても、まだ停電は続いていた。昨日に続いて再びローソクの灯の下で夕食を作り、はてさて今宵も電気は来ないままかと悄然としていたら、8時過ぎ頃、突然、それが来た。居間の蛍光灯が瞬いて点いて、冷蔵庫のモーターがウィーンと起動する。文字通り、その時何かがパッと光る感じがした。
 こっちも思わず拍手し、「バンザーイ!」を三唱したくなったほどだ。
 私自身を含め現代日本人は、生活全般も意識自体も、いかに電気というものに深く依存し、切っても切り離せない関係になっているかということを、あらためて実感させられた。我々は、空気や水と同じくらいに生きていくために電気を必要としている。そして実は電気とは宇宙の光そのものであり、星や生命体を生み出す素子であり、意識を構成する因子でもある。だからこそ人間は、電気(光)が来ると本能的に歓びを感じる。

 電気が点いて一気に明るくなって、テレビやラジオ、CD、テープも見たり聴いたりできるようになって、大事な家族が帰ってきた時のように部屋の中が一気に明るく温かくなった。ただこうしていられることだけで感謝したい気持ちだった。

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 地震発生から三日目、9月8日。停電は全道でほぼ回復したものの、需要を満たすには安定供給が厳しく、通常でも10〜20%の節電が呼びかけられ、場合によっては計画停電も実施するという経産省の声明があった。苫東火力発電所の損傷が予想異常に激しく、完全に復旧するには一ヵ月以上はかかることも分かった。
 コンビニ、スーパーの食品の生産、流通のシステムも未だ回復せず、どこを探しても卵、納豆、豆腐、漬物、といった生鮮食品や、パン、牛乳がない。
 新聞は通常通り配達されていたが、雑誌、書籍の配送が通常より3日以上は遅れていた。ここ北海道では通年でも大雨、台風、大雪などの天候異変の度に雑誌、書籍の配送が遅れる。今回は地震と停電が重なり、影響はなおさらだった。今回のような地震や広域の停電が起きても、新聞社で輪転機が回って新聞を印刷・発送するのが可能な限り、大災害時、電気が失われてネットすらも使えなくなっても、情報を伝えるメディアとして残るのは、意外と新聞等の紙のメディアかもしれない。

 今回の地震による死者は計41人に上った。そのほとんどが震源地の厚真町、安平町、鵡川町に集中している。山崩れにって麓の集落の家々が呑み込まれ、潰されたことによるものだ。慎んでご冥福を祈りたい。震源域が人口の少ない山間地だったからこそ、まだしもこのくらいの死者数と被害で済んだ。震源地がすぐ近くの苫小牧や千歳、あるいは札幌などの大都市圏だっら、震度6強〜7の揺れによって、桁違いの被害と破壊をもたらしていただろう。札幌の東には、M7以上の地震を起こしてきたとされる大きな断層帯がある。札幌市では、その直下型地震が起きた時のシミュレーションもしている。今回の地震を体感してみて、ここ札幌がいつ震源地になってもおかしくはないとリアルに感じた。これで終わったと、夢ゆめ油断はできない。
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 この地震の発生後、「数時間後に大地震が来る」などという全く根拠のない情報がインターネットのSNSを中心に拡散し、市町村に問い合わせが相次ぐケースもあり、迷惑と混乱を拡散した。情報は、自衛隊や消防関係者の話として「地鳴りや地響きを確認した。5〜6時間後に本震が来る」「地震計が異常な数値を示した」など不安を煽る内容が大半。ツイッターやフェイスブック、ラインへの投稿を閲覧した人が「避難して」「怖い」などの書き込みと共に転載し、その情報が広がった。誤った情報への注意を呼びかける投稿に対し、「その情報こそデマじゃないのか」などと反論する書き込みもあり、混乱に拍車をかけた。
 苫小牧市では8日夜になってSNSを見た市民から「本当に大地震が来るのか」などの問い合わせが殺到し、「2時間ほど電話が鳴りやまなかった」(危機管理課)という。

 そもそも自衛隊や消防関係者が、地鳴りや地響きから地震発生を予測し、それを匿名のSNS投稿者に漏らすなんてことは、まずありえない。地震の専門家でも「5〜6時間後に本震が来る」などと予知したことは一度もないのに、自衛隊や消防関係者になぜそれが分かるのか。これまで起きた大地震のどれ一つをとっても、発生する数日前、あるいは前日に、予兆をとらえて地震学会や気象庁から警報が出されたことは一度もない。同じく、ネット上のSNSやツイッターで、この手の災害の予言で的中したものは、未だ一つもない。土台、SNSのニュースや書き込みに依って事実を知ろう、判断しようとしていること自体がおかしいのだ。これからも、公的機関からも、SNSでも大地震発生の警報が事前に伝えられることは、けっしてないだろう。

 この夏、日本列島を覆った異常な酷暑、到来する台風の多さとその風雨被害、異常な豪雨による洪水、山崩れ…と、地震のほかにも気象異変、異常気象によるとされる災害が、この数年に限っても、いや増している。メディアはすぐに、CO2 増大による温暖化に結びつけるが、世界的規模で異常な熱波―酷暑や台風、豪雨といった気象異変が激増していることは確かだが、それがイコール地球温暖化によるものか、CO2 増大が関係しているとか単純に決めつけられない。

 地球という惑星は、太陽を中心として、太陽系空間を航行する解放系として存在している。地球の気象の全てに太陽が大きく関係している。現在の一般的な気象異変、地球温暖化に関する議論には、その視点が完全と言っていいほど欠落している。土台、太陽からの光やエネルギーが無ければ、地球上の生命は一日も生きられず、雨、風、雲、台風…といった気象現象も起こり得ないのだ。さらに未知の要因として地球に降り注ぐ宇宙線の増加、太陽系空間のプラズマ雲との干渉がある。
 太陽は現在、黒点の発生が減少した活動の極小期に入っているが、太陽系の外惑星―木星、土星、海王星といった惑星では、磁場が強まると共に、NASAの探査衛星によって、その表面でこれまでなかった活発な現象と異変が起きていることが観測されている。最果ての軌道を回る冥王星では、大気が増大し、明るさを増す現象が認められている。NASAやロシアの科学アカデミーの天文学者が認めていることだが、太陽系は銀河系の中の局所星間雲と呼ばれるエネルギー領域に突入しつつあり、それは星間物質やガスから成るプラズマの雲のような領域だ。それによる衝撃波が太陽系深部まで雪崩込み、全ての惑星と太陽そのものに強く影響を与えているのだ。地球の温暖化、あるいは気象異変も大元を辿ればそこへ行き着く。

 そこに加えて、近々にもオリオン座のベテルギウスは超新星爆発を起こして、満月の百倍もの明るさで夜空に輝き出すかもしれない。それは昼間でもはっきりと見えるという。
 その時、全世界で人々の誰もが、嫌でもそれを仰ぎ見るようになる。私たちはそれに、あるいは何かの徴(しるし)を感じ取るだろうか―。




 

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